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辛口ミリアとサンドイッチ‐その2‐


 ほー、広いねぇ。


 流石はお城、高校の学食とは一味も二味も違う気がした。


 ずらっと並べてある長机とベンチには人が集まって座っている。それでも、もう昼休みが終りに近い所為か、人は疎らになりつつあった。


 要するに、ちょっと雰囲気がヨーロッパ的な食堂ってとこかな。


 トレーに自分の分を乗せるみたいだし、多分システムは学食とかと同じだと思う。


 あ、見知った人たちはっけーん!



『マーサさん、リュクスさん、サイモンさんにエルさん!』


 声をかけるとすぐに振り向いてくれたみんなは、明るい笑顔を向けてくれる。さっきまでの黒い気持ちはどこかへ行って、安心感が胸一杯に膨らんだ。



「おう、ネイ。今しがたリュクスに聞いた。…お前、記憶がないんだってな。」


 なにー?!


 いきなりテンションが低くなるエルさん。それぞれの顔色を覗ってみると、みんな暗い顔をしてる。ってことはそう信じてる訳で。


 りゅ、リュクスさんのおバカー!何でさっきの今でもう話してんのよ。


 まぁ、忠犬だろうから、悪気はないんだろうけどさぁ。


『いや、あの…それは、ですね…「いいんだ!」


 またこのパターンか!いい加減飽きてきたぞ。


「俺、何でもするからな。ネイがやりたいことはなるべく叶えてやる!だから、記憶が戻るまで、何も心配することはねえ。安心しときな。」


 はい、また弁解できないままですよ。


 エルさんは涙を拭いながら厨房の方へと駆けて戻って行ってしまった。


「何がどうなってるのかは分かりませんが、とりあえずお昼を摂ってしまいましょう。」


 ミリアの言葉は有り難かった。何とも勘違いが激しい人たちだ。私にはこのまま止めることはできないんだろうなぁ。これからはミリアに任せよう。


 私は無視を決め込むことを決意した。


「ネイには複雑な事情があるってことは聞いてたけど、そう言うことだったんだね。」


 う゛っ!マーサさん、首、絞まってます!!


 何やらマーサさんまで勘違いしちゃったらしく、私は首元を締め上げるかのように抱き締められていた。


「マーサさん、ネイ様を放してあげて下さい。そのままでは花畑を見ることになってしまいますよ。」


 冷静に、しかも食べるのを止めないままミリアは言った。


 助かったけど、やっぱりミリアは裏が存在するのね。誰にだって裏側はあるのかもしれないけど、ミリアの場合は普段が明るくていい子だからか、ちょっと、いや大分怖い。


 ミリアだけは敵に回さないようにしよう。これもまた心のノートにメモっておいた。


 解放された私は、食事に手を付ける。


『うん、素材そのものだ。』


 頷きながら食べる。ミリアはもう慣れていたようだけど、マーサさんはそれが不思議だったみたいで尋ねてきた。


『私の食べ慣れていたものとは味付けが違うのです。』


「そうか、記憶をなくしても身体は覚えてるってやつだね。」


 勘違いは続行中で、私はもうそれでいいと思って、記憶喪失なんかじゃないと言うのは止めておいた。


 ミリアに続いて食べ終わると、お茶を飲みながらため息をひとつ。午前中の間にいろいろありすぎて、ちょっと疲れちゃった。


 人と接するのが苦手って訳じゃなかったはずなのに、この短時間で会った人たちはみんな個性的過ぎて。その強烈なキャラにクタクタだった。


 もしかしたら、しばらく決まった人以外と会話を交わしてなかったから、急に人がたくさんいるとこに出て来て、人酔いしちゃったのかなぁ。


「大丈夫ですか?」


 マーサさんは仕事に向かったらしく、目の前には心配をかけてくれる人が一人だけいた。


 大丈夫、と小さく零すと、お茶を一気飲み。それをトレーに置くと、ミリアが片づけに行ってくれた。


 さてと。これからどうしようかな。


 とりあえず、私の中でクーンさんの仕事時間短縮計画を進めるために必要な事を考えなくちゃ。


「どうしました?そんな怖い顔して。」


 急に声がかかる。聞いたことがある声。


『レークさんっ!』


 声がした方を向くと、ここ数日一番一緒に居た人がいた。


「服を大胆にいじられましたね。“ニホン”では手足を出すのが批判的には捉えられていないため、当たり前なんですよね?」


 ひたすら話してたから、クーンさんは地球についての知識を、今じゃかなり持ってる。ニコニコしながら話す姿に、はい、と答えると、その瞳はキラキラしていた。


「よくお似合いですよ。人形のように愛らしいですね。」


 う~ん、嬉しくない。人形って…子供じゃないんだから、違う褒め言葉にして欲しかった。


 ん?てゆーか、褒め言葉だったのかな?


 レークさん、異世界の研究が進まないからお昼にでも話をしようって昨日言ってたけど、それを本当に実行するとは。確かお祭りの準備で忙しいはずなのに、大丈夫なのかなぁ。


「あー!神官様発見!!」


 “げ、見つかった”、そう呟きましたね、今?逃げ出してきたんかい!


 あれよあれよと言う間に、レークさんは白い服を着ている人たちに引きずられて行ってしまった。



 何だったんだろうか?


 呆然と立ち尽くしてると、ミリアが帰ってきて言った。


「私は仕事に戻りますが、ネイ様はどういたしますか?」


 おそらく一部始終を見てたはずなのに。全く動じてないし…


『うーん、とりあえずクーンさんの仕事時間を短縮させる方法を考える。っと、その前にご飯持ってこうかな。』


 私も気にするのを止めて、意識を別のことに持っていく。


「厨房の方に行けば、エルさんがいますから、相談すれば何とかなると思いますよ。


 それと、クーン魔道師さまの仕事時間を短縮する方法は、私も考えてみます。」


 ミリア万歳!


 私は嬉しくなって飛びついた。


『ありがとう、ミリア!』


 ミリアは固まったままだった。


 ちょっとくらい反応して欲しいんだけど…無反応だと対応できない。


「…ネイさまは感情の表現が豊かですね。」


 遠慮がちに言われたけど、そうは思わない。感情表現が一番なのは、多分リュクスさんあたりだ。


『ごめん、五月蠅かった?』


「いえ、そういうことではありません。」


 少し言葉を濁す。そんな事されちゃあ、余計に気になるってのが、人間の性。


 でも、ま、時間も無いし、そんなことしてる場合でもないんだけどね。


「とにかく、何でも協力しますから。ネイさまはそのままでクーン魔道師さまに接してあげて下さいな。」


 了解、と残すとエルさんに会うために厨房まで行ってみた。









 すごいお皿の量。まず最初にそう思った。


 洗い甲斐があると言うか、何と言うか。それはそれは半端ない数の、使用済みの皿が山積みになっていた。


「お、ネイじゃねーか。どうした?」


 困ったことでもあるのかい、と聞かれ、その表現にさっきのことを思い出す。


 結局私は記憶喪失ってことになったままなんだよね。って言っても、もう弁解する気は更々ない。


 人間ってのは学習するモノですからね。いい加減、何を言っても私が気を使ってるっていう風にしか捉えてくれないって分かってるもん。


 それに、さっき思った。このヘンテコな設定は使える。だって、さっきのご飯もよく分からない野菜がいっぱいあった。


 って、ことは、だ。


 記憶喪失で全ての記憶が無ければ、きっと知らないことだらけでも変には思われないはず。


 そう納得して、本題に入った。


『クーン魔道師さまが時間が無いっておっしゃるから、何か軽いものでも作って行こうかと思って。協力、してくれませんか?』


 ゆっくり、見上げて懇願するように言った。


 策士とでも何とでもお言い。私、腹黒いですからね!



「あ、ああ、もちろんさ。」


 イエス!作戦成功ってことで、目的の実行はサクサク行きましょ。





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