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辛口ミリアとサンドイッチ



 自分の格好に奇異の目を向けられてるとか、廊下は走っちゃいけないとか関係ない!(いや、関係あるだろう。)


 私は我が主のために頑張ります!


『たのもーっ!』


 バンッ、と思い切り扉を開けた。そこにはたくさんの女中さんたちが、当たり前だけどいらっしゃいまして。すごい数の視線を集めてしまった。



 やっちまったぜ!


 知った顔の方に目を向けると、二人とも頭を押さえていた。


「…ほら、あんたたち!さっさとご飯食べないと午後の仕事に間に合わないよ。」


 その度胸に感服。マーサさんの粋な計らいで何とかそこにいた女中さんたちは私を気にして酷く後ろ髪を引かれてるような感じだったけど、女中部屋からは出て行った。


「もう!急に飛び込んで来てはダメでしょう?


 そうでなくてもネイ様は目立つのに。」


 はい、怒られてます。


 反省?御覧の通り、もちろんしてますよ。ほら、ちゃんと正座。


 てゆーか、ミリアって怒ると怖いんだね。今度からは怒られないように気をつけなくちゃ。


『ごめんなさい。』


「まぁ、いいじゃないか。それにしてもすごい勢いで入って来たね。


 何か用事があったんじゃないのかい?」


 はっ!そうだった!


『クーンさんがいつもお昼を摂ってないって言うじゃないですか!どういうことです?!』


 さっき思ったんだけど、お昼はあの部屋に運べばいい。それくらいの余力はこの城にいる使用人の多さから言えばあるはずだもん。


「う~ん。それを私の口から言うのはお門違いってヤツだ。


 まぁ、見たってことになれば誰の責任にもならないかもね。」


 少し考えるように間をとってから、マーサさんは視線をミリアに向けた。


「ミリア、一緒に行きな。紅茶のワゴンを持ちにクーン魔道師の部屋に、ね。」


 マーサさん、好き!


 ばっちりとウインク付きで言われた言葉に感動した。


 こう、ドーンと胸を張って言われるから、何となく安心できる。


「でも!クーン魔道師さまはネイ様に一番知られたくないと思っているのではないのですか?」


「でも、も何もないよ。あの子は人に頼らな過ぎるんだ。味方はこんなにもいるのにね。」


 大きなため息。この時のマーサさんは、まるで母親みたいに見えた。


 どうしようもない息子を心配してる母親。

 …きっと、クーンさんのこと、大切に思ってるんだね。


「私はネイに感謝してるんだ。あの子が自分の傍に人を置くようになったことだけでも大きな進歩じゃないか。」


 なんだか複雑、みたい。ややこしいなぁ。知りたいことは教えてもらえないし。変な改定願いなんて山ほどあったし。


 ここの政治は大丈夫なのかねぇ。


 実はさっき、仕分けしながら、いけないとは思ったんだけど、内容をちらっと、ね。


 ほら、ダメだって思うことほど反抗的にやってみたくなるって言うか。立ち入り禁止って書いてある所ほど立ち入ってみたくなっちゃうって言うか。


 国の重要書類とは分かりつつも、ついつい見てしまったわけで。


 私、天邪鬼なのかも知れない。


「…わかりました。ネイ様、行きましょう。」


 お、ミリアが折れた。流石お母さん的存在のマーサさん。


 それにしても。


『同じ仕事してるんだし、“様”付けするの止めよーよ。』


 ずっと気になってたんだよね。


 言うタイミング逃してたから今まで言わなかったけど、私は単なる女中だし、ミリアは女官だよ?立場が上の人に様呼びされちゃーね。周りにいる人だって変に思うよ、きっと。


「それだけはなりません!」


 ちぇー。


 結局言い合いになって、マーサさんから私たちに雷と言う鉄槌が下されました。


 ってことで、話は一時保留。


 私とミリアはそそくさとクーンさんの部屋に向かった。




 それはドアを開ける寸前に、聞こえてきた話。冷静なんて言葉を頭からふっ飛ばすくらいのものだった。


「ほう、噂の専属とやらはおらんのか。見物に来たと言うのに、時間の無駄になってしまったではないか。」


 ゆったり、いや、ねっとりとした纏わり付くような話し方。虫唾が走る。


「申し訳ありません。昼食を摂りに行かせました。」


 クーンさんが謝ることないのに!てゆーか、そんな見物する時間があるんだったら仕事しろよ。


「ほう。主人を差し置いて昼食に行くとは生意気。とんだ忠誠心だな。」


 余計なお世話だ、コノヤロウ!


 口が悪いかも知んないけど、腹が立つもんは腹が立つ。いや、段々腸が煮え繰り返ってきた気がしてきた。


 私は何とか握り拳を作って耐える。しきりにミリアが心配そうな視線を送って来た。


「…クーン魔道師さまにとっては日常茶飯事のことなのです。ですから、頭にくるとは思いますが、辛抱なさってください。」


 その小声が耳に入って来た時、思わず手を握り締めるのを忘れていた。


 日常茶飯事って、こんなねちねち言われるのが日課になってるってこと?ありえない。


「戯れ事、戯言だと思って気にしないのが得策です。


 あんな肩書だけで生きている、無能な税金ドロボウ貴族の狸ジジイの言うことなど、気にしなければいいのですよ。


 さてと、お耳汚しはここら辺で終わりにしていただきましょう。」


 ただ呆然として部屋の扉の前で立ち尽くしていた。


 …ミリアって毒舌なんだ。


 ちょっとのショックとかなりのダメージを受けながら、私はミリアの後に続く。何事も聞いてなかったみたいに入ってく姿に、もう完敗だ。


「失礼いたします。」


 堂々と歩く姿は格好よくて。どこまでも姐さんについて行きます、って心の中で誓った。


「宰相様からの伝言でございます。“騎士団員育成法の改正案はまだか”、との催促です。」


 はつみみー。いつの間に宰相様と会ったのかなぁ。


 てゆーか、私、ちょっとあの人苦手なんだよね。昨日会った時、若干怖かったし。しかも急に笑い出すから、心臓が何度もびっくりしちゃったんだよね。


「了解した。午後一番に届けるとを伝えてくれ。


 お前は今後、午後の仕事に支障が出ないよう、ひるやすみをしごとに当てなくてもよい。宰相殿にもそう伝え、すぐに休憩をとってくれ。」


 畏まりました、と言うと、ミリアは出て行ってしまった。


「他人の心配をしている暇などお前にはないはずだが。


 それにしても、この女中が噂のお前の専属か?足を曝しよって、品位が疑われる上に、お前の母親を連想させる。


 少し幼い気はするが、顔と身体は中々よいな。もしや愛玩用か?」


 愛玩用?それは一体何ですか?


 訳の分からないことを言うオッサンを睨みつけながら、貶されてることは確かだと雰囲気から察した。


「…聞き捨てならない事をおっしゃる。それはあなたには関係のない事だ。


 それに、その娘は愛玩用などではない。…人を計りかねると、そのうち己の身を滅ぼしますよ。」


 最後の一言は、私の背筋にも何か寒いものがぞっと来た。ってことは、このオッサンはクーンさんのその迫力を一身に受けてるはずだから、なおさらだろう。


 案の定、狸ジジイは顔を真っ青にして、部屋からそそくさと出て行った。


「…すまない。」


 オッサンが出て行ってからはしばらく、どちらとも口を開こうとしなかった。


 私は詳しい事を聞いていいものか悩んでいたし、クーンさんはきっと私に話そうかどうか迷ってたんだと思う。


『どうして謝るんですか?』


 クーンさんは悪いこと、一つもしてないのに。むしろ、謝って欲しいのは訳の分からない御託を並べて、明らかに私の事を見降ろしてきたあのオッサンだよ。


 喋り方がねちっこかったその人は、イメージ通りの体型だった。


 良く言って恰幅がいい、悪く言ってメタボってる。撫でつけられた茶色の髪は、見事なまでの七三分けで油ギッシュだった。


 なんか、失礼だとは思うんだけど。…巨大な豚さんが質のいい服着て歩いてます、って感じ。


『クーンさんは何も悪くない。』


 大体から言って、あのおじさんが訳わかんないことばっかり言うのが悪い。そんな中途半端だと却って気になるってくらいのささやかな情報。


 あー、ホント気になるっての!


 …ま、聞かないけどさー。あんな顔してちゃ、聞けない。


 さてと。私はご飯でも食べに行こうかね。


『クーンさん、私ご飯食べに行ってきます。』


 一礼して、お茶のワゴンを押しながら部屋を後にした。ミリアがきっと待っててくれるはずだから、急がなくちゃ。


 私は走らない程度に急いで、女中部屋に滑り込んだ。


「お帰りなさいませ。」


 涼しい顔をして礼をしてくれるミリア。しかし、その裏側はいかに、って感じ。


 さっきちょっぴり怖かったしねぇ。


「どうしてそんな目で見るのですか?」


 私の顔に何か付いてますか、なんてベタなこと、聞かないでください。心苦しいですから。


『んーん、何でもない。お腹空いちゃった!食いっぱぐれる前にご飯行こー。』


 腕を引っ掴んで何とか回避。私はそのまま使用人たちの食堂へ連れて行ってもらった。





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