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専属女中(メイド)、出動



「ネイ様、おはようございます!」


『おはよー…・・』


 昨日のことが気になってあんまり眠れなかった。顔、最悪だと思う。


「あら、眠れなかったんですか?」


 やっぱり…


『顔、そんなに酷い?』


 そう聞くと。

「ええ。」


 なんて、すぐに返事が来て凹んだ。


 自分で聞いておいてなんだけど、ちょっと包み隠して欲しかったぜ。とか強く思いながらも、脱力した。


「早く顔を洗って来て下さい。きっと目が覚めますから。」


 返事をすると、バスルームに向かった。水で軽く顔を洗い、顔を拭う。


 鏡に映った顔は…


『お化け…?』


 そんな残念過ぎる私は歯を磨いて、ミリアがいるであろう寝室へ向かった。


「あ、目は覚めましたか?お召し物の準備はできてますよ。」


 そう言ってベットの上に広げてあったのは、簡単に言えばメイド服。


『フリフリ…』


 まじで勘弁してほしい。


「お城の女中服は可愛らしいですから、きっとネイ様に似合いますよ。」


 うん。…嬉しくないけどね。


 それに、こんなに長い裾って…ありえないっしょ。


『ミリアの服の方が可愛いと思う。』


 そんなちっちゃな呟きはミリアに届くはずもなく。さっさと着ろと目線で催促され、のろのろと着てみた。


「よくお似合いですわ!」


 うそだ!キモいだけだって!!


『ミリア、これいじっちゃダメ?』


 眉だけを綺麗に動かして見せるその様は、訝しげな様子をそのまま表していた。換えはありますけど、という言葉を聞いて、ハサミを貸してもらう。


 生き生きと刃先を鳴らすと、ちょっとだけ引かれた。


「もしかして…」


 そのとーり!ふふふ。楽しませていただきまっす☆


 息を大きく吸うと、刃を動かした。


『ミリア、ペチコートある?』


 そう言うと、少し興味が出てきたのか、渡してくれる。それを付けると、スカートよりも少し短めに切って、軽く縫いつけた。


『編上げのブーツ、履いてもいい?』


 こっちの世界に来てから、お願いして茶色の編上げのブーツを履かせてもらって言った。でも、こっちの女の子はブーツは履かないらしい。勿体ないよね、可愛いのに。


 流石に髪はまとめて、化粧をしてもらう。


 完成です!


「いい。すごくいいです!」


 そう褒められて私の鼻は高くなる。


 スカートは足首まであってウザったかったから、膝が見えるか隠れるかの所まで切った。そして編上げブーツ。肌がたくさん見えるのはダメらしいから、ちょっと緩めの靴下をはいて、極力見せないようにした。


 ゴスロリに近くなったけど、足首まであるよりマシ。これで大分動きやすくなった。


「可愛らしいですけど、きっと上の方々が見たら憤慨なさるわね。」


『別に怒られてもいーよ。自分がいた国とは文化が違うんだって言えばいいんだから。


 あ、でも、そうするとクーンさんに迷惑かけちゃうかなぁ。』


 そこが一番のポイントだよね。


 でも、この世界の服は本当にあり得ない。動きやすさなんて皆無。確かに地球の衣服の文化は露出が激し過ぎるかもしれないけど、ここはいくらなんでも布が多過ぎだ。


 私だって足を出したがらない女子高生だったけど、流石に膝は出てたもん。ま、ここじゃそれを配慮して膝も出てないんだけどね。


 これでも譲歩した方だって。それに、何だったらパンツ履いて仕事したっていい。いい加減、ジーパン履きたいんだよね…


 ズボンは男の人しか履いちゃいけないらしいから、当分はムリだろう。


「あら、こんな時間!ネイ様、クーン魔道師の所へ急ぎましょう。」


 そう言われて、少し戸惑った。カスタム女中メイド服のままだったから。


 でも、面倒だからいっか。


 なんて、ミリアが忘れてるみたいだから、しめたもんだと思って、黙って着いて行った。


「クーン魔道師様、ネイ様をお連れしました。」


 ほー…・・でかい部屋。


 ノックをして開いた先には机が一つ。それしかなかった。


 そこに着いて仕事をしている様子のクーンさんは、切りがいいところまで行くと顔を上げる。


 それからちょっと驚いた顔をした。それに気づいたミリアははっとして私を見る。それからやっちまったって顔をしていて面白かった。


 …睨まれたからすぐに止めたけどね。


「随分といじったようだな。」


 はい、申し訳ありません。とか謝って見たり。でも、実際は口だけで、反省なんてしてないけど。てゆーか、部屋にいた時だってこれくらいの丈だったし、誰にも文句は言われなかったもん。


 気にするほどじゃないと思うんだけど…


『これ、そんなに変ですか?』


 裾をちょっと上にあげてそう聞くと、目のやり場に困るから下ろせ、と言われる始末。今さらだけど、ここの文化とは合わない気がする。


「似合っている。まぁ、それでもいいだろう。」


 助かった。長い丈だと転んじゃうだろうしね。怪我だけは勘弁ってなことで。


「仕事の仕方はミリアに聞けば大抵わかるだろう。それに、俺はあまり世話が掛からないだろうから、そこに居てくれるだけでいい。」


 それだけ言われると、私はミリアに続いて部屋を後にした。


 城は迷路みたいになっている。しっかり暗記しないとまずい。道を覚えがてらに、それじゃ私の意味がないんじゃない、ってミリアに聞いたら、それだけで十分すぎるんだって言われた。


「これは私から話せることじゃありません。しかしながら、宰相様に少しは言われたでしょう?


 クーン魔道師はこの城では厄介な立場に居ます。仕事をし過ぎないようにネイ様が注意して下さるだけで十分ですよ。」


 なるほど。みんなクーンさんが働き過ぎだって思ってる訳ね。


 ワーカホリック?いや、働いてないと落ち着かない訳でもなさそうだし。何か理由があるんだろうねぇ。


 話してもらえない限り、私には理解できない。早く話して欲しいなんて思っていると、女中部屋に着いた。


 ミリアはここで着替えているらしい。ここから、調理場や洗濯場など、城内を案内してもらった。


 それにしても広すぎ…


 ミリアはもう慣れたって言ってたけど、私は当分無理そうだ。たいていの所を案内してもらって部屋に戻ると、第一城人発見。


 一瞬ぎょっとした表情をされて、言わんことがよく分かった。


 あ、やば。


 どう考えても視線は私のスカート。早速怒られると思ったら、おばさんは豪快に笑い出した。


「あんた、クーン魔道師様に聞いた通りの子だねぇ。」


 クーンさん、何か余計な事言った?!自己紹介でもしますかね。


 恐る恐る口を開いた。


『お初にお目にかかります。クーン魔道師様の専属女中となりました、ネイと申します。


 以後お見知りおきを。』


 昨日のように手を軽く前で組み、丁寧にお辞儀をしてみると、今度は目を丸くしていた。忙しい人だ。


「奇抜な格好をしてると思ったら、教養があるみたいだねぇ。」


 あ、そこですか。大概の人に教養があることを驚かれるのはどうしてだろう。やっぱり幼く見えるのかな?


「私は女官長のマーサ・マキンズ。たいていのことは私が管理している。それにしてもその格好は?」


 早速キタ。やっぱり言わなくちゃダメだよねー。


『私のいた国では、足首までスカートがあることは滅多にありません。それに、あれだけ長い丈だと、転んでしまいそうだったので。』


 すみません、と頭を下げると、また笑い声が聞こえた。


「あんまり気にすることはないさ。でも、ここの連中にはそれをあまり良くないと思うものもいるだろう。それでなくても、“あの”クーン魔道師の専属なんだから、目をつけられるかもしれない。


 怪我をしないように気をつけな。」


 そろそろきな臭くなってきた。そんなにクーンさんは大変な人なのかな。


「まぁ、その格好をしていると逆にクーン魔道師の専属だと分かって、そこら辺のお偉いさんに小間使いにされずに済むだろう。」


 豪快なおばさんと、いや、マーサ女官長と握手をすると、ミリアと一緒に厨房へ向かった。


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