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宰相さま、登場‐その2‐



『質問、しても良いですか?』


 私が知りたいことは山ほどある。


 理解できないことだけじゃなくて、私自身が気になることも。その問い掛けに頷いてくれた三人を交互に真っ直ぐ見つめる。


 真剣な顔をしてるから、私の顔にも力が入った。


『この国の人たちの多くがその神を信仰してるんですか?信者の敬虔さはどのくらいですか?』


 あんまりにも熱狂的だと、嫌でも<最後の乙女>とか言うものの立場に立たされそう。それに、もし私がそうでなくても、勝手に理由を付けて祭り上げられそうだもん。


 それだけは、何としてでも確実に避けたい。


「国民のほぼ9割が信仰しておる。中には熱狂的な信者もおるな。」


 難しい顔をしたおじさん、いや、宰相様がそう言った。


 まじ、勘弁。今さらだけど、何としてでも避けたいよね。私、そんな面倒な事からは、回避を希望します。


『…私の居た世界にはいくつかの宗教がありました。でも、私は無宗教です。


 いや、多神教って言った方が正しいのかもしれません。私の国の住人はとても自由で、それぞれの宗教に準じた催し事を行うんです。』


 こう説明してると、やっぱり日本の文化って面白い。てゆーか、ここまで来ると自由すぎるよね。


「その口ぶりだと、ネイさんは神を信じておられないようですね。」


 そうか。神官様から見れば、信じられない人間なのかも、私。


 でも、実際問題自分がどう思うかだし、思想はその人の自由だ。


 思ってる事なんだし、それを隠して本当のことを述べないでごまかすなんて、おかしい。



 私は頭に、不愉快に思ったらすみません、と付けておいてから話し出した。


『私自身は基本的には神様を信じていません。もしかしたらこの世界を創った神様はいるかもしれませんが、縋り付ける神様はいないと思うんです。


 だって縋りついて本当に助けてくれる存在がいれば、治らない病気なんて存在しないと思いますから。』


 ここまで言っといてなんだが、みんなの視線が痛い。信仰している人から見れば何とも不愉快な話なんだろうけど、単なる小娘の浅はかな考えってことで、勘弁してほしいとこッすね。


『私のいた世界では自分の信仰している宗教を他人に押し付けて、過去にも現在にも争いが起きています。


 聖職者がお金を得るために、神に助けてもらえる紙切れが出回った過去があります。


 これは人間の我儘で、私腹を肥やす為にやったことで。でも、その行為は神様に結びついてしまうんです。


 神様は自分に似せて人間を創ったと言われています。そう考えると、神様がいると信じると、汚い心を持っている人物を想像せざるを得なくなりますから。


 それを崇めることはできません。』


 ここまで言って、完全に冷めてしまったお茶を飲み干した。


 …我ながら捻た考えだよね。自覚はしてるんだけど、どうも自分の考え方は真っ直ぐになってくれない。


「神様のことで争いが起きたと言っていましたが、それは本当に自分の信仰する神を信じているからなのではないですか?」


 それって自分の神が一番正しい、って考えなのかな。ある特定の人物からしたらそうかもしれない。


 けど、私が言いたいのはそんなことじゃなかった。


『どの神がそこに在るのかを争って戦うことは、敬虔な信者の行いかもしれません。でも、私の中ではその考え方は違うんです。


 その神が真に存在するのであれば、そのことで争い合って、自分の所為で人間が死ぬことなんてないと思います。


 もしいても確認もできない存在。ならばどうしてその人のために多くの命が奪われるのを黙って見ていられるのでしょうか?』


 真っ直ぐレークさんを見つめて言うと、右隣から盛大なため息。宰相様は見た目よりも、本当はもっと若いのかもしれない。私みたいな統制のとれないバカがいるから、心労で髪が白くなったのかも。


 …ご苦労様です。


「もしも<最後の乙女>ならば、随分と変わった考えだな。」


 あ、ため息ついたのはその所為?自分でも変わってるのは自負してるけど、そこは個性ってことにしておいて欲しいね、うん。


『まだそうと決まった訳ではありませんよ。それと、もう一つ申し上げておきますと、私のいた世界では、科学が非常に進んでいます。その結果、人間は猿が進化したものです。


 神が造ったと言われる人間が、実は環境に合わせて、時を重ねて優秀になったってことです。


 この進化論は、神を崇拝している者たちからすれば、信じられないものなのでしょうが、事実、証明されています。』


 ゆっくりと立ち上がって、お茶をみんなのカップに注いでいく。自分の席に着くと、またお茶を覚ます為に息を吹きかけた。


「ネイさんは大人しくて柔らかい空気を持っているのに、意外と意思がお強いのですね。」


 …褒め言葉として受け取っていいのかな?


 だんだんレークさんの笑顔が胡散臭く見えてきた。遠まわしに大人しく従ってろよ、って言われてる気がする。


『私、性悪なんですよ。だから、猫を被るのも得意ですし、人を言い負かすことに何の負い目も感じていませんしね。』


 にっこり笑ってそう言うと、宰相様はまた笑いだした。


「これはネイの勝ちだな。ますます気にいった。」


 ますます気に入られた?宰相様の判断基準が分かりません。


『私の世界では、一人ひとりの意志が尊重されます。言論の自由だって、思想の自由だってあります。女性に対する差別もありません。


 もしかしたら、私のいた今の社会は女性の方が強いのかも。』


 おじいちゃんとおばあちゃんを見たってそうだ。かかあ天下が発生してますもん。おじいちゃんってば、完全に尻に敷かれてる。


 それよりも、ここから変える方法ってあるのかな。これからどうなっちゃうんでしょう。


 ため息を零した直後、ここで急に空気が打って変わって、意気消沈気味にレークさんが話し出した。




「あと一月ほどで鏡神祭なので、興味深いネイさんのお話を聞きに来ることができません。」


 あら、せっかくの知り合いに会えなくなるの?そうでなくても三人しか知ってる人いないし、部屋から出られないのに。あ、今日もう一人増えたんだっけ。


 がっかりしていると、不思議そうな顔で見られる。何でもないって答えたけどね。


『テレビの話はもうしばらくお預けですね。次は上手く説明できるように整理しておきます。』


 手をグーにして力む。脱・説明下手人間!


 それにしても。


『これから一カ月も喋る人がいないのかぁ…』


 みんながいるのも忘れて独り言ちる。何か役に立てることないかな?いや、ここから出たらいろいろ大変だろうし。


 でも、バレない形で自由に歩き回れたら…


 !!思いついた!


『クーンさん!』


 思い立ったら即行動派の私は、すぐさまクーンさんに飛びつく。もう、噛み付かんばかりの勢いでまくし立てるように言った。


『女中のお仕事させてください!』


 そこにいた三人が固まってしまった。とりあえず、どんな返事が来るかワクワクして待ってると、がっくりとしているお人たち。


 どういうこっちゃ?


 一人理解できずに首を捻る。それを分かってくれたのか、クーンさんは代表になって話してくれた。


「<最後の乙女>かもしれないネイに、そんなことはさせられない。」


 なるへそ…なんてこった!


 せっかくいい案だと思ったのに、どうやら採用されないらしい。でも、これができないとなると、本当に一人ぼっちで一カ月過ごすことになっちゃう。


 それに、こんなお姫様みたいな生活、心苦しくて仕方ないんだ。


『そこを何とかなりませんか?働かざる者食うべからず、とも言いますし、こんなに何もしない生活なんて、あり得ません。』


 私の意見が一理あるのか、三人は顔を見合わせて困っている。


 …もうひと押し、だね。さっき提言したように、私の意志は強いんですから!


『もし私が<最後の乙女>であってもなくても、これから先、元の世界に戻れる保証はありません。


 どう転んでも、いずれは独り立ちするべきですし、こう言う籠の鳥になったようなお嬢様生活なんて、私の性質には合わないです。』


 女中の仕事を覚えれば、自分のことは自分でできるようになる。


 それに、住む所を探せるし、もしもお給金も貰えれば何もかもここの暮らしに合わせていけるかもしれない。


 だから、曲げる訳にはいかないの。


 そう思いじっと三人の顔を見つめる。まず降りたのは宰相様だった。


「こう言っていることだし、何せ誰とも会わずに一月もこの部屋から出るな、とは言えんだろう。」


 宰相様ったら話が分かるー!


 って、抱きつきたい気分だったけど、そんな空気じゃないことは重々承知。だから、我慢した。


 その言葉を聞いてレークさんは。


「仕方ないですね。私が話相手に慣れないのは悔やまれますが。」


 そう言った。


 すぐさま反応してクーンさんは言葉を遮ったが、二人の重い視線にとうとう陥落。


 承知をしてくれた。



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