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蒸発

作者の趣味全開です。笑

文才はありませんが、ガンバルのでひとつよろしく。

ということで、どうぞ。

『どこですかーっ、ここは?!』


 私は混乱していた。だから叫んだって訳ではないんだけど。


 叫んだその声は砂に吸収されて、だだっ広そうなこの地には響かなかった。

 

 そう、今、私は、

 …砂漠の真ん中にいる。

 

 真ん中って表現が合ってるか分からないけど、四方を見渡す限り、砂、砂、砂!木も、ましてや砂漠定番のサボテンもない。そして八方を見渡しても、人っ子一人、虫一匹たりとも視界には入ってくれなかった。


 事の背景を言おう。簡単に言っちゃえば、気が付いたら“ここ”にいた。ここってのはもちろん今立っている、砂漠。


 てゆーか暑い。途方もなく。

 

 寒いからと着こんでいた上着を脱ぎ、ロンTになる。それから額と首を流れる汗を拭った。



 何でこんなことになったのか、とりあえず整理しなくちゃ。



 

 三日後に大学の入学式を控えた私、榊原 寧‐サカキバラ ネイ‐は今日引っ越しを終え、無事一人暮らしを始めようとしていた。


 なのに、なのに!一体どんな状況だっての。


 こんな砂漠、知らないし。いや、サバクってむしろ何ですかって話ですよ。しかも買い物袋を二つ下げて、結構間抜けな図。


 中の生もの腐っちゃいそうだなぁ。



『って、今はそれどころじゃなーい!』

 

 混乱は混乱を呼ぶだけ。だから、落ち着かなきゃ。


 そう分かってても、混乱しないはず、ない。整理どころか余計分からなくなっただけだった。


「わーお、でっかい声だね☆」


『ウルサイッ!今はそれどころじゃ…ナ、イ?』


 え…今どっかから声が聞こえた気が、したんだけど。気の所為か。あまりの暑さに頭イカレたのかも。


 一人首を傾げる。だって、もう一度周りを見渡しても、やっぱり誰もいなかったから。


「どうして疑問形?」


 …ん?やっぱり声が聞こえたみたい。そうか、ここは天国なのか。天国って花畑じゃないの?三途の川だって渡ってないのに。


 いや、川はきっとこの暑さで干上がったんだな。花畑だなんて嘘言ったの誰だよ。こんな暑苦しい砂の世界じゃ天国じゃないじゃん。


 やっぱ死んでみないと分からない事実ってことなんだね。


「もしも~し?何で黙ってんの。」


 …空耳じゃない!確かに声が聞こえた。でも、どこから?


 キョロキョロと辺りを見渡す。でもやっぱり砂漠には私以外何もなかった。


「あっ、ひょっとして僕を探してるんだね。状況把握力はなかなか悪くない。


 ただし、詰めが甘いね。」


 何の詰めだよ。


 間延びした喋り方にイライラしてきた。だっていつの間にかこんなとこに立ってて、幻聴みたいに誰もいないところで声が聞こえてくるってのに、何が状況把握力は悪くない、だよ。


 ツッコミどころ万歳過ぎて、そんな気が失せるって。


「おーい、大丈夫~?」


 大丈夫もクソもあるか!頭の配線おかしくなりそうだってのに。


「アハハ☆混乱しちゃってるんだネ!」


 いちいち頭にくる言い方すんな。いくら寛容な私でも、そろそろキレたい。


「ヒントをあげよーぅ。」


 語尾を伸ばすな!そして最後にちょっとだけ発音するな!


 会話なんてしたくない、って訳ではないんだけど。今は会話できるような人物がこの人しかいない。


 姿の見えないこの声の人物はものすごく面倒臭い人だって分かるから、ツッコミはあえて心の中でしておいた。


「周りにはいない。下は砂だからいるはずもない。あと残るは?」


 …まさか。あるはずない、そんなこと。


 そう思いながらも、半信半疑の中ゆっくりと上を見上げた。


『~~――…ッ?!』


「アハハ☆驚いてるねぇ。」


 “驚いてる”の域じゃないからーっ!どうやって浮いてるの!?てゆーか何なの、そのマヌケ過ぎる画は!



 その声は見事に上から聞こえていた。


 頭イカレてんのはこの人だよ。さっきは自分かと思ったんだけど、この目に見えてる状況はどうやっても真実以外の何物でもない。


 …三輪車?


 あろうことか空飛ぶ三輪車に乗っていたまさかのイケメンは、姿形こそギリシャ神話から飛び出して来たような神々しさなのに、見事なほどまでに残念だった。


 金の髪、碧い目、纏う白い衣装。彫刻から飛び出してきたみたい。



『…あなたは誰?何で三輪車に乗ってるの?』


 おずおず聞いた。声は絞り出されたように固く、低い。身体が強張ってるのが、自分でも容易く分かった。


 だって頭おかしい人だったら怖いんだもん。世の中何かと物騒だしね。用心するのも当たり前。


 でも、この状況でできることはこの人の話を聞くことくらいしかない。それに関しては至極残念だ。


「これは三輪車って言うのかい?小さな子供が乗っていて楽しそうだったから、ちょっと拝借してきたんだよー。この乗り心地はサイコーだね。


 それにしても、キミは何でそんなに熱烈な視線を向けてくるんだい?あっ、もしかしてこれを狙ってるんだなぁ。そんなに見たってこの三輪車はあげないよ!」


『いらんっ!』


 何この人。会話が一向に成立しないんですけど。


 私は頭に手をあてて、お手上げのポーズをとるしかなかった。


 てゆーか、拝借って言いつつも、子供から盗んできたってことじゃん!サラッと言ったけど、れっきとした泥棒だって。マジ、面倒臭い。


『ああ、そーか。これは夢なのか。夢なんだな。もう十分満喫したから早く目を覚ませー。』


 買い物袋を片手に持って、空いた手で頬を抓って見ると。


 …痛かった。


「何を言ってるんだい。現実逃避は恥ずかしいから止めなよ。」


『あんたのそのカッコの方が百万倍も恥ずかしいわっ!』


 屈辱的。大人になって楽しそうに三輪車に乗ってるやつだけには恥ずかしいなんて、言われたくないっての。


 ああ、全身の力が抜けてきた。死ぬのかな、私。


 もう何でもいいからこの状況から逃げたかった。


「おっと、僕の許可なしに寝ようとするなんて、いい度胸じゃないか。」


 知らないって。力が入らないんだもん。とりあえず、喉、乾いた。


 …水。そうか、水買ったんだった。起き上がってガサガサ音を立てながらビニール袋を漁る。


 あ、みっけた。


「ほー、無視するあげくに飲み物って。君、思いやりがないね。」


 あんたに言われたくないわ!


 じとーっと睨みつけながら、ゴクゴク喉を鳴らして一気に飲んだ。


『ぷはーッ。生き返るー。』


 上から“おっさんかよ”なんて聞こえたけど、私、ぴちぴちの18歳ですから。さて、喉も潤ったことですし。


『アナタハダレデスカ?』


 質問タイムと行きましょう。


「なんでカタコトなの?まあ、いいか。僕は“神”!」


 What?今何とおっしゃられた?


『か、み…さま?』

「イエス、ザッツライト☆」


 やっぱり、天国だったのか…うん、意識が朦朧としてきたし、そうなんだよ。


 私は完全に体を砂の上に放り出した。


「ちょっと、ちょっと!まだ話は終わってないぞ。」


『神様、ちょっと、ごめん…くらくらしてきたし、目が掠れてよく見えないんだ。』


 実際、もう、太陽の光が眩し過ぎるくらいしか見えない。あとは輪郭が全部ぼやけてる。


「ああっ、しょうがない。人来ちゃったし、あとでまた会おう。僕の名前は“ジュノワール”。

 いいか、“ジュノワール”だぞ。」


 ほら、繰り返して、と言われて小さく呟く。


 なんとも言い難いカタカナだな。とか、失礼な事を考えてみたけど、何だか焦ってるその人は、早口でまくし立てた。


「そう、OK!そう口に出して呼びさえすればすぐ行くからね。じゃ!」


 あ、三輪車が去っていく。


 ものすごい勢いで漕いでいる。だけど、それよりも遥かに速いスピードで進んでいた。


 あれ、浮いてるし、漕ぐ意味無いよね…


 力無く砂の上に放り出した身体。右手の方へと三輪車で去っていく白いものは、霞んだ目には、すでにはっきり見えていない。そして、霞んだ視界から物体らしきものが消え去った。


 そして、私の意識も…


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