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帝都陰祀庁妖異録 ~明治の陰陽師は霊銃と鹿鳴館ドレスで退魔します!  作者: 美澄こいね
第二章<恋焔>

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第八話 みたらし団子の罠

 放課後になる頃には妖の気配がより色濃くなっており、早急に祓う必要があると感じ始めていた。


 澪は妖気の源を探るために校内を歩いているが、どこにその根源があるのかは相変わらず不明瞭だ。


 朱音が澪に向ける視線はかなり敵対化しているものの、それでも妖の気配は感じられない。それも別の意味で不気味な要素だ。

 つまり、素で澪を憎悪の目で見ているということになる。


 朱音とは、犬猿の仲と言っていいかどうかはともかく、これまで繰り広げてきた言葉の応酬は笑い話で済むもので、まるで深刻に捉えたことはない。それはあちらも同じだったはずだ。


 ――澪に憎らしさは抱いていたかもしれないが。


 そして 怪しいという点では桐草も同等だが、彼は非常勤の嘱託教師なので、自分の受け持つ授業が終わるとすぐ帰宅してしまい、今日はもう校舎に残ってない。


 鏡に何かの細工をしているのかもしれないという疑いもあるが、澪が見たかぎりで言えば、廊下の姿見も洗面所の鏡も変わったところはなかった。


「ねえ白蓮、これってどういう状況だと思う?」


 夕日の射し込む無人の校舎を歩きながら尋ねてみるが、相棒の白蓮から応えはない。


「ねえってば」


 振り返って白蓮に返事を求めたが、いつも傍についているはずの白狐の姿はどこにもなかった。


「白蓮……?」


 澪の視界には、無人の渡り廊下が広がるばかりだった。


   *


 それより半刻ほど前のこと。


 校内の鏡を調べ歩く澪の後ろをついて歩く白蓮は、ほんのり鼻先をかすめた甘い醤油の匂いを嗅ぎ取り、三角耳をぴくっとさせた。

 振り返ると、廊下の曲がり角から、みたらし団子の誘うような艶やかで麗しい姿がのぞいている。


「この私を団子ごときで釣ろうと? 猪口才な」


 無視して歩き出したはずだが、白狐の足はまっすぐみたらし団子に向かった。


「フン、何奴がこの私をおびき出そうとしているのか、とくと確かめてやろう」


 棒読みで独り言ちた白蓮だったが、近づくとみたらし団子が角の向こうに消えてしまったので、本格的に追いかけ始めた。


 身軽に角を曲がると、すぐそこには大きなみたらし団子がふわふわ浮いている。

 白蓮は床を蹴って高く跳躍すると、団子めがけて突撃したのだが……。


「まあ、かわいらしい子狐さんですこと」


 手にしたみたらし団子をひょいっとよけた朱音が、ニイッと口角を上げて笑っている。そしてあろうことか、好物を食べ損ねた白蓮をむんずと抱き上げたのである。


「なっ、何をする! おまえ、私が見えているのか――!?」


 元の姿ならともかく、基本的に子狐の姿で小さくまとまっている白蓮である。華族のご令嬢の手でも難なく抱き上げられる寸法だ。


「きれいな毛並みなのね、あなた」


「ちょぉ――澪ぉ……」


 急いで澪に知らせようと声を上げたが、その口元にみたらし団子を突きつけられた。その上品な甘い香りと、つやつやの団子の美しさに喉を鳴らしていた。


「これはッ――! 宮内省御用達の菓子司の、和三盆仕立てのみたらし団子ではッ!?」


 竹串には四つの団子が刺してあり、子狐はそれをいっぺんに頬張った。甘味を前に、理性が吹っ飛んでいる。


(ウマーイ!)


 むしゃむしゃとみたらし団子を味わっている間に、朱音は白蓮を抱えたままその場を離れた。


「おい、どこへ行く」


「次の冬に使えるように、あなたを毛皮の襟巻にすることにしたわ。ねえご存じ? 狐は小柄なので細長い一枚皮になるんですって。ああ、でも冬毛のほうが高級な襟巻になるわね。冬になるまで我が家の蔵で飼ってさしあげてよ」


 それを聞いた途端、白蓮のふさふさなしっぽが、ぶわっと倍くらいに膨れた。


「こ、この無礼者、私を誰だと思っている!? 白狐だぞっ、霊獣だぞッ! 第一、なぜ私を――」


「あの『しぐれ』さんの狐ですもの。ああ、なんて恨めしいのかしら! 皮を剥ぐくらいのことをしてやらないと、気が済まないわ」


「澪との間に何があったのかは知らんが、巻き添えにするのはやめろ! 私を毛皮になどしたら、末代まで祟ってやるからな! おいこら、怖くないのか!」


「皮を剥いだら、腐敗防止のために塩蔵で締めますの。そして――」


「イヤァァァアアーッ、ひとごろしー!」


 朱音の腕の中でもがき暴れるが、華族の少女とは思えないほどの力で締め上げてくる。


「ご安心なさって、大好きなみたらし団子を毎日差し入れてあげますわ」


「みたらし……いやっ、誰が団子になど釣られるものか!」


 本気で命の危機を感じ――霊獣にその概念があるのかどうかはともかく――全力で暴れて朱音の腕の中から逃げ出した白蓮は、ブルブルと震えながら朱音を振り返り、口の中に残った竹串をプッと吐き捨てた。そして一緒に捨て台詞も投げつける。


「おいおまえ、覚えてろよ!」


 半泣きで叫ぶと、白蓮は廊下を取って返し、自分を捜している澪に飛びついた。


「白蓮! どこ行ってたのよ、捜したじゃ……」


「澪ッ、あいつやっぱ変だ!」


「あいつって?」


「鳳月の娘だ! あれはもう、普通ではない!」


 澪に抱っこされながら、白蓮は今の出来事を切々と訴える。――みたらし団子に釣られたことは内密にして。


「朱音さまに、白蓮が見えてるってこと……?」


「この私を襟巻にしようとしたのだ! 鳳月許すまじ! 末代まで祟ってやるぅ……!」


「ぇえ、白蓮に『祟る』なんて能力があったんだ?」


 澪が苦笑しつつ、朱音のところへ行こうとする。

 だが、白蓮はそれを素早く察し、あわてて腕の中から飛び降りると、澪の袴の裾を咥えて反対方向に引っ張った。


「イヤダ、もう帰る! 早く帰って風呂に入って寝るぞ!」


「でも、白蓮が見えてるということは、朱音さまに妖が憑いてる可能性も……」


「明日でよかろう、放っておいても大事ないっ! あやつもとっくに帰った……っ!」


「えぇ……ほんとに?」


「本当だとも!」


 澪が生意気にも呆れ顔をしているが、白蓮のしっぽの毛は逆立ったままだった。

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