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ボイスメモ

作者: タケウチX

俺、かなり忘れっぽい。


だから車を運転するようになってから、スマホのボイスメモをよく使うようになった。

運転中に思い出した用事とか、後で絶対忘れるやつを、赤信号のときに一言だけ吹き込む。


「今日のお昼、証券会社に電話」

「帰りに柔軟剤」

「土曜はタイヤ交換」


そんな感じ。

自分にだけ分かればいいから、主語も要らないし丁寧語でもない。


で、たまにあるよな。

あとでボイスメモを見返して、


――あ、こんなの残してたっけ?


ってなるやつ。

たぶんそのときは急いでて、入れたこと自体を忘れてるだけなんだと思う。


……まあ、ここまでは普通だ。


でも、このメモだけは違った。


ある日、運転前に何気なくボイスメモを整理してたら、見覚えのない一件があった。

タイトルは自動生成の日時だけ。


再生してみる。


「……とこむらさんに、ありがとうございます……」


俺の声に似ていた。

でも、大きな違和感があった。

内容が分からない。とこむらさんって誰だよ。


それに、音質がおかしい。

ザーッ、って低いノイズがずっと被ってて、声が水の中みたいに歪んでいる。


誰かが俺のスマホを触った?

一瞬そう思ったけど、録音時刻を見ると、その時間はちょうど高速を運転してたはずだった。


まあ、押し間違えたのかもしれない。

変な独り言を言った可能性も、ゼロじゃない。


そうやって無理やり納得して、そのメモは放置した。


数日後、また増えた。


「……今日は、早めに終わった……」


またノイズだらけ。でも前より少ない。

変な言い方かもしれないけど、めっちゃ俺に似てきた。


内容は相変わらず意味が分からないけど、

語尾の癖とか、間の取り方とか、俺の話し方に近い。


さすがに気味が悪くなって、

その日の行動を思い出そうとしたけど、

何をしてたか、うまく思い出せない。


まあ、俺は忘れっぽいから。


さらに数日後。


「……次は、こう言えばいいんだな……」


ノイズは、ほとんど無かった。

完全に、俺の声だった。


このあたりから、ボイスメモを開くのが怖くなった。

でも、開かないわけにもいかない。

だって、用事を忘れるから。


そして、さっき。


たった今、通知が来た。


新しいボイスメモが保存されました。


嫌な予感がした。

でも再生した。


「今から、帰る」


俺は今、家にいる。

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― 新着の感想 ―
 多重人格なのか、声を似せた幽霊の類いなのか判断に迷いますね。ノイズが減る度に反比例するように増す恐怖困惑の物語、よかったです。
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