【スピンオフ/青春編】似非能力者と高嶺の花
僕、能見鷹士は三十路を前に一念発起し、中小企業に特化した個人コンサルタントとして起業した。そして何故かいつも探偵業を営む汐入悠希の無茶振りに巻き込まれてしまう。この間も猫探しやら知財のコンサルやらに巻き込まれたばかりだ。
そんな汐入と腐れ縁の始まりは高校生の時分に遡る。東亜細亜大附属第三高等学校(通称アジ三)の一年生汐入と龍ヶ淵高校(ブチ高)の一年生の僕は、龍ヶ淵工業(ブチ工業)の一年生番長千本松くん、二年生の梅屋敷さん、大森さんとひょんなことから知り合い、奇妙な形で仲良くなった。これはその高校時分のお話し。
◇◇◇
汐入の通う東亜細亜大附属第三高等学校、通称アジ三では少し前までは「出る」らしいと噂が流れていたが、最近はこんな噂が流れているらしい。
美術準備室の霊、ブチ工業のヤンキーが退治したらしいよ〜。
へ〜、そーなの?
なんかブチ工業の人たちが幽霊を三人がかりでボコボコにしたみたい。
何それ、ウケる!
幽霊って殴れるんだ!?
ってかボコボコってヤバくない!
やだ〜、怖〜い!
◇◇◇
噂に尾鰭背鰭が付くなんて事はありがちだが、これでは三人にとってマイナスの評判になってしまっている。
美術準備室の怪奇を解決した噂を流して評判を爆上げし、麗しの二階堂玲さんとお近づきになる!という目論見とは違う方向にコトが進んでいる。これは想定の範囲外だ。
ここは三人の名誉の為になんとかしなくては、と汐入は意を決して生徒会長に相談することにした。昼休みに、生徒会書記の一年生に根回しの言伝を頼み、放課後、生徒会室に赴く。
ドアをノックして開ける。
「一年の汐入悠希です」
「生徒会長の北品川翠よ。聞いているわ、何か相談事があるそうね」
鼻筋の通った凛とした綺麗な顔をしている。意志の強そうな目をしている。
汐入はここに至る経緯を話す。
「はい。今、噂されている美術準備室の幽霊退治の話しなんですが、現実と違うと言うか・・・。退治した龍ヶ淵工業の三人は実は私の知り合いで、退治は私が立ち会っていたんです」
「そうなの?実際はどうだったの?幽霊をボコボコにしたんじゃないの?」
北品川さんは悪戯顔で笑みを浮かべながら訊ねる。
「そうではなくて。法力やら陰陽道やら十字架で祓ってました」
北品川さんは驚きの表情を浮かべる!
「えっ!何それ!そっちの方が面白いじゃない!興味あるわ。実は私、持っている側のタイプなのよ。そういうの持ってる人を見るとわかるの。感じるのよ」
まさかのオカルト好き!?生徒会長が興味を示した。良い展開だ。
「そうなんですか!今、流れている噂は暴力的で彼らの名誉を貶めています。本来なら感謝すべき行いなのに」
「確かにそうね」
真顔になり頷く。流石、生徒会長だ。筋の通った話は早い。
「彼らに会ってみませんか?例えば、彼らを招いた生徒会主催の集会を開くとか?インタビューして感謝の意を伝えるちょっとした集会です。もちろん非公式行事というか任意参加というか。放課後に軽く、みたいなノリで」
「なるほど。いいアイディアね」
よし。ここまでは順調だ。ここからが肝心だ。
「それで、不躾なお願いですが、そこには是非に二階堂玲さんにも参加して欲しくて」
「二階堂さん?なぜ?」
「まあ、それは・・・ブチ工業の彼らたってのお願いで・・・あの美貌ですので・・」
汐入はぼんやりと意図を伝える。
「なるほどね。そこはあまり詮索しない方が良さそうね。でも大丈夫。彼女に声をかける事はできるわ。個人的な繋がりがあるし、彼女もあの影を見て怯えていた一人だったから、お礼を伝える義理はあるかも知れないわね。強制はできないけど上手くやってみるわ」
「それで結構です。是非、お願いします!」
汐入は上手く話しを取り付けた。
◇◇◇
そして、ある日の放課後、非公式の感謝集会がアジ三の体育館で開催された。
僕は、千本松くん、梅屋敷さん、大森さんのブチ工業の三人と一緒に舞台の上に用意された席に座っている。そして二階堂玲さんは舞台下の最前列に来てくれている!他、集まってくれたのは40名ほどか。なかなか盛況だ。
早速、生徒会長の北品川さんから今日の趣旨と、生徒会主催ではあるが学校行事としては非公式のイベントである旨の説明がされる。
北品川さんが僕たちを紹介してくれる。僕は名前を呼ばれ、起立し礼をする。そして千本松くん達も同様に紹介される。リーゼント、スキンヘッド、金髪に会場が騒つく。
えっ?何?ヤバっ!
昭和?タイムリープ?
ヤンキー、こわ〜い。
やっぱりボコボコにしたって本当じゃない?
などなど、アジ三の女子達の騒めきがわりとハッキリと聞こえてくる。
「では、当時の状況を聞いてみましょう。本当に出たんですか?どの様な感じで出ましたか?」
と北品川さんが僕にマイクを向ける。
「えっと、夕方、薄暗くなったら頃合いでした。何の前触れもなくスゥっと廊下に人影が浮かんできました。僕と汐入、あ、ここの一年生の汐入悠希です、僕らは美術準備室から廊下を見ていたのですが明らかに僕らの影ではない人影でした」
僕は真実を知っているが、なんとかそれらしく語る。その様な怪しいモノを三人が退治したというシナリオにしなくてはならない。
「それで?どうやって退治されたのですか?」
「あ、いや、僕は何も」
「ここは俺が答えよう!」
千本松くんが割って入る。
「俺が法力で祓った。念を込めて念仏を唱えた!」
「いや!待て、千本松!俺の陰陽道だ。持っていたお札に俺の気と術を込めたからだ!」
と梅屋敷さんも入ってくる。
「いやいや!俺が十字架をかざしたからですよ。2回ともそのタイミングで影は消えた」
と大森さんも乱入。
「いや、違う!法力だ」
「何を!陰陽道だ」
「いや、十字架だ!」
「お前らの根拠はなんだ?」
「千本松こそ、法力なんてねーだろ!」
「お前こそ陰陽師じゃねーし、大森もエクソシストじゃねーだろ!」
三人は口論になる。
ああ、アジ三女子達が引いている・・・。折角、良いところを見せるチャンスが・・・と僕は頭を抱えた。その時、
「梅屋敷さん!あなただわ!」
北品川さんの一声でしんと体育館が静まり返る。
「私、実は持っているの。梅屋敷さん、あなたからは能力を感じるわ」
「お、おう!そうさ、俺の陰陽道だ!」
「ええ、そうよ」
なんだ、この展開?梅屋敷さんは本当は持っているのか?いや、そんな訳はない。影の真相は汐入が突き止めた通り、人の創作によるものだ。少なくとも影の退治には梅屋敷さんは関与していない。
「梅屋敷さん、彼女を見て。最近、疲労感が酷いの」
と言って北品川さんは二階堂玲さんを指し示す。千本松くん、大森さんも事態が飲み込めず事の成り行きを見守る。北品川さんが言葉を継ぐ。
「彼女に良くないモノが憑いているわよね。大した力はない小動物の霊みたいなモノだと思うけど」
「そうだな。その様だな」
全く動揺もせず梅屋敷さんがこの流れに乗る。
「私は感じ取ることはできるけど祓うことはできないの。梅屋敷さん、祓えるかしら?」
「もちろんだ!」
と言って梅屋敷さんは舞台を降り二階堂玲さんの前に立つ。掌を彼女の額の辺りにかざし
「むん!悪霊退散!」
と気合を込めて叫ぶ。すると、二階堂玲さんはふっと脱力しフラッとバランスを崩してしまった!慌てて北品川さんが支え、転倒は免れた。
「玲!大丈夫?」
「ごめんなさい。翠ありがとう」
と言って二階堂さんは自身の力で立つ。
「ちょっと意識が遠のいてしまいましたわ。でももう大丈夫です」
「玲、今のできっと祓えたわ。もう疲労感もなくなるはずよ」
北品川さんが伝える。
「だといいわね。梅屋敷さんといったかしら?ありがとうございます」
そんな馬鹿な。僕は呆気に取られる。梅屋敷さん、能力なんてないだろう?
「梅屋敷さん、もう一つお願い。ここ体育館全体も良くないの。最近部活で怪我が多発しているの。ここもお願いします」
北品川さんの更なるお願いにも、すっかりその気になっている梅屋敷さんは
「任せろ。祓ってやる!」
と悪ノリで安請け合いする。そしてスゥと息を深く吸い
「でぃ!!悪霊退散!」
と声を張った。
するとどうだろう。集会に来ていたアジ三の女子がパタパタと倒れた。それを見てつられる様に更に何人かが倒れてしまった。
まずい!何かがまずいぞ!と直感した僕が止めに入ろうとした矢先、キーンとマイクのハレーション音と同時に
「今日はこれまでだ!解散しろ!皆、倒れた人を保健室に連れて行ってくれ!」
と汐入がマイクを手に取り叫んだ。
◇◇◇
ちょっとした騒動になってしまった。アジ三側から僕らに対しては、以後気をつける様に、とよく分からない注意を受けてそれ以上のお咎めはなかった。一応、生徒会から招待されており学校から入校許可も降りていた為であろう。
それにしても何だったのだろう・・・。
後日、大森珈琲で僕、汐入、ブチ工業の三人が集まった。
「汐入、あの後、どうなった?」
「ま、大した事はない。倒れた生徒達は保健室で少し休んでその後は問題なく帰宅した」
そっか、よかった、と皆ほっとした。
「それにしても、何が起こったんだ?俺、能力者なのか?」
「いや、梅屋敷、それは無い」
即座に汐入が否定する。
そりゃそうだよな、単に悪ノリしただけだもんな、と千本松くん、大森さんが相槌を打つ。
「じゃあ何なんだよ、一体?」
「おそらくは集団催眠みたいなもんだろう」
汐入が冷静に受ける。
「あの後、北品川さんと少し話しをした。倒れたのは体育館で怪我をした経験のある生徒達だったみたいだ」
「えっ?じゃあますます、俺の能力のせいってことにならないか?」
まあ、聞け、梅屋敷、と言って汐入は説明を始めた。
◇◇◇
思い返してみれば、あの時、あの場は結構、同調しやすい環境が揃っていた様に思える。人影の霊的な現象に興味を持っていた人が集まり、それに影響を及ぼすリーダー的存在の北品川さんと二階堂玲さんがいた。
そして、皆からの信頼が厚い北品川さんは自身を持っている側だと言い、梅屋敷の能力を肯定した。更にはカリスマ的魅力を持つ二階堂さんが身をもってそれを実証し、みんなにあたかも梅屋敷が能力者であるかの様に信じ込ませてしまった。
そこに拍車をかける様に、梅屋敷は、二階堂さんに良いところを見せたい、二人に勝ちたいと、悪ノリでお祓いの真似事を続けてしまった。スキンヘッドにその眼力だ。低音の声も信頼感が出るしな。すっかり雰囲気を作ってしまったんだな。
二階堂さんのカリスマは絶大だからな。彼女にシンパシーを感じる生徒達は、私も二階堂さんと同じ様にならなくては、と無意識に自己暗示にかかってしまったんだろう。そして実際に体育館で怪我をした人達は同じ様に何かに憑かれているかもしれない、と思い込んだ。だから梅屋敷のお祓いの真似事で倒れてしまった。
そんな風に見えない力があの場を支配し、まんまと梅屋敷の似非能力にひっかかってしまった、という訳だ。
◇◇◇
「いや、ちょっと待て。確かに筋は通っているが、そもそもなんでも俺の能力が似非だと決めつけるんだ?」
「あるのか?梅屋敷?」
「いや、自覚はないけど。でも、もしかしたら持っているかもしれねーだろ!影を祓えたんだし」
「いや、実は影は全く霊的な現象ではなかった」
と、言って汐入はあの日の美術準備室での顛末を話す。
「ああ、あれはある特定の角度からの光であの部屋にある様々なものの影がキレイに重なり人影を形成するというのが原因だった。どの影がどう重なったらこの形になるのかわからないほど、色々なものが複雑に重なっていた。ぱっと見、意味をなさないオブジェが光に照らされるとその影が美しい造形を描く、みたいなやつだ。誰かの力作だ」
「なにぃ〜!」
「そうだったのか!?」
「そしたら俺たち三人とも偽物じゃねーか!」
「そうだよ。みんな偽物だよ」
アッサリと汐入が皆を否定する。
なんだよ、がっかりだ、俺らが祓ったんじゃないのかよ、と三人は文句を垂れ始める。
あ、それとな、実はな、ちょっと残念は知らせなんだが・・・と言って汐入はモゴモゴと何かを言いにくそうにしている。
「何だよ、ハッキリ言え!」
と千本松くんが切れ気味に応じる。
「二階堂さんの執事から接近禁止令を言い渡された!お前たちに伝えておくよう、頼まれた。少なくともあの執事が見てるところでは二階堂玲さんには近づくな。執事がすっ飛んで蹴り飛ばされるぞ」
「なにぃ〜、悪い事は何もしてないのに!」
「梅屋敷さんが悪ノリするからだろ!」
「なんだよ!俺のせいなのかよ!」
二階堂玲さんへの道が遠のき三人は悲観に暮れる。
「汐入、何とかならないのか?」
「なんとか、とは?」
「能力がないって事を証明すればいいんだろ?なんか良い手を考えてくれよ。実際、ないんだから」
「この誤解を解くのは無理だな。能力がある事はある意味、体育館で証明されてしまっている。それに梅屋敷は持っている、という噂で持ちきりだぞ。その状況で、『ない』ことを証明するのは不可能だ。『ある』という事は実例を一つでも示せればできるが、『ない』ということを示せる証拠はない」
そんなぁ〜、頼むよ〜、俺たち二階堂さんに近づけないじゃないか〜、と三人は泣きつく。
「何を言っているんだ?どの道、高嶺の花だろ?」
汐入は無慈悲に言い放ち、三人を奈落の底に突き落とした。
(おわり)




