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命の天秤  作者: 葛嶋心秋
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邂逅

命の天秤 過去作から色々と書き方とか、設定を見直して書き直している作品になります!何卒!

 振り下ろされた斧が薪をピシャリと二つに割った。周りを、生い茂る草木や木々に囲まれ、青年が一人、山の中腹で薪割りをしている。

 髪は黒髪で短く、ところどころに赤に近い葡萄色の毛が混じっている。焦茶の双眸にハイライトが光る。

 粗い麻布の灰色のチュニックに鹿皮のジャーキン。ズボンには防寒性のある焦茶の厚手のトラウザーを身につけている。

 近くに青年の家らしき家屋があった。家屋は全て木造で、納屋と繋がっており、柱や扉を構成する木材には大きかったり、小さかったりする象形文字が象られている。

「ロイお兄ちゃん、朝ごはんできたよー!」

 ロイという名の青年の妹と思われる少女が、懸命に、また、実直さを感じさせる声で呼んだ。

 少女は紫紺色の髪の毛で、ルビーピンクの空にフクシア色の星を散りばめたような綺麗な瞳が輝く。

 くたっとした質感で、手首に絞りがあるケミスに、コルセット付きジャンパースカート型のワンピース。ワンピースはスモーキーグリーン色でスカートの裾をたくし上げられるよう紐が付いている。その上に、前に大きなポケットがついている少し汚れた白色のエプロンを付けていた。ポケットには小さなハサミや包帯、乾燥した薬草などが雑多に入れられている。

「分かったよ、ミラ」

 最後の薪を割り終わり、顔に滴る汗を拭いながら元気よくロイが答える。少女の名はミラといった。

 木造の家の中、朝の光が窓辺の薄布を透かしてゆらゆらと室内に揺れている。暖炉では小鍋がコトコトと音を立て、薬草とスープの混じった匂いが空気に溶けている。

 ロイは粗末な木の椅子に腰掛け、もぐもぐとパンをかじっていた。パンの端が少し焦げている。

「あ、焦げてる」

「ごめん、またやっちゃった?」

「これくらい全然いいよ、むしろ香ばしさが増して美味しいからさ」

「いつも焼き過ぎちゃうんだよねぇ」

「そうだね」

「ねえお兄ちゃん。今日、一緒に村に行かない?このままじゃみんなお兄ちゃんの顔忘れちゃうよ」

「いいよ。俺は。昨日は鹿を取り逃がしたし、今日こそは何か獲物を取ってきたいんだよ」

「そう、じゃあ次獲物が取れたら絶対に来ること、いい?お兄ちゃん」

「分かった」

「えへへー。やった、やった」

 ミラはニコニコしながら湯気の立つスープを木椀に分け、ロイの前に置いた。

 何気ない日常のやり取り。なんでもない朝だった。だけど、その何気ない日常に、二人は確かに幸せを感じていた。

 朝食を終え、ミラは布の鞄に薬草の束と包帯の布、乾燥した根をいくつか詰め込んだ。

 ロイは出入り口に立って、弓と矢筒を背負っている。

「じゃ、行ってくるね。子供たち、風邪ひいてるって言ってたから」

 ミラは帽子の代わりにスカーフを巻き、にっこりと笑った。

「うん、行ってらっしゃい。俺も日暮れには戻る」

「じゃあねー」

 ミラが歩き出しながらこちらに手を振った。ロイもそれに呼応するように手を振る。

 ミラの姿が森の小道の方角に消え、ロイは反対の山道へと足を向けた。

 いつもの狩場。けれどこの日は何かが違った。

 森に足を踏み入れた瞬間、その異常な静けさに息を呑んだ。

 木々が風に揺れ、小鳥が囀る。それらの音に耳を傾けながら森を進む。ロイはいつもそうして森に踏み入っていた。

 しかし、今日は一切の葉のざわめきが聞こえない。鳥の声もない。虫の羽音すら何処かへ消え去り、まさに音が死んでいるようだった。

 背中に背負っている弓の重みが妙に気になる。

 喉の奥が渇き、息が上手く通らない。

「いつも通りの道だ。何度も歩いてる。……なのに、何故なんだ」

 森の気配が変わっていた。それは明確な危機ではなかったが、体の芯が震えていた。

 気がつかないうちに、手のひらにじっとりと汗をかいていた。無意識のうちに緊張している。

「どうした、落ち着け、落ち着け」

 これ以上森の奥へ進んではいけないと本能が言っている気がした。けれどそんな恐怖を押し殺すように、獲物を探して進んでいく。

 そんな時、ロイの足が、土の上でとまった。

 視線の先、小さな窪地の中心に、それは横たわっていた。

 五メートルはある巨躯。地面に半ば沈むように倒れたその姿は、まるで腐りかけた石像だった。

 黒く濁った肉の塊に、骨が突き出し、皮膚はどろどろに溶けている。

 最初に視界に入ったのは、その頭だった。牛の頭骨に似た頭蓋骨。濁った白色の乾いた骨に、ところどころ腐った肉がまるで剥ぎ取られた皮膚が再びくっついたように歪にまとわりついていた。

 骨の隙間から湯気のような黒い靄が漂い、息をしているかのようにも思えた。

 ロイの呼吸が止まった。心臓が強く脈打つ音だけが体の奥で鳴り響く。

(あれは……生きているのか……?)

 その思考が浮かんだ瞬間、それがぴくり、と動いた。ゆっくりと、まるで地中から這い出るような動き。片腕がグシャリと地面に沈んだかと思うと、重力を裏切るように、静かに体が起き上がっていく。

 (嘘だろ……)

 ロイの喉が鳴った。しかし、それでも声は出ない。叫ぶべき息すら、肺の奥に張りついていた。

 それは、間違いなく人間に似た形をしていた。だが、長い四肢と、異常に太い猛禽類のような脚が、どうみても生物のバランスを逸脱していた。

 体から放たれる黒い瘴気が、空気そのものを鈍く重く染めていく。

 ロイはその場から一歩も動けなかった。そして、目が合った。

 頭蓋骨の奥に潜む二つの赤黒い光点。

 一瞬で、体温が全て足元に吸い込まれていくような感覚。心臓が止まったかと思うほど、何も感じない。何も聞こえない。

 ただ、その存在だけが圧倒的にそこにあった。

 そして、それが声を上げた。

 最初は喉の奥にこびりついた痰のような濁音だった。

 ぐぐ……っ、ぐぉ、ぐぅという低く濁った音が、重たく響き渡る。

 次の瞬間、空気が破裂したような叫びが森に放たれた。

「ガ、アァァァァアアアア!!!!」

 獣の咆哮でもなければ、人間の叫びでもない、ただ、生に執着した何かが、存在を告げるために吐き出した絶叫だった。

 音が鼓膜を突き刺す。耳の奥がビリビリと痺れ、頭の中で鐘を乱打されているような衝撃が走る。

 木の枝がざわめく、土の上の木の葉が震える。遠くに身を潜めていた鳥たちが、まるで爆発から逃れるように、一斉に飛び立っていった。

 目の前のそれは、叫びながらゆっくりとこちらへ進んでくる。

 巨人のような足音と、血を這うような呻きと共に。

 言葉にならない叫びが、ロイの心に直接突き刺さってくる。

 身のうちに巣食う憎しみと恨みのこもった叫びが。

「…………ガ、ヴ、ガァァアアァァアア」

 ついにロイは走り出した。だが、同時に、背筋に冷たい風が這う感触を得た。

 後ろを振り向くと、何かの成れの果てのような姿のそれから、ドロドロとした黒い光がこちらに向かっている。

「……!?」

 まるで泥と煙を混ぜたような黒い光の塊。それは、風にも重力にも逆らって宙に浮き、形を変えながら意志を持つがごとく動いていた。

 そして次の瞬間、弾かれたようにロイの胸に飛び込んできた。

「ッぐ、あ、あああああ!!」

 鋭い衝撃。だが、それ以上に、体の中に何かが入り込む異常な感覚があった。

 黒い光が、皮膚を突き破るのではなく、肉と骨の隙間を探し出して滲み込んでくるようだ。

 全身が焼けるように熱い。内側から焼くように侵食していく。

 骨髄がある場所から燃えるような熱を感じる。

 ロイは胸を抱えて地面に崩れ落ちた。

 呼吸が出来ない。視界が白く霞み、世界の輪郭が歪んでいく。

 皮膚の下で何かが這うように筋肉の奥へ、骨の奥へと染みていく。

「がっ!ああああぁぁぁあああ!!!」

 声にならない絶叫をあげ、悶絶するしかない感覚に精神さえも蝕まれる。

 徐々に意識が薄れていく。そんな中、低く悍ましい声で聞こえてきた言葉があった。

「我が憎しみと恨みの深さをを思い知らせよ」

 脳髄に刻まれるような禍々しい声音。

 世界が静かに沈んでいく。視界が、暗闇に溶けた。


「……ちゃん!」

 水の中にいるような音声で、誰かが必死になって叫んでいる。

「お兄ちゃん!」

 次第に声は大きく、鮮明になり聞き取れるようになっていった。

「ロイお兄ちゃん、起きて!」

 次の瞬間、ロイは飛び起きるように目を覚ます。

「うああああああ!!!!!」

「うわぁぁぁぁ!!!」

 ロイが叫びながら飛び起きたせいで、ミラまでもが絶叫し吃驚した。

「ちょっと脅かさないでよお兄ちゃん。でも、よかった、目を覚ましてくれて。日暮れになっても帰って来ないんだから……まったくもう」

 少し涙目になりながら、ミラは怒った。

「ごめん、ミラ。あの化け物は!?」

 即座に後ろを振り向いて、あの得体の知れない生物の存在を確認した。しかし、そこはもぬけの殻、何も残ってはいなかった。あの腐って滴り落ちた肉や血すらも、跡形もなく消えていた。

「化け物?」

 ミラが首を傾げながら不思議そうに言った。

「いたんだ、すごく大きな体をしている化け物が。色んな生物の体を継ぎ接ぎみたいにくっつけたような姿だったんだ。それでそのバケモノから何かドロドロのものが出てきて……それで……」

 忘れていた事を徐々に思い出していく。気がついたように、ロイは上半身の服を脱ぎ始めた。

「どうしたの、お兄ちゃん」

「ドロドロの光が俺の体に入ってきたんだ、何か異常がないかその確認のために」

 服を脱ぎ終えた時、二人はその光景に息を呑んだ。

 左肩から手首にかけて、木の根が這ったような黒い紋様のような痣皮膚の下に刻まれていた。

「なん……だ、これ……」

 ミラの胸の奥が冷たく締め付けられた。見たことがある。昔、薬草の本と一緒に挟まっていた、古い書物の挿絵。

 (呪われし者黒き印が刻まれる)

「お兄ちゃん……それ。もしかすると呪い……なんじゃないの?」

「呪い?」

 「昔本で見た事がある、でも詳しくは私も分からないの」

「そうか……やばい代物じゃないことを祈るしかないな」

「そうだね……痛い?」

 ミラが痣に触れようとする。

「いや、痛くはない。ただ、なんだろう。心が騒めく感じがする」

「もしかすると私の薬草で治るかもしれない。もう夜も深いし、帰ろう、お兄ちゃん」

「ああ、そうだな。帰ろう」

 暗くなった森の帰路につく。ロイは自分の身に起こった事がいまだに信じられないようだった。ただ困惑していた。そのせいか足取りが重く感じられた。

 家に着いた二人は軽く夕食をとり、ミラはロイに薬草で作った薬を腕に塗ってあげた。

 寝る支度を済ませてベッドに入る。いつもはそんな事しないミラだったが、今日は寝る時、ロイのベッドに入ってきた。

「どうしたんだよ、ミラ」

「私がどれだけお兄ちゃんの事を心配したか、お兄ちゃん知らないんでしょ。本当に心配したんだからね。もうこんな事ないようにして欲しい……」

 少し拗ねたような表情、口をつぐむようにして小さな声で言う。そして言い終わると同時に腕と足をロイの体に回して、ベッドの毛布の下でギュッと抱きしめた。

「ごめん、ミラ。今度からは危ないと思ったらすぐ帰るようにする」

「危ないと思ってたのに進んだの?バカバカバカ、お兄ちゃんのバカ」

 そう言いながらロイの肩をポコスカ殴った。


 ロイの体に痣ができて数日が経った。特にこれといって異変はなかった。ミラは、薬が効いてるのかもね、なんて言っている。

 数日振りにロイは山に入っていった。

 空気はいつも通りのはずだった。けれどロイの目には、森の輪郭がはっきりと見えすぎていた。

 風の音が、木の葉が触れ合う音が、まるで耳元で囁かれているかのように鮮明に聞こえてくる。地面に落ちている枝の細かな位置までもが明瞭に、また異様な程届いてくる。

「なんだ……これ」

 弓を手に、ゆっくりと森を進む。気配を探る必要すらない。そこにいると感じるのだ、はっきりと。

 木陰でじっとしていた鹿がビクリと反応する。

 ロイは無言で弓を構える。手は全く震えず、狙いは外れない。

 まるで弦と矢が体の一部になったかのような、そんな感覚。

 そして、放った。

 矢が空気を裂きながら、ヒョウと音をたてながら鹿の首元へと飛ぶ。

 その矢が突き刺さり、もう一本を構える。そのはずだった。

 しかし、次の瞬間、

 ズバンッ!!

 乾いた音とともに、鹿の頭と胴体が、この二つに裂けた。

 血が飛び散り、木の幹に紅い線を描く。鹿は瞬間的に命を失い、音を立てて崩れた。

 ロイは動揺した。

「どういうことだ……これは……!」

 弓を見下ろす。ただの狩猟用の、いつも使っていた弓だ。

 だが、矢を放った瞬間、左腕に電流のような痺れと熱が走った事を思い出す。

「俺の力……なのか……?」

 鹿を担ぎ、家に帰る。いつもならば鹿を担いで持って帰るのは、一苦労だったのだが、今回は違った。なんの重みも感じなかった。

 ロイは薄々自覚していた。呪いのせいなのであろう事を。強靭的な反射神経と筋力の発達、また神経系の異常な強化を目の当たりにしたロイは、自分の力に恐怖していた。いつか誰かを傷つけてしまうのではないか。左腕を強く握りしめる。

 その日の夜。

 ロイはまだ、自分の力の変化を、ミラに伝えられていなかった。余計な心配かけたくない。そんな思いからだった。

 ロイは獣の骨を削ったナイフを手入れしながら、薪がぱちぱちと音を立てて燃えている暖炉の前に座り、黙って火を見つめていた。暖炉の火が、壁にゆらゆらとオレンジ色の影を投げかけていた。

 ミラはロイの隣にちょこんと座り、体を、ロイにそっと預けた。

「お兄ちゃん、あったかいね」

 ミラが小さな声で呟いた。

「……」

 ロイは黙るフリをして、実は幸せを噛み締めていた。妹とは言え、温かい暖炉の前で可愛い女の子に寄りかかられて、最高のシチュエーション過ぎるだろ。と内心思いながら黙っていた。心は有頂天だった。

 少し沈黙が流れ、それからミラが、不意に言った。

「……こんな生活が、ずっと続けばいいのにね」

 ロイの手が止まる。

 手入れ中だったナイフをそっと膝の上に置き、ミラの横顔をちらりと見た。

 ミラは火を見つめたまま、まばたきを一つ落とした。

「薬草を摘んで、ごはんを作って、夜になったらこうして並んで……。ね、贅沢じゃないのに幸せって、たぶんこういうことなんだよね」

「ああ、そうだね。俺もそう思うよ、ミラ」

 ロイは自分が世界で一番幸せなのではなかろうかと錯覚した。そう錯覚するくらい、ミラとのこの時間が幸せでならなかった。

 焚き火の音が静かに、優しく、家を包み込んでいた。その温もりが、永遠に続け、そう願った。


 次の日。

 森の中で血を流した鹿を担ぎながら、ロイはぬかるむ山道を家に向かいながら歩いていた。

 冷たい雨が、首筋から染み込む。服はずぶ濡れだ。

 (早く火を起こして温まろう)

 そう思いながら、木造の家の前に差し掛かる。

 と、そこで――

 ロイの目が、玄関先の異物をとらえた。

 玄関先のミラの前に、赤い外套と漆黒の軽装鎧を纏った見知らぬ若い男が立っていた。

腰には細身の片手剣がちらりとのぞく。

 ミラの表情はどこかぎこちない。男の方はというと、落ち着きはらった表情で何かを語っている。

 警戒を高め、一歩ずつ向かう。

 ぐしゃりぐしゃりという足音を聞いたその男は、

「……お兄さんが帰られたようですね」

 と一言。こちらへ振り向く。

 その言葉と同時にミラもロイの姿に気づく。そして、

「お兄ちゃん……」

 と恐怖でのけぞるような声音で呟く。次に、

「来ちゃだめ!」

 と叫んだ。

 男がゆっくりとロイの方へと視線を向ける。

 雨の中、ロイの肩に張り付いた服が、ぴたりと肌に吸い付いていた。

 左肩から手首にかけての黒い紋様――それが布越しに浮かび上がっていた。

 男の目が、ほんの僅かに細められる。

「なるほど、これは……厄介だな」

 ぽつぽつと降り続ける雨音の中で、その声だけが静かに響いた。

 次に男の外套が翻った。雨を払うように細身の剣が鞘から滑り出る。

 抜かれた剣を見て、ミラが叫ぶ

「逃げて!お兄ちゃん!」

 逃げようと反対方向に走り出そうとした瞬間、その男はロイの目の前へと瞬間で飛び、道を塞いだ。

 赤い外套の男は、剣を抜いたまま動かず、ロイを見据えていた。

 雨粒が彼の肩を濡らし、剣先から雫がぽとぽとと落ちる。

 男が喋りだした。

「……君の肩にあるそれ。それは黒紋と呼ばれる呪いの徴。――鬼の呪いを得た者に現れる痕跡だ」

 「なんだって……?」

 動揺が隠せないロイはたたずんだままだ。

「やめて!お兄ちゃんは人を傷つけない!」

 男はその言葉にも動じず、ただ静かに言った。

「それはまだ、だ。鬼の呪いとはそういうものだ。穏やかなままではいられない。憎しみと怒り、恨みと恐怖。それらに飲み込まれ、力に喰われる。そしていつしか人間を傷つける存在になってしまう」

 男は視線を空へと向けた。

「私たちは力を恐れているわけじゃない。だが――その呪いに染まった者が数万人の命を奪った事実を忘れてはならない。更にはこの世界までもが危険に晒されている」

 雨の音が静かに強まる。

 ロイの口が固く結ばれる。

 男は一つ、ため息のようにこぼした。

「……だから、ここで終わらせる。長かった戦いも、これで終わりだ」

 騎士の声は冷たく静かだった。

「やめてっ!」

 ミラが叫ぶより先に、男の足がぬかるみを踏みしめ、一歩、踏み込んだ。

 次の瞬間。

 ザシュッ――!

 鋭い音と共に世界が歪んだ。

 男の剣が、まるで躊躇いなく――ロイの腹部を切り裂いていた。

読んで頂きありがとうございます!これで1話目完結になります!

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