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ちあふる☆じゃーにー ~三人姉弟の電車旅~  作者: 霧南
終着駅-たびのおわり-(8月25日)
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■2■ 母君曰く

「もうそろそろ家が近いわね」


 正午を少し過ぎた頃、私達はうきうき気分で歩いていた。町外れ、人家も少しまばらな郊外に私達の家はある。


「長かったよねー、ほんと!」

「僕も少し疲れた、今日も暑いし」


 もうすぐ家に着くとあって、進も少し疲れが出てきてるみたい。


「あの角を曲がれば……いよいよ我が家!」


 私はくるんっとその場で一回転する。少し先にある黒塗りの木塀を右に曲がればすぐそこだ。


「ラストスパート! 全力ダーッシュ!」


 私は二人をパパッと出し抜いて走り出した。そのまま、勢いよく角を曲がる。


「……えっ?」


 そこにあったのは、見知った我が家では無かった。


「あれっ? ……えっ?」

「どうしたのよ、千歳?」


 後からゆっくり歩いて来た彩お姉ちゃんと進は、不思議そうな顔をした。


「家が……家じゃないよ!」

「何訳の分からないことを……」


 そう言いながら私の隣まで来た彩お姉ちゃんも、先が続かなくなる。


「二人とも一体……」


 進も同じだった。三人でその場に立ち尽くす。目の前にあるのは、まるで旅館みたいな家だった。私の知っている我が家よりも若干広い……というか別物。


「でも見て。表札、如月ってなってるよ?」

「あ、本当」


 気付いたのは進。確かに表札はちゃんと如月ってなってる。


「どういうことかしら?」


 そう言って彩お姉ちゃんが頬に指を当てたのと同時に、家の引き戸が開いた。


「あらあら、お帰りなさい」


 中から顔を出したのは、他でもない、我らが母上だった。




……





「で、これどういうことなの?」

「ふふっ、驚いたでしょー?」


 居間のテーブルでお茶をしつつ話す。


「随分と大掛かりなリフォームをしたみたいだけど……増築もされてるみたいだし」


 進は家の中を見回しつつ言った。


「そう、その通りよー。はい、お茶のおかわり」


 どこまでもマイペースに話を進める母君。私も辺りを見回すと、以前の家の面影もあちこちに残っていた。


 そんな私達を見ながら母君様はにっこりと満面の笑みを浮かべる。


「彩も千歳も進もこんなに驚いて、秘密にしてた甲斐があったわー」

「あっ! そうそう、そんなことより、睦月家の……」


 彩お姉ちゃんが言いかけると、お母さんはショックを受けたような表情をする。


「そ、そんなことですってー……!?」


 よよよ、と泣き声が聞こえてきそうなほど落ち込む母君様。あーもう、お母さんってば!


「あぁ……すごく大切なことよね、リフォーム。わたしすごく驚いたわ」


 彩お姉ちゃんが言うのを聞いてパッと母の顔が明るくなる。


「そうよねそうよね、よかったわー。それで、睦月家がどうかしたのかしらー?」

「わたし、今まで全然知らなかったわよ。その……わたしが睦月家からの養子だっただなんて……」


 彩お姉ちゃんが少し口ごもる。


「どこに行っても彩は彩、わたしの娘よー」


 事も無げに言うお母さん。ブレないマイペース!


「でも、結局そのお話は断っちゃったのよねー……」

「わたしは、こっちの方が性にあってるわよ」


 彩お姉ちゃんは苦笑しながら言った。


「んー……千歳お姉ちゃんを止められるのは彩お姉ちゃんだけだしね」


 進がぽつりと言う。


「ん? それ、どういう意味かなぁ、進君? 反抗期かな?」

「ち、千歳お姉ちゃん、笑顔恐い!」


 少し後ずさる進。


「ま、久々に帰ってこれて気分もいいし、今日は見逃しちゃおっかな♪」

「よ、よかった……」


 ホッと胸をなでおろす進。ふふっ、やっぱり可愛いなぁ♪


「それにしても、睦月家に行くのが旅の目的なら、最初っからそう言ってくれればよかったのにぃ」


 私はお母さんに向き直って言った。


「睦月家が、旅の目的……?」


 きょとんとした表情になるお母さん。


「そう。彩お姉ちゃんの話を睦月家からしてもらうために、わざわざ私達に旅をさせたんでしょ?」

「あらあら千歳……あなた達を睦月家に行かせたのは、単なる旅のおまけよー?」

「「「えっ?」」」


 見事にハモった私ら三人と、頬に手を添え笑みをたたえる我が母三十九歳。


「前々からリフォームしようと思ってたのよー。旅の間に改装して驚かせてみようかしらって思ってー」


 いつものマイペースぶりで話すお母さん。


「丁度あなた達が如月の実家にいた頃かしら、睦月さんのお家と電話口で盛り上がってしまってー」


 その時の事を思い出したのか、はぁっと色っぽくため息をつく我が母君様。何でそこで赤くなるんだろ?


「彩もいい年だもの、生まれの事も睦月家で話してもらおうかしらー、なんならお宅にお帰ししましょうかー?という話になったのよー」


 旅行の間の猫のお世話をお願いするような、そんなノリで話すお母さん。


「何よそれー……」


 気が抜けたように言ったのは彩お姉ちゃんだった。


「あららー? 彩は彩、どこに行ってもわたしの娘だもの、大したことじゃないわー」


 お母さんは本当に大したことないような口ぶりで言う。私達、あんなに悩んだのにっ!


「はぁ……」


 ため息をつく彩お姉ちゃん。お母さんのマイペースぶりには慣れてるとは言え、私も進も、なんだか気抜けしてしまったのでした。

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