■3■ 旅の終わりの打ち上げ花火
ぱぱーん、どっぱぱーん!
花火の音が辺りに響く。ライブも一通り終わって、花火の時間になっていた。
「たーまやー♪」
「かーぎやー!」
祭りの喧騒から少し離れた道路に三人で並んで座り、適当に声をかける。今日は進も大分テンション上がってるみたい。
「ここいらで花火見ながら一杯やりたいところだね、彩お姉ちゃん♪」
「わたし達は未成年でしょ」
予想通りの答えが返ってきて満足満足♪
「でも千歳はすぐ酔っちゃいそうねぇ、手に負えなさそう」
「確かに」
二人とも、何か想像したのか、神妙な顔つきで頷く。遠くでひゅるひゅると蔦のような花火が花咲いた。
「……なんか二人とも、失礼な想像してない?」
「「ぜーんぜん」」
彩お姉ちゃんと進の声が見事にハモる。
「二人ともーっ!」
私の声と同時に、どっぱーんと大きな花火が打ち上げられる。
「進は、ワインとか似合うんじゃない?」
「わ、ワイン?」
意外そうに進が聞き返す。
「あ、分かるよー! 進ってさ、こう、玉座でワインを揺らしながら『奴がやられたか……我らの面汚しめ』とか言っちゃったり?」
「しないよ!」
「博多で夜景を見ながら『キミの瞳に百万ボルトさ』とか言っちゃったり?」
「しないよっ!」
全力で否定する進。必死な姿も可愛いなぁもう♪
「じゃ、帰りに焼き鳥屋でビールを飲みつつ『先輩に振り回されっぱなしでさぁ、嫌になっちゃうよ……』とか愚痴っちゃったり?」
「しな……いや、するかも」
「するんだ」
彩お姉ちゃんが苦笑する。進は庶民派だなぁ。
「たーまやー♪」
どーんと一際大きな花火が打ち上げられる。もうそろそろ終わりも近いのかもしれない。
「今年の夏は、なんだかあっという間だったわね……」
ふと、彩お姉ちゃんがぽつりとつぶやく。
「いろいろあったもんねー」
私は花火を見上げながら言った。
「千歳お姉ちゃんに振り回されっぱなしだった気がする」
「おいおーい、それどういう意味だい、進くん?」
ちろりん、と進に視線を落とす。
「そのままの意味じゃないかしら」
彩お姉ちゃんがくすくすっと笑う。同時に、ぽんぽんぽぽぽん、と連続花火が始まった。
「綺麗ー♪」
なんだか花火見てたら、細かいことはどうでもよくなってしまった。
「来年も、またこうして三人で見られるのかしら……」
彩お姉ちゃんは花火に目を向けたまま再びつぶやく。
「あらあら、彩お姉さま? 恋人の一人でも作ったりしませんの?」
「千歳お姉ちゃん、またそんなこと言って……」
私と彩お姉ちゃんをちらちら見比べつつ不安げな進に対して、彩お姉ちゃんは花火を見つめたままだった。
「……そうね」
少し間をおいて、彩お姉ちゃんが口にしたのは、それだけだった。
たまに……たまに、彩お姉ちゃんの考えてることが全然分からなくなる。今見てる花火も、同じ花火を見ているようで、彩お姉ちゃんには全く別の光景が見えてるんじゃないか、と思ってしまう。
私も、次々打ち上げられる花火に視線を戻した。生まれて、消えて、生まれて、消えて。光の一瞬が続いて、それが一つの流れになって……まだ続くと分かってても、いつか終わる時のことが頭をかすめる。
今この一瞬が確かにここにあって、私がここにいて、進も、彩お姉ちゃんも隣にいて……確かだと思ってたことが、どんどん曖昧になっていく。こんなにも綺麗で、こんなにも儚くて、こんなにも心を惹きつける……それはまるで魔法にかかったみたいな時間だった。私も、彩お姉ちゃんも、進も、何も言わずに花火を見つめていた。
(彩お姉ちゃん……進……何を考えてるんだろう? 私、知ってるようで何も知らないのかも……)
ふと、彩お姉ちゃんや進も同じこと考えてたりして……と思ったら、何だか可笑しくなってしまった。花火はもうそろそろフィナーレが近いのか、ペースが少し速くなる。
(いろいろあったなぁ……)
旅に出てからのいろんなことが、今見てる連続花火のように次々と頭の中に浮かんでくる。七尾村のお婆ちゃん、百合丘の少女、温泉宿の兄妹、千里町の先生、西園寺のぼーさん、如月本家、睦月家……。
「また、一緒に旅ができるといいね」
ふと、口から出てきたのはそんな言葉。
「そうだね」
進が言うと、彩お姉ちゃんも「そうね」とつぶやいた。
(この夏の旅は、ずっと忘れないから……)
最後の花火が盛大に打ち上げられて、花火大会の幕が閉じられる。花火が終わった後も、しばらく三人で星空を見上げていたのでした。
……
…
そしてこの日の夜更け、家に帰ってくるよう促すメールが、お母さんから届いた。