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ちあふる☆じゃーにー ~三人姉弟の電車旅~  作者: 霧南
古里村-ふるさとむら-(8月22日)
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■3■ 旅の終わりの打ち上げ花火

 ぱぱーん、どっぱぱーん!


 花火の音が辺りに響く。ライブも一通り終わって、花火の時間になっていた。


「たーまやー♪」

「かーぎやー!」


 祭りの喧騒から少し離れた道路に三人で並んで座り、適当に声をかける。今日は進も大分テンション上がってるみたい。


「ここいらで花火見ながら一杯やりたいところだね、彩お姉ちゃん♪」

「わたし達は未成年でしょ」


 予想通りの答えが返ってきて満足満足♪


「でも千歳はすぐ酔っちゃいそうねぇ、手に負えなさそう」

「確かに」


 二人とも、何か想像したのか、神妙な顔つきで頷く。遠くでひゅるひゅると蔦のような花火が花咲いた。


「……なんか二人とも、失礼な想像してない?」

「「ぜーんぜん」」


 彩お姉ちゃんと進の声が見事にハモる。


「二人ともーっ!」


 私の声と同時に、どっぱーんと大きな花火が打ち上げられる。


「進は、ワインとか似合うんじゃない?」

「わ、ワイン?」


 意外そうに進が聞き返す。


「あ、分かるよー! 進ってさ、こう、玉座でワインを揺らしながら『奴がやられたか……我らの面汚しめ』とか言っちゃったり?」

「しないよ!」

「博多で夜景を見ながら『キミの瞳に百万ボルトさ』とか言っちゃったり?」

「しないよっ!」


 全力で否定する進。必死な姿も可愛いなぁもう♪


「じゃ、帰りに焼き鳥屋でビールを飲みつつ『先輩に振り回されっぱなしでさぁ、嫌になっちゃうよ……』とか愚痴っちゃったり?」

「しな……いや、するかも」

「するんだ」


 彩お姉ちゃんが苦笑する。進は庶民派だなぁ。


「たーまやー♪」


 どーんと一際大きな花火が打ち上げられる。もうそろそろ終わりも近いのかもしれない。


「今年の夏は、なんだかあっという間だったわね……」


 ふと、彩お姉ちゃんがぽつりとつぶやく。


「いろいろあったもんねー」


 私は花火を見上げながら言った。


「千歳お姉ちゃんに振り回されっぱなしだった気がする」

「おいおーい、それどういう意味だい、進くん?」


 ちろりん、と進に視線を落とす。


「そのままの意味じゃないかしら」


 彩お姉ちゃんがくすくすっと笑う。同時に、ぽんぽんぽぽぽん、と連続花火が始まった。


「綺麗ー♪」


 なんだか花火見てたら、細かいことはどうでもよくなってしまった。


「来年も、またこうして三人で見られるのかしら……」


 彩お姉ちゃんは花火に目を向けたまま再びつぶやく。


「あらあら、彩お姉さま? 恋人の一人でも作ったりしませんの?」

「千歳お姉ちゃん、またそんなこと言って……」


 私と彩お姉ちゃんをちらちら見比べつつ不安げな進に対して、彩お姉ちゃんは花火を見つめたままだった。


「……そうね」


 少し間をおいて、彩お姉ちゃんが口にしたのは、それだけだった。


 たまに……たまに、彩お姉ちゃんの考えてることが全然分からなくなる。今見てる花火も、同じ花火を見ているようで、彩お姉ちゃんには全く別の光景が見えてるんじゃないか、と思ってしまう。


 私も、次々打ち上げられる花火に視線を戻した。生まれて、消えて、生まれて、消えて。光の一瞬が続いて、それが一つの流れになって……まだ続くと分かってても、いつか終わる時のことが頭をかすめる。


 今この一瞬が確かにここにあって、私がここにいて、進も、彩お姉ちゃんも隣にいて……確かだと思ってたことが、どんどん曖昧になっていく。こんなにも綺麗で、こんなにも儚くて、こんなにも心を惹きつける……それはまるで魔法にかかったみたいな時間だった。私も、彩お姉ちゃんも、進も、何も言わずに花火を見つめていた。


(彩お姉ちゃん……進……何を考えてるんだろう? 私、知ってるようで何も知らないのかも……)


 ふと、彩お姉ちゃんや進も同じこと考えてたりして……と思ったら、何だか可笑しくなってしまった。花火はもうそろそろフィナーレが近いのか、ペースが少し速くなる。


(いろいろあったなぁ……)


 旅に出てからのいろんなことが、今見てる連続花火のように次々と頭の中に浮かんでくる。七尾村のお婆ちゃん、百合丘の少女、温泉宿の兄妹、千里町の先生、西園寺のぼーさん、如月本家、睦月家……。


「また、一緒に旅ができるといいね」


 ふと、口から出てきたのはそんな言葉。


「そうだね」


 進が言うと、彩お姉ちゃんも「そうね」とつぶやいた。


(この夏の旅は、ずっと忘れないから……)


 最後の花火が盛大に打ち上げられて、花火大会の幕が閉じられる。花火が終わった後も、しばらく三人で星空を見上げていたのでした。




……





 そしてこの日の夜更け、家に帰ってくるよう促すメールが、お母さんから届いた。

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