■2■ 夏の祭りとりんご飴
夕暮れ過ぎて、宵の口を迎えた頃。提灯の灯りがあちこちにあって、すごい賑わいを見せている。そう、今日はここ、古里村で夏祭りです!
「思ったより大きな規模なのね」
村のお祭っていうからもっと小さなお祭なのかと思っていたけど、予想以上に大きな規模だった。新米アイドルもライブをするために来ているらしく、結構なご盛況。この後は花火大会もあるみたい。
「千歳、迷子にならないように気をつけるのよ?」
「イエッサ! ……って、何で私だけ? 進は?」
「説明の必要、あるかしら?」
あっけらかんとして言ってのける彩お姉ちゃん。
「彩お姉ちゃんってばーっ!」
反論できないけどさあ……。
「千歳お姉ちゃん、しっかりしてよ」
「進までー、もぅ……」
何度目かも分からないそんなやりとりをしつつ、三人で回ることにした。
「あ、射的だぁ」
「こっちは金魚すくい!」
「おぉぉ、たこ焼きまで!」
「クレープ!」
「千歳お姉ちゃん、少しは落ち着きなよー」
後ろを歩いていた進が少し早足になって言う。
「進も本当ははしゃぎたいんでしょ? 我慢しなくてもいいよー……あっ、待ってて、チョコバナナ買って来る!」
「え? あっ、ちょっと!」
「千歳、走ったら危ないわよー!」
そんなこと言われても、善は急げだよ!
タッタッタッ……。
……
…
「千歳、あなた本当によく食べるわねぇ」
「すごく幸せー♪」
クレープ、たこ焼き、焼きそば、イカ焼き、焼きもろこし、かき氷、リンゴ飴、大判焼き……気がついたらたくさん買い込んでしまった。
「お腹壊すよ?」
綿菓子片手に進が見上げてくる。
「大丈夫だよー♪」
今川焼きを食べつつ、サムズアップを進に向けてあげる。今の私、きっと超カッコいい。
「あっまた射的!」
「千歳、ちゃんと食べ終わってからになさいっ」
「はぁーい♪」
残りの今川焼きを一口で食べた後、りんご飴を口の中に放り込む。呆れる彩お姉ちゃんと進を尻目に、私は出店に向かった。
ポンッポンッポポポンッ。
軽快な音が響いて、小さな景品が次々と裏に落ちていく。
「彩お姉ちゃんすっごーい!」
りんご飴を口の中で転がしながら、私は彩お姉ちゃんに喝采を送った。
「これくらい簡単ねっ」
得意満面の笑みを浮かべる彩お姉ちゃん。今日ばかりは彩お姉ちゃんも少しテンション高めだ。ちなみに私は一つも取れずに大惨敗。べ、別にへこんでなんかいないんだからねっ!
ポンッポンッと隣からも音がする。同時に、少し大きめの景品がドンと下に落ちる。
「す、進まで……!」
「良い銃を選ぶ、狙える景品をよく考える、重心を意識して計画的にズラしていく……いくつか気をつければ、ちょっとした大物を落とすのもそう難しくはないよ」
難しいよ……と心の中でツッコミをいれる。もしかしてあれなの? 体は子供、頭脳は大人?
「進! もしかして黒い組織に狙われてるの!?」
私はそう言いながら、棒だけになったりんご飴の先をビシッと進に突き付けた。
「えっ?」
きょとんと私を見上げる進。
「千歳の場合、体は大人、頭脳は子供ね」
射的を終えたお姉ちゃんが私に向き直って言う。
「えっ、私ってそんなにセクシーっ!?」
「そっちに反応するんだ」
進が笑いながら言う。
「……頭脳が子供で悪かったわねっ!」
「反応遅っ!」
「それじゃ、次行きましょうか」
私と進のやりとりを全く意に介さず、彩お姉ちゃんは先を促した。
その後も型抜きで競ったり、ヨーヨー釣りで遊んだり、輪投げで対戦したり、三人でワイワイ楽しんだ。何でもある程度こなしちゃう彩お姉ちゃんや、小手先のテクニックで小学生とは思えない成果をあげる進と比べて、私はほとんどダメダメだったんだけど……。
でも、いつかこの二人を越えてみせる! 私頑張る! 超頑張るんだからーーーっ!!
そうして一休みしようかという頃、ライブ会場から大きな歓声が聞こえてきた。
「あ、曲のライブ始まるみたいだよ、行こ行こ!」
「えっ、ちょっと待って」
戸惑う進の手をとってライブ会場にGOGO♪
「彩お姉ちゃんも早くー!」
「はいはい、今行くわよ」
彩お姉ちゃんも並んで、ライブ会場に向かったのでした。