■3■ ド・ローカル
暑苦しい夏の日差しが降り注ぐ正午、私達は七尾村という田舎の村に着いた。電車で二時間とちょっと、という距離だった。
「ね、何? この村。見渡す限り畑と田んぼだけ、遠くには森……」
蝉の声だけが反響する駅を出て彩お姉ちゃんが言った。
「いいじゃんいいじゃん、気にしない気にしないっ!」
「お姉ちゃん、今日の宿どうするの?」
進がぽつりと言う。
「まぁ、今日中にここを発って別なところで宿を探せばいいじゃん!」
私は笑いながら言った。私が降りようといったから、文句を言うことは出来なかった。
「でも、次の電車、明日までないよ?」
「……」
「……」
「……んなバカなーーーー!!!」
駅の中に戻って確認してみた。何度見ても、上りと下りそれぞれ一日一本ずつしかない。今日の電車はもうお仕舞いだった。
「そうだ、け、ケータイ!」
私は荷物から薄ピンク色の携帯を取り出して見てみたけど、そこには「圏外」の二文字。
「彩お姉ちゃんの方は!?」
彩お姉ちゃんも私と同じように携帯を見ると、ふるふると首を振った。
「とんだド・ローカルな村に来ちゃったみたいね……千歳の責任よ」
「ま、まぁ、旅にトラブルはつき物よ。ははは……」
「前途多難ね……」
ふぅっとため息が一つ。
「あ! 誰か来たよ!」
一人のおばあちゃんらしき人が、一本道を歩いて駅に近づいて来るのが見えた。
「すみませーん!」
彩お姉ちゃんがおばあちゃんの許へと走りよった。私と進も後を追った。
「こいどら若いもんがこい村に来るだら、珍しかえ。何しに来よってけ?」
はぅぅ……全然聞き取れないよーん。私はその場に立ち尽くしてしばらくの間呆然としていました。
「……歳、千歳ってば!」
気がつくと、目の前には彩お姉ちゃんがいた。
「千歳、よく立ったままで寝られるわね」
「え!? 眠ってた?」
「ええ、ぐっすりと。口開けて。それより、あのおばあちゃんの家に今日一日泊めてもらえることになったから。ついていきましょ」
こんなところは流石お姉ちゃんだ。彩お姉ちゃんは、高校二年生だから、実質、来年の夏休みはあってないようなもの。受験勉強で忙しくなっちゃうからね。私は彩お姉ちゃんより一つ下だから、受験とは無縁。進は今五年生で、来年は私立の中学受験を控えてる。私は来年の夏休みも遊べるけど、彩お姉ちゃんや進は今年のうちに来年の分も遊んでおきたいんだろうね。
駅から十分ほど歩いてたどり着いたおばあちゃんの家は、よくテレビなんかで見る田舎の家の典型そのまんまだった。
「おじゃましまーす」
外のうるささと暑さに対して、蝉の声も全体に染み入るような家の中は、風が通り抜ける構造になっていて涼しくなっていた。
「昼、食たらけ?」
「いえ、実はまだ……」
彩お姉ちゃんはすごいなぁ。私、ようやく聞き取れるようになってきたっていうのに、普通に話してるもん。
「そだら、昼、食ってくとええ」
おばあちゃんはにっこりと笑った。