■3■ 夜景とお茶会、三人で
「夜景を見ながら騒げるなんてなんかいいね!」
「千歳、あんまりはしゃぎすぎないでよ」
そこは海に面したホテルの一室だった。祖父母は今日都合が悪いみたいで、今日だけはホテルに泊まることになったのだ。露天風呂にマッサージに屋上プールと結構な設備だ。
「それじゃ、かんぱーい♪」
かちーんといい音が部屋に響いた。部屋の電気を全部消しても、外からの光がほのかに部屋を浮かび上がらせる。
「八月になってからいろいろあって随分長い時間が過ぎた気がするけど、まだ半月も過ぎてないのよね」
「そうだね……ちょうど八月一日から始めて、まだ十二日しかたってないからね」
氷の入ったグラスをからんと鳴らして進は言った。
「そういえば、今まであんまり考えなかったけど、どうしてお母さんは私達を旅に出したんだろうね?」
ポテチを食べながら私は言った。
「そうね……理由全然話してくれないし、通帳とフリーパスだけ渡して……まぁ、十二日も旅を続けられるわたし達もわたし達だけど」
「そりゃそうだよね。普通あてもなく十何日も旅を続けられないよ」
進が笑いながら言う。
「まぁでもそろそろお盆だし、明日から数日は実家で落ち着いて過ごすことができそうね」
「お盆かぁ。去年はお母さんと一緒に実家に帰ったんだよね」
「でも今年はお母さん来れないって言ってたね」
進は人差し指をピンと立てながら言う。
「進……」
「何? 千歳お姉ちゃん?」
「その指立てポーズ、死ぬほどカッコ悪い」
「う、うるさい! ほっといてよっ」
あのポーズ、何かの漫画に影響されたのかな? 動揺している進、可愛いなぁ。
「そ、それより、この旅の目的は何かってコトだよ」
気を取り直して進が言う。
「可愛い子には旅をさせろってことじゃなーい? そんなコトお母さん言ってたしー」
私が興味なさげに言うと、進ががくっと肩を落とす。
「この話題、一応千歳お姉ちゃんが言いだしっぺなんだけど、何故に投げやり……」
「んー? なんかどうでもよくなっちゃった」
再びがくっと肩を落とす。彩お姉ちゃんはトン、トン、トン、と額を指で叩いた。
「きっとこれは試練だわ! 可愛い子供達が力を合わせて数々の試練を乗り越えて成長して帰ってくる、その喜びに浸っているのよ!」
「うーん、あのお母さんならありえるかもしれないけど……ねぇ」
進は曖昧に言った。
「お父さんが死んで新しい恋人とかー」
「馬鹿。母さんはまだ若いけど、毎日毎日父さんの遺影にお線香あげて、じっと手を合わせて、とてもそんな……」
私の予想を彩お姉ちゃんは否定したけど、否定しきれない様子。
「それじゃあ、どうして許可するまでは旅を続けろだなんて……」
私の言葉を最後に、みんなでうーんとうなってしまった。
「そうだ!」
「何、千歳お姉ちゃん何か思いついたの?」
「こんなときは、ぱーっと騒いでいったん忘れちゃおうっ☆」
彩お姉ちゃんと進がため息をつく。
「もぅ、千歳ときたら……」
「千歳お姉ちゃんはねぇ……」
何、その呆れた表情!
「考えたって埒が明かない! なったものは仕方が無い! 楽しんでやろうじゃないの♪」
「そうね、その能天気が心から羨ましいわ」
「僕もそう思う」
「ちょっと二人とも、すっごくひどいこと言ってない!? いや、言ってる!! 私だってそんなのが分からないほど馬鹿じゃない!!」
私達は酒も無いのにどんちゃん騒いでしまい、ホテルの従業員さんに注意されてしまった。
この旅の目的なんて、きっと旅が終われば分かる……よね♪