■2■ 夏だ、海だ、海水浴!
「わぁ、夏だー♪ 海だー♪」
「ち、千歳っ! ちゃんと準備運動をしてから!」
海水浴場には、人が結構たくさんいた。
「あ、忘れてた」
みんな揃って一二、一二と準備運動をする。え? 水着は彩お姉ちゃんが用意したのを着てるのかって? そんなわけないじゃん! 結局近くのお店でおとなしめのを買ったのだ。その時の彩お姉ちゃんの残念そうな顔……あれはマジで着せる気だったに違いない。
「あんまり遠くに行っちゃダメよ」
彩お姉ちゃんがキリッとして言う。
「子供じゃあるまいし」
進が言う。あんたは子供だっ。
「でも千歳お姉ちゃんにはしっかり言いつけておかないと」
……ん?
「そうね、千歳、気をつけなさい」
「ちょちょ、二人とも待った! なんで私だけ!?」
一瞬目を見合わせる彩お姉ちゃんと進。
「説明、必要かしら?」
「はいはいはいはい、どーせ私が一番精神年齢低いですよー、分かりましたよー、気をつけまぁーすぅー!」
「あははは♪」
「こら進、笑うなぁっ!」
「!?」
進をつかまえようとしたら、進は彩お姉ちゃんの陰に隠れてしまった。
「むむっ……進、最近やんちゃになってきてる。しかも彩お姉ちゃんの後ろに隠れるとか、小賢しさにも磨きがかかってる」
「千歳も進もいい加減にしなさいよ、もぅ……」
ここでもし進をつかまえようと彩お姉ちゃんの周りをぐるぐるしたりすると、結局は彩お姉ちゃんの雷が落ちることになるんだよね。そう、何度もくらって私だって学習したのよ!
「今回だけは、見逃してやるっ!」
負け惜しみを言う悪役みたいに言うしかなかった。正直、超くやしい。
……
…
「よし、準備運動も終わったし、入ろうっ♪」
私は言い終わるか終わらないかのうちに海へ向かって走り出した。
「あ、千歳、ちょっと! 全く、少しは落ち着きを持って……はぁ。進も行こ」
「うん」
太陽はさんさんと照り、海は青白く、遠くにぽーっと船が浮かんでいた。
「何? もうお疲れ?」
売店で買ったオレンジジュースを私の頬に当て、後ろから現れたのは彩お姉ちゃんだ。私は木の下で横になっていた。
「あんなにはしゃぐから……」
進も一緒に現れる。
「ま、こうしてのんびりしてるのもいいかなーと思って」
「そっか。じゃ、わたしものんびりしようかな」
そう言って彩お姉ちゃんは私の横に座った。
「僕はあっちで本読んでくる」
「おいおい、こんなトコまで来て本読みかぁ?」
私は呆れて進を見る。
「まぁね」
ホントにもぅ、なんでこう根が真面目なんだろうねぇ。
進はすたすたと走り去ってしまった。
「のんびりだねー」
ぷかぷかと浮かぶ船を見ながら私は言った。
「そうね。ちょっと眠いかも」
彩お姉ちゃんが言った時、目の前に日焼けした二人組の男が現れた。
「二人とも暇そうだね。ちょっと俺たちと遊ばない?」
こりは、俗に言うナンパ……かな? 今時こんな台詞で誘ってくる人、いるんだー。
「私達、彼氏持ちなので遠慮しときます」
彩お姉ちゃんはあっさりと言った。
「そう言わずに、ちょっと遊ぶだけだって、遊ぶだけ」
「お断りします」
彩お姉ちゃんは露骨にイライラした態度を見せる。
「仕方ないな、行くか」
二人はさっさと行ってしまった。また別な子に声をかけてる。あっ、また断られた。
「彩お姉ちゃん、慣れてるね、なんだか」
「さっきので三回目」
ふぅっとため息をつく。
「え? 彩お姉ちゃんずっと私と一緒にいたじゃん」
「ジュース買いに行った時にね」
「そっかぁ、彩お姉ちゃんすごく見た目キレイだもんねー」
水着も結構大胆なのを着ている。こりゃナンパもされるわけよ。
「ふふっ、中身も綺麗よ」
彩お姉ちゃんは強調する。
「あー、はいはい」
とは言え、見た目も性格も申し分ないのは確かなんだよねぇ。私にだけは厳しいケド。
「千歳も少しは慣れといた方がいいわよ」
「どうしてさ?」
「どうしてって、顔はそこそこだし、性格は天然ボケボケだけど基本素直だし、小柄だし。高校は女子校だけど中学は共学だったし、中学時代は男子にも結構人気あったんじゃない?」
「この流れは……私、褒められてる!?」
そう言ったら可哀想な子を見る目で見られた。どうやら、別に褒められたわけではないらしい。
「中学時代かぁ……別にそんなことなかったよ。告白なんてされたコトないし、ナンパだってされたコトないし」
「そっか」
彩お姉ちゃんは特に気に留めた様子もなく、短く答えると遠くを見つめた。私もぼーっと遠くを見つめた。あの二人組の人たちが何度かナンパして通り過ぎて行った。いつの間にか時間は過ぎていて、進が帰ってきたところで私達はその場を後にした。