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ちあふる☆じゃーにー ~三人姉弟の電車旅~  作者: 霧南
西園寺-さいおんじ-(8月11日)
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■3■ 夢は夢でも進路の話

 夏の風がカーテンを揺らし、そっと私の髪をなでていきました。午後二時。一番暑い時です。進は現在お昼寝タイム。部屋の真ん中ですやすやと寝息を立てて寝ています。扇風機の風が時折私を吹きつけて、また去っていきます。彩お姉ちゃんは進の隣で勉強中。私といえば、何をするとも無く窓の側で夏の匂いに身を任せていました。


「ふっ、私ってば優雅……」

「暑さで頭のネジが飛んじゃったかしら?」


 彩お姉ちゃんは頬杖をついて私を見る。


「失敬な! 私はいつも通りですーっ!」

「……確かにいつもの千歳だわ」


 この雰囲気っ! もしかして、馬鹿にされてる……!?


「ま、いいや。彩お姉ちゃん、数学?」


 隣に置いてある麦茶の氷が風に吹かれてからん、と音を立てました。あぁ風流。


「ん? そう、数学」


 彩お姉ちゃんはお姿勢を正して言いました……あぁ、疲れた! もう風流お終いっ!


「それにしても、彩お姉ちゃんは本当に成績いいよね。私なんて、苦手な科目は数学と理科を筆頭に国語と英語と……あと社会も苦手かな」

「それって全部じゃない」

「家庭科は得意!」


 はぁー、と彩お姉ちゃんがため息をつく。


「千歳は勉強しないからでしょ、やればできるのに……」


 ピコーン! この会話の流れはマズい、話をそらさなきゃ!


「そういえば、彩お姉ちゃんは志望の学部とか決めたの?」

「一応、ね」

「え!? 教えて、教えてっ☆」


 私はずいっと彩お姉ちゃんに迫った。


「な、何!? そんなに知りたいの?」


 コクリコクリと私は二度頷いた。


「仕方ないわね……まだ確定したわけじゃないし、これは絶対に秘密よ? わたしと千歳だけの。いい?」


 コクリコクリと私はまた頷いた。


「実はね……民俗学をやろうと思ってるの」

「民俗学?ってなぁに?」

「この子ってば……」


 彩お姉ちゃんはがくっとうなだれた。


「民俗学っていうのはね、伝承や言い伝え、風習などを手がかりにして、伝統的な伝承文化や生活文化を研究する学問よ」


 何々? 一つ一つの言葉は何となく分かるけど。


 イマイチ掴みきれない私の様子を察したのか、彩お姉ちゃんが続ける。


「んー、要するに、おじいちゃんやおばあちゃんのお話を聞いて、昔の人の暮らしぶりや考えを明らかにしようってコト」

「なるほどーっ! 合点合点!」


 私がガッテンガッテンのジェスチャーをすると、彩お姉ちゃんはくすっと笑った。


「でも、なんでまた民俗学?」

「なんでかしらねー、伝承や昔話、神社とかお寺とかそういったのが好きだった影響かしら」


 へぇー、全然知らなかった。というより、家ではこんな話する機会はあんまりなかったからね。


「そういう千歳はどうなのよ? どこか行ってみたいなーとかいう大学くらいはあるでしょ?」

「大学かぁ、ついこの間までは高校受験で手一杯だったからなぁ……まだ全然決まってないや」


 お姉ちゃんは中学からエスカレーター式に御桜高校に通っているのだけど、私は中学は公立だったのだ。


「大学行かなければ勉強なんてしなくていいのかな?」


 私が何気なく言うと、お姉ちゃんはビッと人差し指を立てた。


「甘いわね! 仮に進学しないなんて言うなら、就職よ! このご時勢、高卒で就職なんて、進学よりもよっぽど難しいんだから! 留年だってあるし、気は抜けないわよ!」

「そうでした」


 一学期の評定を思い出して私はどんよりした。先生に危ないと言われていたんだった。


「彩お姉ちゃん、私今超やる気! 勉強教えてっ!」


 私はだっと立ち上がって、彩お姉ちゃんの横に座った。


「やる気になったわねー! じゃ、まずは学校から出された宿題からやっていきましょ」


 私はかばんから数学の宿題、筆記用具一式を取り出して目の前に広げた。


「最初の基本問題くらいなら一人でも出来るわよね、終わったら見てあげるから」


 彩お姉ちゃんはそう言うと自分の宿題に再び取り組み始めた。


「こ、これが基本問題なの!? もうダメ! 持病の知恵熱が! あぁぁぁぁー……」

「ツッコミどころ多すぎだけど、とりあえず寝るな、逃げるな、気絶するなーっ! ほんともう、先が思いやられるわ……」


 彩お姉ちゃんは目頭を押さえた。


「いい? ここはね……」


 その日、彩お姉ちゃんの助けもあって、数学の宿題は驚くぐらいのスピードで進んだ。


 そうこうしているうちに、いつのまにか、太陽は綺麗な夕日になっていたのでした。

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