■2■ 鳥居に仏の西園寺
「ここはお寺……だよね?」
彩お姉ちゃんに案内されたのは掃除の行き届いた、立派なお寺らしき場所だった。ぽちぽちと人の姿も見える。
「ええ。西園寺よ。どうして?」
「だって、鳥居なんてあるよ?」
「神仏習合」
進が慣れた様子で辺りを見回しながら言った。
「シンブツシューゴー?」
「八世紀の奈良時代に始まったとされる、簡単に言えば神道と仏教の堺が曖昧になっていった現象だよ。それに伴って、ここみたいに鳥居のある寺とか、寺のような神社が出来たりしたってわけ。珍しいってほどでもないよ」
進はさらさらと説明した。
「イマドキの小学生って、恐ろしい子……」
私が言うと、寺からお坊さんらしき人が顔を出した。五十歳くらいに見えるけど、実際のところは何歳なんだろ。
「如月様、ですか?」
彩お姉ちゃんがあらかじめ電話をいれておいたのだ。
「ええ、わたしが如月彩です。それと妹の千歳、弟の進です。今日はお世話になります」
彩お姉ちゃんは丁寧に紹介していった。
「そうですか、お待ちしておりました。ささ、こちらへどうぞ」
お坊さんがお辞儀をするので、私と進もぺこりと頭を下げた。
「おじゃましまーす!」
寺はそれなりに広く、清潔感と質素さ、古風さが調和した寺だった。こういうの、わびさびっていうんだったっけ?
「ねぇねぇ、ぼーさん!」
「はい?」
部屋に案内される途中で、和尚さんは笑顔で振り返った。
「こらこら、千歳、初対面でぼーさんだなんて……」
「ハハッ! 別に構いませんよ。近所の子供なんて、生臭坊主とか平気で言ってますから」
ぼーさんは楽しそうに笑って話した。子供好きの寛容な人って感じだ。
「でね、ズバリッ! ぼーさんはここに一人で住んでるんですか!?」
私は指をビッと立てて質問した。
「ん? 一人で? そんなわけないじゃないですか。こんな広い土地を一人じゃ管理しきれません」
「え? じゃあ、他に誰がいるんですか?」
「弟子が二人住み込みで修行してます。今は二人とも出かけてていないのですが……」
ふぅーん……二人は修行僧ってワケね。でもこのぼーさんなら修行をサボるのもきっと楽勝ね!
「さ、こちらです」
「わぁー広ーいっ!!」
ぼーさんが案内してくれた部屋は、八畳部屋二つ分くらいの広さだった。
「では、わたしは昼食の支度をしてきますので」
そう言ってぼーさんはこの場を離れた。
「風流ー、雅ー♪」
外には、なんの花かよく分からないけど綺麗な花が植えてあるのが見えた。南に面した部屋らしく、太陽の光が部屋いっぱいに差し込んでくる。
「そんなノリノリで言う言葉じゃないわね」
ため息混じりに彩お姉ちゃんが言う。
「彩お姉様にはこの雅楽は分からないんですのね、オホホ」
お嬢様笑いをしてちろりんと彩お姉ちゃんを見てやる。
「雅楽は音楽よ」
またか、とでも言わんばかりにため息をつく。
「……」
「……」
「……彩お姉ちゃんのばかぁ!」
私の声は空しく夏の音にかき消されてしまいました。