■4■ 今日は何の日、誕生日?
「な、何か……今日の夜ご飯、豪華だね。どうして?」
「どうしてでしょうね?」
先生がふっと微笑みながら私を見つめる。
私は目の前に並べられたご馳走の数々に圧倒されてしまった。
「いくら私でも、これだけの量を一人で食べるのはちょっと……」
「なんでそうなるのかしら、もう……千歳一人で食べるわけじゃないわよ、みんなで食べるの」
彩お姉ちゃんがやれやれ、といった感じでツッコミを入れる。でもみんなで食べるにしても豪華だし、量も多いような……。
「千歳、今日何の日だか分からないの?」
「千歳お姉ちゃん、もしかして、忘れてる?」
進も私を見つめてくる。確か今日は八月十日……すぐにピーンときた。
「あっ……」
「思い出したみたいだね、千歳お姉ちゃん」
進が笑いながら言う。笑われても仕方ないかも。
「今日、私の誕生日だ……」
そう、今日八月十日は私の誕生日だったのだ!
「おめでとう、千歳、今日で千歳は十六歳ね」
そう言って彩お姉ちゃんが差し出したのは、昨日電車でぶちまけちゃった、あの、赤い包装に黄色いリボンのプレゼントだった。
「彩お姉ちゃん……」
私は急に泣きたくなってきた。私自身も忘れていたのに、彩お姉ちゃんも進もちゃんと覚えていてくれた。
「わたしと、進からのプレゼント☆」
彩お姉ちゃんは明るく言った。
「う……ひっく……覚えててくれたんだ……ありがと……」
私は泣きじゃくりながらそう言うのが精一杯だった。心の底から言いたい言葉がたくさんこみ上げてきて、どれから言っていいのか分からない。唯一分かるのは、とっても嬉しくて、感謝の気持ちで一杯ってことだけ。
「ど、どうしたのよ、千歳!」
「千歳お姉ちゃん、どうしたの?」
彩お姉ちゃんも進も心配して私の所に来てくれた。
「な、泣かないでよ。いつもみたいにわーって騒ぐ方が千歳らしいわ」
「ぐすん……彩お姉ちゃんひどいやぃ……」
泣きながらも私は精一杯に笑ってみせた。彩お姉ちゃんも笑顔だった。
「改めて、おめでとう」
「ありがと」
私はもう一度言った。
「開けていい?」
「もちろん♪」
私はリボンを丁寧に解いて、包みを開けた。箱の中は、カラフルな色の砂が鏤められていて、その中心に一つの大きな水晶、そしてそれに突き刺さっている細い棒のようなものがあった。
「これは……?」
「うーん、二酸化ケイ素付き……」
彩お姉ちゃんが説明してくれるけど……。
「彩お姉ちゃん、そんな説明じゃだめだよ。僕が代わりに説明するから」
進が前に出てくる。
「真ん中にあるのが水晶で、それに花火がついてるんだ。花火で遊んだ後に大きい水晶も飾りに出来るんだよ」
進が説明してくれたけど……
「水晶に花火……何か、変なのー」
私は思わず笑ってしまった。
「やっぱり!?千歳もそう思うわよねー」
彩お姉ちゃんも笑い出す。
「えー!? じゃあ、どうしてコレ選んだのー?」
「千歳、水晶好きって言ってたし、前に、花火も好きって言ってたじゃない? だから、これはお得かと思って!」
私達三人して笑ってしまった。あ、三人じゃない、先生も私達のやり取りを見て笑みを浮かべてるっ。先生のご主人も加えて、五人で大笑いしたのでした♪
「きれいー……」
夜ご飯の後、外に出た私は花火を見ながらつぶやきました。
「でしょ? 選ぶのに苦労したんだから」
花火の鮮やかな火花が弾け、水晶を通してもその繊細な軌跡が見て取れる。
赤、青、黄、白、緑……様々な色の光の欠片が現れては消え、現れては消えることを繰り返す。規則性がありそうで無秩序に弾ける、私はその幻想的な光景を夢見心地で見ていた。
私達三人、馬鹿やったり、喧嘩したりもするけど、それでも、ずっと仲良くしていたいな……。
水晶に映るカラフルな火花を見つめながら、私はそっと祈ったのでした。