■3■ 如月彩の思慕恋慕
「ねぇー」「もしもーし」「聞ーてますかー?」「いないいなーい……ばあっ☆」
窓から外を見つめたままぼーっとしている彩お姉ちゃんに話しかけるけど、全然反応が無い。ちょっと、最後のは少しぐらい反応してくれないと私が馬鹿みたいじゃんっ! もうこの旅館に来てからずーーっとこうだ。
「進ー何とかしてよー」
「放っておきなよ」
「どーしてさ? 彩お姉ちゃん、暑さで頭が壊れちゃったんじゃないの? バスガス爆発脳内噴火!」
私の言葉に彩お姉ちゃんがぴくっと反応する。ヤバい、怒っちゃった!?
「わぁっ! 冗談冗談!!」
私は必死に弁解したけど、もう遅い。「怒ってるー!」と思って頭をガードしたけど、一向にぶたれる気配も無い。代わりに、ため息が一つ。私なんかアウトオブ眼中、路傍の小石、馬耳念仏、馬耳東風ってカンジ。
「進、どういうことさ」
「彩お姉ちゃんもお年頃だから……千歳お姉ちゃん、あの男の人見て何とも思わなかったの?」
進が慎重に言葉を選んで話す。
「妹想いのカッコいいお兄さんだね。むむ、まさか……」
私だってまさかとは思ってた。
「そのまさか、だよ」
「そんな……彩お姉ちゃん……」
「そういうこと。だから、今はそっとしといてあげようよ」
「そうね……叶わぬ夢を追い続けるのはつらいものね……」
進が複雑な表情を浮かべる。
「千歳お姉ちゃん、いきなり叶わぬ夢ってねぇ。彩お姉ちゃんに聞こえてたら怒られるよ?」
「でも事実は事実よ。隠し子か養子縁組でもしない限り、叶う夢じゃないわね」
進がきょとんとした顔をする。
「彩お姉ちゃんも、優しーいお兄さんが欲しかったんだね……『お兄ちゃん、大好き!』とか言いたかったのかな? でも、彩お姉ちゃんの性格だと、『アニキ、お小遣いちょーだい!』のほうが似合うかも! 『兄チャマ、チェキ!』というもなかなかどうして……『お兄様、わたしとデート、しましょ?』はちょっとずれちゃってるかなー」
「ごめん、その発想はついていけない」
「えっ?」
呆れ顔の進と、きょとん、と進を見つめる私がいた。