■4■ 梅里あるいは西山隠士
旅館は外観だと小さく見えたものの、中は奥行きが結構あり、奥で横にも広がっていたため、見た目よりもかなり広く感じた。
「意外と広いんだねー」
女将さんに案内されて、私達は八畳の座敷に案内された。
「こちらです。何かありましたら、何でもお申し付けくださいね」
感じのいい女将さんは一礼すると、もと来た道を戻って行った。
「さて、ちょっと早めだけどまずはお食事、だよね」
私が言うと、彩お姉ちゃんも進ももう慣れた、といった感じでため息を一つ。
「仕方ないわね、千歳は。うっかり千兵衛とでも呼んであげようかしら」
「勘弁してくださいよぉ、ご隠居ー」
「なりませんぞ、千兵衛」
彩お姉ちゃんもノリノリだった。二人でわいわいと盛り上がる。
「二人ともー……って聞いてない。食事は僕が頼んでくるしかない、か……」
「うんうん、よろしく」
「はいはい……って聞こえてるじゃんっ!」
ため息一つ、進は女将さんの後を追っていくのだった。
……
…
「はぁ、今日は疲れたね」
夕食も終わり、夜も更けた旅館での夜、机に向かって宿題をやっている彩お姉ちゃんに私は言った。
「うっかり千兵衛さんも、もう少し食事を控えれば効率が上がるんじゃない?」
「もうその呼び方やめてー」
彩お姉ちゃんは実はものすっごく頭が良くて、名門女子高として有名な御桜高校でもトップクラスの成績の持ち主なのだ。進は進で名門の中学校を受験することになっている。いわゆるお受験というやつだ。私はと言えば……何とか彩お姉ちゃんと同じ高校には行けたものの、補習と追試の繰り返し……とても自慢できたものじゃない。
宿題かぁ……宿題ねぇ……宿題……うん。
「それじゃ、彩お姉様、お休みなさい☆」
私はさっさと布団にもぐりこむことにした。明日できることは明日やる、それが私の信条なのだっ!