■2■ 猛暑の行軍、夏樹橋
「な、な、な、暑いーーー!!」
駅から出た瞬間に後悔した。真夏の都会、夏樹橋の温度は○んじゅう度を軽く超えている。
「ここで降りたのは間違いだったんだよ、彩お姉ちゃんー」
「ぐだぐだ言わずにさっさと歩く! 目的地はもうすぐよ!」
彩お姉ちゃんは私の手を引きながらどんどん歩いていく。何と言うバイタリティ……。
ことの始まりは…そう。
「次はー夏樹橋ー夏樹橋ー、足元にご注意ください」
「夏樹橋!? 降りよう、降りよう!!」
今から数分前の出来事だった。ゆらゆらと電車に揺られてるところ、急に彩お姉ちゃんが言い出したのだ。流石、都会の夏樹橋は、乗る人も降りる人もかなりのもの。
「なんで? もっと乗ってようよ」
「降りる、よね?」
声は普通だけど、目が恐い! すごく恐い!
「わ、わかったよぅー」
私は諦めて席を立った。彩お姉ちゃんらしからぬ唐突な提案。それが発端となって、今の地獄行軍に至ったのだった。
……
…
「あった、ここよ」
彩お姉ちゃんが立ち止まったのはテディーズとかいう大きな雑貨店みたいな店。
「何買うの?」
「まぁ、いろいろよ」
彩お姉ちゃんは言葉を濁してさっさと店内に入っていった。私と進も後についていく。
「涼しい! それに……へぇー、いろんなのが売ってるんだねー」
私は感心して店内を見渡した。
「ちょっと時間がかかるから、千歳は進とここでアイスとか食べてなさい」
彩お姉ちゃんはそう言って私に千円を渡すと、さっさとエスカレーターの方に行ってしまった。
「まったく、彩お姉ちゃんは強引なんだから……はぁ」
今度はこっちがため息ついちゃうもんねーだ。
「進、アイス何味にする?」
聞いたものの、進はぽーっとして心ここにあらずの上の空って感じ。さっき別れた女の子のことでも妄想してるのかねぇ。
「仕方ないなぁ……無難にチョコレートでいっか」
……
…
「ごめん、だいぶ待ったでしょ」
小走りで彩お姉ちゃんが帰って来た。
「一時間と二十四分三十六秒誤差プラスマイナス十秒程待たされましたが、全っ然気にしていませんので、お気になさらず」
私はプイッとそっぽを向きながら言ってやった。
「だからごめんってば。今度宿題見てあげるから! ねっ?」
「え! ほんと?」
「ホントホント! さ、それじゃあ行きましょ……進?」
相変わらずぽーっとした感じ。よっぽどあの女の子にホの字なんだねぇ。
「こりゃ、しばらく放っておくしかなさそうね」
彩お姉ちゃんは苦笑した。