■1■ 見送り少女と老婦人
「だいぶお世話になっちゃって、本当にありがとうございました」
電車のドアの前でそう言って彩お姉ちゃんは頭を下げる。私と進も頭を下げた。
「いえいえ、これといったもてなしも出来ずに恐縮です。この子の遊び相手までしてもらって、こちらこそありがとうございました」
ホームはまばらに人がいるばかりで、老婦人の凛と澄んだ声が私の耳に余韻を残した。
「それでは、さよならですね」
「ええ。またいつか、どこかでご縁があるといいですね。ほら、あなたもさよならなさい」
老婦人は後ろでもじもじしている少女を軽く送り出した。
「さ、さよ……なら……」
少女はうつむきながらもちゃんとお別れの挨拶を言った。
「これ」
進が小さな紙切れを少女の手に持たせた。
「絶対、手紙書くんだよ!」
そう言って振り向くと、進は走って電車内に駆け込んだ。発車の時刻を知らせるベルが鳴り響く。
「やれやれ、進もませちゃってー。それじゃあ、本当にさようなら」
「さようなら」
老婦人はそう言って手を振った。私はしゃがみこんで少女の頭に手を置き、話しかける。
「おばあさまの言うことをきちんと聞いて、いい子にしてるんだよ」
こくりと頷いて少女は老婦人の陰に隠れた。本当に可愛いー、進にはもったいないね。
ドアが閉まり、電車はゆっくりと出発した。老婦人と少女の姿が次第に小さくなり、周りの景色が速くなっていく。そうして二人の姿は見えなくなっていった。