■4■ ことんことんの鹿威し
「はぁー、結構……というか、すごく広いですねー」
老婦人の家を案内されて私達はびっくりしてしまった。今は客間でくつろいでいるところだ。
「主人の家が資産家なものですから」
私の家も広い方だとは思ってたけど、その数倍はあろうかという家は、どっかの売れてる物書きさんが住んでいるのを思わせる古風な家だった。
「あれは?」
座敷から見える庭の中にある、テレビなんかでよく見ることん、ことんと音のする竹の筒。
「あら、添水ですね。『水』に『添う』と書いて『そうず』と言うんですよ。案山子の古称『ソオド』の変化に基づいているという説があります。『鹿威し』とも言うのですが、こちらの方が聞き慣れてるかもしれませんね」
「へぇ、お詳しいですね」
ソウズ? ソオド? シシオドシ? 彩お姉ちゃんは頷いているけど、私は頭が混乱してしまった。
「いえいえ、主人がいつもそんなことばかりわたしに話すもので」
お茶をだしながら老婦人は言った。
「よかった、千歳の食費くらいなら大丈夫そうね」
「ん? 呼んだ?」
「呼ばない、呼んでない、お呼びでない。ところで進は?」
彩お姉ちゃん、冷たい……。そういえばさっきは進いたんだけど、またあの子と遊んでるのかぁ。まったく最近の子は……ってそこっ! お前は最近の子じゃないのか、とか突っ込まないっ!
「進は放っておきましょ。それより、これなるお茶をありがたくいただきまして……ふむぅむ、結構なお手前で」
「千歳、あんたいつからそんなキャラに?」
彩お姉ちゃんが疑問と呆れの入り混じった表情をする。
「何を言ってるの。私、茶道部だよ? 日本の文化を……」
「千歳に語られたんじゃあ、日本文化もたじたじね」
人の話を途中で遮ってため息。
「……」
「……」
「……彩お姉ちゃんなんか知らないもんっ!」
なんか悔しかったから、私はお茶を一気に飲み干した。老婦人は笑顔で私達のやりとりを見ていたのだった。