27 魔獣討伐3
魔物に寄生された野生動物たちを相手に、私とディーン様は光魔法で対抗する。
ろくに説明もできなかったが、再現できてしまうディーン様は流石だ。
宿主から魔物を引き剥がし、引き剥がされた黒いうねうねをギャロッド様たちが倒していく。
「こうしていると、職業体験に来ていた学生だということを忘れそうになってしまいますね。何度も共に戦ってきたかのような動きに、背中を預けられる安心感ーーああっ、素晴らしい!」
光属性の魔法を使うには、かなり体力と精神力を持っていかれるはずなんだけど、元気ですね。
何度も共闘してきたような、と感じたのは私に宮廷魔導士時代の記憶があるからなのだろう。ディーン様は私の上司であり、何度も一緒に魔獣や魔物を相手に戦った仲間でもある。
生まれる時代が異なれば、ディーン様もホロウになり得た魔導士だ。私の戦い方の基礎には、ディーン様が大きく影響している。
以前の私は、卒業してすぐ宮廷魔導士として働き始めた。今回はファブラス家での教育を受けた上で、獣人との戦い、魔獣討伐とそれなりに実戦経験も積んでいるが、以前は卒業するまでそんなものとはほぼ無縁の生活を送っていた。
だから、初めてちゃんとした戦い方を学んだのは宮廷魔導士になってからだった。そして、それを教えてくれたのが上司であるディーン様だったのである。
動きやすいと感じるなら、それは私の戦闘スタイルの根底に彼の指導があるからだろう。
「見える範囲の敵は一掃できましたね。念のため、近隣の町まで被害が広がっていないか確認しましょう」
突然の魔物の出現ではあったが、幸いにも規模はそれほど大きくならずに収束した。
宮廷魔導士さんたちと一緒に飛び回って、近隣の町までの範囲で被害が出ていないか確認するも、心配はなさそうだった。
全員が戻り、報告を受けたところで、ディーン様が任務完了を宣言する。
「野生動物に寄生できるなら、人間のことも操れる可能性があります。早急に対策を進めなければなりませんね」
一同がほっとする中で、ディーン様は険しい表情だった。
その心配は、近いうちに現実のものになるだろう。早めに対策をしておくに越したことはない。
「お前が寄生されたら、それこそ俺たちの脅威になりかねないな」
ちらり、とギャロッド様が私の方へ視線を向ける。
魔王ーーかつて、私がそう呼ばれていたことを思い出した。
今度こそ、ギャロッド様ともいい関係を築ければと思って行動してきたけど、やっぱり未来は変わらないんだろうか。
一緒にお菓子を食べたり、世界の食べ物についての話を彼から聞くのは好きだったんだけどな。ちょっぴり寂しくなる。
「ルナは、そう簡単に操られたりしないよ!!」
そこに割って入ったのは、ウサギを抱えたままのグレース様だった。
その声に驚いてウサギは腕から飛び出していってしまったが、グレース様はなおもギャロッド様を睨みつけている。全然怖くはないんですけどね。
「ギャロッド様の言うことも一理あります。気をつけますね」
私のことを信じてくれるグレース様の言葉は嬉しかったが、ギャロッド様の言葉を否定することもできない。
以前は魔物に操られることはなかったが、今回も同じようにいくとは限らないだろう。
私が操られて、本当に魔王と呼ばれるような存在になってしまうこともあり得ない話ではない。
だが、納得いかない顔でグレース様は頰を膨らませていた。
「誰が操られたとしても大問題でしょう。自分の心配もなさい、ギャロッド」
「ふん……」
ディーン様に忠告されると、不機嫌そうに鼻を鳴らし、そっぽを向いてしまった。
事態は一時の収束を見せたものの、また同じようなことが世界各地で起こるかもしれないと考えれば、皆の表情は暗くなってしまうのだった。
「魔王」ーーかつて、倒すことの叶わなかった脅威。エルメラド王国を、世界を滅ぼした何か。
その目的は何なのか、魔王を倒せば魔獣や魔物の問題は解決するのか。分からないことはたくさんある中で今度こそ魔王を倒す、それだけは何としてでも成し遂げなくてはならない。
あの日超えられなかった、世界崩壊の時の向こう側へ。魔王を倒せなければ、未来を夢見ることもできないのだ。
「私ね、色々と想像はしてきたんだけど、実際に近くで見ると全然違ってた。甘かったなって思ったよ」
私たちが戦った跡を見ながら、グレース様が言った。
実際に魔獣や魔物を目にしたらショックを受けるのではないかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
「無理は言っちゃったけど、来てよかった。皆を守るためには、今のままじゃ駄目だって分かったよ」
何かを決意した表情で、じっと前を見据えていた。
恐れるどころか、立ち向かっていこうとする。強い人だ。
私も人の心配より、自分の心配をした方がよさそうだ。以前の記憶があることで助かることもあるが、弱気になってしまうこともある。
本当に今度こそ魔王に勝てるのか。私にとって大切な人たちが生きるエルメラド王国を、世界を守ることができるのか。
そんな中で、未来のエルメラド王国を担う一人であるグレース様が、私たちの前に立とうとしている。
私の愛する国の王女であり、大切な友人。その姿に勇気づけられた。
こんなところで弱気になっていられないな。




