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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第4章 学園編(三年生)
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26 職業体験

 職業体験。エルメラド王立学園では、三年生になってすぐにひと月ほど、自分の将来について考える機会が与えられる。

 次年度には最高学年、その先に就職を控えた我々にとっては、卒業後の進路を決めるための一つの判断材料だ。


 しかし、この学園に通う学生のほとんどが貴族の令息令嬢なので、家督を継ぐ者、その支えとなる者、家同士の結びつきを強めるために婿入り嫁入りする者など、すでに進路が決まっている学生も多い。

 その場合でも、社会経験を積むためであったり、卒業後は自由が制限されるため、この職業体験で一時でも夢を叶えたいという声もあるのだった。


 以前の私は、宮廷魔導士の仕事を見学・体験させていただいた。今回もそのつもりだ。

 宮廷魔導士の職に関しては、ディーン様を見ても分かる通り、当主をしながら兼業している方もいる。

 グランディール様の婚約者候補という立場がいつまで続くか分からないし、候補から外れてファブラス伯爵家の当主候補に戻った時のことも考えている。仮にそうなったとしても、宮廷魔導士になることは不可能ではないだろう。

 魔王に対抗するためにも、宮廷魔導士であった方が何かと都合がいいからね。


 少し前に体験先の希望はとられていて、無事承認の旨が書類で伝えられた。

 一緒に手紙ももらったけど、ディーン様の熱烈歓迎メールだった。何枚あるんだろ……相変わらず達筆だな。


「ルナシアさん、仕事は違いますけど一緒に通えますね」


 エルも以前と同じく宮廷騎士の仕事ぶりを見せてもらうことにしたようだ。とはいえ、今の彼女は日頃から見慣れていると思うんだけどね。


「やっぱり騎士になるの?」

「ええ、昔からその想いは変わっていません」


 学生にして隊長を任されたり、騎士団の中でも一二を争う実力者だったりと、彼女が希望しなくても勧誘されそうだ。

 エルの希望と一致しているなら、それに越したことはないよね。


「……そういうルナシアさんも、宮廷魔導士に?」

「うん、なれたらいいなって思うよ。もっと魔法について勉強したいし」

「それなら、ファブラス伯爵家でもできるのでは?」

「ファブラス家での研究も続けるよ? でも、魔法について最新の情報が届くのは王都の方が早いから。宮廷魔導士になって得られるものも多いと思うんだ」

「その探究心は、魔導士の(さが)なんでしょうかね。自分の興味や関心を満たす……それだけならば、いいのですが」


 心配そうな顔をしながら、エルは何やら呟いていた。

 危険なことに自分から突っ込んでいかないようにと、エルにもグランディール様にも念押しされているが、職業体験でそんなに危険なことはないと思うんだけどな。



 ここ数日、学年内で出る話題といえば職業体験はどこに行くのか、といったものが多い。遊びに行くわけではないんだけど、どことなく楽しそうだね。


「私は装飾品を扱う店で働くことになりましたわ。幼い頃から宝石類は見飽きるほど見てきましたから、目利には自信がありますの」


 授業終わりの休み時間に、アミリア様がそう教えてくれた。

 彼女は、王都にある宝石を扱う装飾品店で働くことになったらしい。以前ほどではないが、いつも宝石を身につけている彼女にとっては見慣れたものだろう。


「特に、国の象徴でもあるエメラルドグリーンの宝石の偽物を売る不届き者が後を断ちませんの。それだけは絶対に見逃さない自信がありますわ」


 エメラルドグリーンの宝石、しかも上等なものはエルメラド王国でしか採ることができない。国の石とされ、その希少価値から高値で取引されている。

 だが、高値で取引されると分かっているため、緑っぽい石を加工し、本物だと偽って販売する人たちが後を絶たない。


「きちんと鑑定されたものなら、お客さんも安心して購入できますね」

「ふふん、その通りですわ。私にかかれば、あっという間に鑑定して差し上げますわよ」

「アミリア、すごい自信だね。私はルナと一緒かな。宮廷魔導士の皆がいつもどんな仕事をしてるのか見ておきたくて」


 そのやり取りを見ていたグレース様は、真剣な顔でそう言った。

 あれ? 以前の彼女はお菓子屋さんに行った気がするのだが。私以外に宮廷魔導士を職業体験の場に選んだ人は他にもいたけど、その中にグレース様はいなかったはずだ。いれば分からないなんてことはない。


「どうして宮廷魔導士を選んだのですか?」

「一応、王女だから実際に宮廷魔導士になることはないと思う。だから、宮廷魔導士になりたいから行くっていうより、どういう風にこの力が使われているのか知るために選んだんだ」


 グレース様は攻撃系の魔法を得意としている。魔術暴走の件もあったが、あれ以来コントロールを磨いて、今ではもうそんなことは起こらない。

 攻撃系の魔法は、治癒系や補助系の魔法と比べて使う機会が少ない。もちろん少ないに越したことはないのだけれど。

 だが、ここ百年ほどは魔獣の影響によって攻撃系の魔法も注目を集めている。グレース様も、同じ攻撃系の魔法を使う魔導士として、普段からそれを扱っている宮廷魔導士の様子を見ておきたいとのことらしい。


「学園で勉強するだけじゃ、実戦でどう使われているかまでは分からないからね」


 やる気に満ちた眼差しでそう意気込んでいた。

 これは私も頑張らないとな。

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