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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第3章 学園編(二年生)
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23 和解(エル視点2)

 獣人たちとの戦いは、和解という形で幕を下ろした。誰も犠牲者を出さなかったという歴史的な快挙を成し遂げて。

 上層部では未だ仕事に追われる日々が続いているようだが、まだ学生である私やルナシアさんは、一足先に日常生活に戻った。

 学園に戻ってからは、休んでいた分の授業の補習を受けたり、同級生の質問責めに遭ったりと、なかなか忙しい生活を送っている。


 それも少し落ち着いてきた頃、父と兄をエルメラド王国に連れてきた。

 連れてきたというのは語弊があるかもしれないが、獣人たちの実質のリーダーである兄アンヘルがエルメラド王国に所用で立ち寄った際、城下町へ連れ出したという形である。

 どうしても連れて行きたい場所があった。そこには父もいた方がよいと思い、エルメラド王国に来る際には父も連れてきてくれと兄に伝言を頼んでいたのだ。私の話を聞いてくれるかは微妙だったが、約束を守って父を連れてきてくれた。


 紅玉国では兄と父は別行動をとっていたため、父に会うことは叶わなかった。ようやく今になって、父とも再会できたのである。


「エル、本当に私の娘のエルなんだな? こんなに大きくなって……母さんに似て、綺麗になったなぁ」


 おぼろげにしか父の顔は覚えていなかったが、兄と再会したときのような懐かしさを感じた。

 顔をくしゃりと歪め、今にも泣き出しそうな顔をしながら父は笑った。


「ありがとうございます、兄さん。父さんを連れてきてくれて」


 獣人たちの敵として立ち塞がった私の頼みなど、聞いてもらえる保証はなかった。

 ふん、と兄はそっぽを向き、父が娘に会いたがっていたから仕方なく連れてきたのだ、とそっけない返事が返ってきた。

 だが、これが兄なりの優しさなのだろう。

 まだ兄妹としてはぎこちない関係だが、いくら年月が経とうと、何が障壁になろうと、そう簡単に絆はなくならない。今は、それで十分だ。


「本当に、獣人が歩いていても何ともないんだな」


 城下町を歩きながら、兄は驚いたように辺りを見回している。

 目深なフードを被って姿を隠すことも、人気のない道を選んで歩く必要もない。

 人間たちと一緒に生活していても、誰も何も言わず、それが当然であるかのように受け入れている。


「エルメラド王国の多くの地域では、これが普通ですよ。国を治めている方々が理解ある人たちなんです」


 まだ獣人が暮らすには安心できない地域もあるが、徐々にそれはなくなっていくだろう。

 現国王陛下をはじめとして、じきに王位を継ぐことになるグランディール様も、獣人たちの生活改善に尽力してくれている。



 何度もこの道を通った。

 歩き慣れた道だが、今日は父と兄も一緒だ。

 ひとつの家の前で立ち止まり、扉を叩く。間もなくして、玄関の扉が開いた。

 私の顔を見て、おかえりと言った後、後ろにいる二人に気がついて目を丸くする。


「エンゲル……あなた! ああ、アンヘルまで!!」


 母は、長い年月会っていなかったにも関わらず、すぐに二人が父と兄であることを言い当てた。

 よく父と兄の話をしてくれたことを思い出す。どれだけ時間が経っても、色褪せることなく母の中に二人の記憶は生きていたのだ。


「アンジュ、よく無事で!」

「母さん!」


 母の顔を見た二人は、そっと母を抱きしめながら再会を喜んだ。この時ばかりは、難しい顔をしていた兄も子どものように泣きじゃくっていた。

 ああ、見たかったのはこの光景だ。家族が揃う、この瞬間を見たかった。


 離れ離れになっていた時間を埋めるように、母を交えてこれまでの経緯を話した。

 進んできた道が違うので、互いにまだ理解し合えないこともあった。だが、兄も今度は私の話に少し耳を傾けてくれた。

 少しずつでいい。足りなかった時間を取り戻していこう。


 あっという間に時間は経ち。

 残してきた獣人たちの生活が安定するまでは一緒に暮らすことはできないと言い、父と兄は戻っていった。

 だが、それはいずれ一緒に暮らせる日がくるということでいいのだろうか。

 時間が巻き戻る前の世界ではあり得なかった希望。自然と頰が緩んでいた。

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