23 和解4
村の外に出てみれば、魔獣の群れがすぐそこまで迫ってきているのが目に入った。放っておけば10分も経たないうちに村の中に攻め入ってくるだろう。
ここまで接近するまで気がつけなかったのは、魔界の門が開く時間や場所を予測することができないためだ。
「まだ魔界の門は開いたままだ。魔獣どもが溢れ続けている。このままではキリがない」
隣でギャロッド様が舌打ちする。
「門の数と場所は分かりますか?」
「門は全部で3つ。今、正面に見えている2つと、ちょうどここから村を挟んで反対側に1つだ」
一度に3つも魔界へ通じる門が開くなんて。
ギャロッド様の指差す方を見れば、黒い大きな穴が空中に浮かんでおり、そこから魔獣たちが溢れていた。
魔王が現れるまでの数年間は、特に魔獣たちの動きが活発化していた。こうなる可能性もゼロではなかった。
むしろ、これから先は珍しくもなくこれより深刻な事態が起こる事を想定して動かなければならない。
何が魔界の門を開かせ、魔獣を呼び寄せるのか。大魔導士ヴァン様の研究でもはっきりとしたことは分かっていないが、村や町など、人の集まる場所に出現しやすい傾向にある。
今回も、話し合いで人が集まっている時を狙われたような気がしてならない。
「ひとまず、門の数が多い正面に人手を割いている。反対側の門の方もしばらくは持ち堪えられるだろうが、長くは保つまい」
正面側も反対側も危険な状況に変わりはないが、民間人たちの拠点に近い分、正面側が突破されると厄介だ。
騒ぎを聞きつけて手の空いている騎士や魔導士たちも集まってくれるだろうけど、それを待っている余裕はない。
「私が魔界の門を閉じます。正面の二つを閉じたらすぐ反対側に向かうので、門から出てきてしまった魔獣の対応はお願いできますか?」
「魔界の門を閉じるだと? そんなことが可能なのか……いや、お前は規格外だったな」
ぎょっとした顔をされたが、何だか一人で納得したようだ。
魔界の門が開いた場合、通常は自然に閉じるのを待つしかない。だが、強い光魔法を注ぎ込むことで強制的に閉じさせることは可能なのだ。
いつ閉じるかも分からない以上、元を断ってしまわない限り、延々と戦い続けることになる。
「やれるというのなら、さっさとやれ。俺たちには、お前のように化け物じみた力はないんだからな」
言葉が刺々しいのは相変わらずなんだけど、以前と違ってギャロッド様は私の話に耳を傾けてくれるようになった。
外に出てきてしまった魔獣のことは彼らに任せ、私は3つの門を閉じに向かう。
向かってくる魔獣たちを倒しながら、どうにか一つ目の門の前に出た。
巨大な猪型の魔獣や、大きな鳥を模した魔獣が次々と飛び出してくる。空中から攻撃できる鳥型は特に厄介なので、見つけ次第、光魔法の弾丸で撃ち落としていく。
その合間に、光魔法を凝縮した球体を生成する。
『光よ、門を閉じろ』
十分な力が溜まったところで、光の球体を魔界の門に押し込む。
外に出てこようとしていた魔獣たちをぐぐぐっと門に押し戻し、門の中に光の球体が入り切ったところで爆発させる。
上手くいったようで、爆発による眩い光が収まると、そこにあった魔界の門は跡形もなく消え去っていた。
これなら大丈夫そうだ。正面にあったもう一つの門も同じように閉じる。
「反対側の門も閉じてくるので、こちらはよろしくお願いします」
「閉じているのか爆破しているのか分からないが、確かに魔界の門はなくなったみたいだな。応援も続々と来ている。こちらは問題ない、早く行け」
ギャロッド様の脇を通り過ぎながら、自分に浮遊魔法をかける。時間がないので、村を上から飛び越えるルートでショートカットだ。
空から村の様子を確認するが、魔獣が侵入した形跡はない。騒ぎに気づいたのか、話し合いが行われていたテントからも人が出てきており、村の入り口へと向かっている。
この様子なら正面は大丈夫そうだ。スピードを上げて、逆方向へ飛ぶ。
反対側の魔界の門は聞いていた通り一つだけで、先に対応に当たっていた宮廷魔導士たちが食い止めていた。
魔獣に効果的なのは光属性の魔法や、光属性が付与された武器での攻撃だが、他の属性と比べて光属性を扱える魔導士が圧倒的に少なかったり、武器に付与していても長く効果を維持するのが難しいといった難点がある。
だが、ここ数年で大魔法の改良が施され、消費する魔力が少なくても、以前よりも効果を発揮できるようになった。光魔法を使わずとも十分魔獣に対抗できているようだった。
魔王に対抗するための試みだったが、無駄ではなかったと思った。
こちらの門も他の2つと同様に閉じる。
その後は、他の魔導士や騎士の方々と一緒に残った魔獣を倒すべく走り回った。
すべての魔獣がいなくなったことを確認してから、ようやく村に戻った時には日が暮れかけていた。
村に入った途端、凄い勢いでエルに抱きつかれる。私の姿が見えず、心配していたらしい。
怪我はないか、具合は悪くないか、などなど。答える間も無くエルの質問攻めに遭いながら、必死になだめる。
その最中、こちらに歩み寄るひとつの影があった。




