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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第3章 学園編(二年生)
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23 和解2

 各国の代表者たちが話し合いを行っているテントから少し離れた場所に、私たちも休憩スペースを設営していた。

 ファブラス家の料理人であるレオを筆頭に、炊き出しをしている。エルメラド王国側だけでなく、獣人たちも空腹なのではないかという思いからだった。

 しかし、人間の作る料理を警戒してか、そもそも人間が嫌いだからか、促してみても近づいてくる様子はなかった。


 匂いに釣られた子どもの獣人が近づいてきたこともあったが、すぐに親らしき獣人に連れて行かれてしまった。

 やっぱり、大人たちの憎しみは簡単に消えてはくれないようだ。


「話し合いの方は順調ですかねぇ」


 イディオがテントの方を見る。ディーン様とヴァールハイト様がいるから大丈夫だとは思うけど、まだ終わりそうな気配はなかった。

 この先に関しては私にできることはないし、信じて待つしかない。


 ファブラス家の人たちと一緒に休息をとっていると、小走りでリトランデ様がやってくるのが見えた。

 その様子に、何だか胸騒ぎがする。


「どうしたんですか?」

「伏兵がいる」


 周囲を気にしながら声量を抑えて告げられた言葉に、私たちは息を呑んだ。


「確かなんですか?」

「怪しい動きの獣人がいるのは、それとなく感じていた。見つけ次第、監視をつけさせているが、これで全部ではないだろう。ヴァールハイト殿下も、このまま獣人たちが引き下がるつもりはないと感じたそうだ」


 ヴァールハイト様に関する部分は、私だけに聞こえるように言った。

 すぐに考えが変わるわけではない。だから、反発する意志が残っているのは仕方がないことだと思っていた。

 しかし、伏兵がいるとなれば、反撃の機会を窺っているのは明らかだ。


「それなりの数がいるところを見ると、単独ではなく組織的な行動だと思う。獣人たちはまだ諦めていないということだろうな」

「そんな……」

「ここまで被害者を出さずにやってきたんだ。最悪の事態にならないよう全力を尽くすさ。ここまでの君の頑張りを無駄にはしない」


 不安そうな私を励ますように、リトランデ様は優しく目を細めた。彼らが頑張っているというのに、自分が弱気になっていては駄目だな。


「今、騎士団の方で伏兵と思しき獣人たちの捜索にあたっている。目立った動きがない限りは、こちらも手が出せない。いざという時のために、位置を把握できればいいんだが。ここ一帯全域となると、なかなか捜索が進まなくてね」

「建物に隠れていたり、怪しい動きをしている獣人を探せばいいんですね?」


 悩むリトランデ様に、イディオが確認する。

 そうだ、と返事が戻るとファブラス家の魔導士たちの方をちらりと見てから頷いた。


「それなら、俺たちが何とかしますよ。お嬢様のおかげで力は温存できてますし、少しくらいは仕事して帰らないとファブラス家の魔導士の名が廃りますからね」

「本当ですか? それは助かりますが、どうやって?」

「まず、土属性魔法でここ一帯の土地の上にある物体ーーまぁ、家とか人とかですね、それを把握します。火属性魔法で、その物体が熱をもった生き物か、そうでないかは区別できます。位置情報は伝達魔法で逐一知らせるので、騎士団の方でマークしていただければと」

「随分と簡単そうに言うが、複数の魔法を組み合わせて使うということですよね? かなり高度な技だと思うのですが」

「魔術の名門を舐めてもらっちゃ困りますよ」


 今の説明だけでも、土、火、風の属性を扱うことになる。加えて、魔法を使っていることを悟られないようにしたり、気配を遮断したりと複数の魔法を使用することになるだろう。

 だが、我が家の魔導士さんたちなら、たぶん余裕でこなせる。普段、もっと難しい魔法を研究してるからね。

 ファブラス伯爵家には優秀な魔導士が集まり、日々研究に勤しんでいる。研究以外には無頓着だったりもするけど、魔術の名門の名は彼らによって保たれているのだ。


 イディオの声かけによって、ファブラス家の魔導士たちが集められた。

 魔術が絡むと、いつもはマイペースな彼らも真面目な顔で動き出す。指示が伝わると、早速作業に取り掛かった。


「凄いな。皆、さっき説明された内容を実行できるのか」


 リトランデ様が驚いた表情でそう溢す。そうなんです、凄いんですよ。


「お嬢様はレオさんたちと休んでいてください。俺は一応お嬢様の護衛も兼ねて近くにはいますが、ちょっとあいつらを手伝ってきますね。何かあれば呼んでください」


 そう言い残して、イディオもその場から離れていく。

 リトランデ様も騎士たちに指示を出すべく去っていった。


 残された私はというと、レオやリーファと一緒に炊き出しの準備をしていた。何もしていないと心配するばかりだから、気も紛らわせるし。

 そうしていると、こちらを見ている瞳と目が合った。物陰から様子を窺っている獣人の子どもたち。その見た目から、十分に栄養がとれていないのではと推測された。

 しかし、手招きをしてみても近づいてくる様子はない。警戒しているのか、大人たちに人間には近づくなと言われているのか。


 その子たちの近くに、大人の姿はなかった。

 近づいてくる様子はないが、離れる様子もない。


「レオ、二つ貰っていい?」

「構いませんが、どうするつもり……ああ、あの子たちに」


 察してくれたようで、すぐにスープをお椀に入れて渡してくれた。

 それを受け取り、子どもたちの方へとゆっくり歩いていく。

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