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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第3章 学園編(二年生)
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22 獣人の国

 紅玉国へ向かうためにお養父様から出されていた条件をクリアし、国王陛下からのお許しもいただいた。本当に行くのかと念を押して聞かれたが、私の意志が揺らぐことはない。

 公務に出ていたグレース様へは事後報告になってしまった。彼女も止めてくれたが、必ず無事に帰ってくることを約束して送り出してもらった。


 そして迎えた遠征当日。作戦に参加する人たちがお城の前にずらりと並ぶ。私もその中に加わって陛下のお言葉に耳を傾けていた。

 今回の部隊の編成は、大きく二つ。騎士、それから魔導士の部隊だ。

 前衛を任されるのは騎士団の皆さん。エルとリトランデ様もここに属し、それぞれ一部隊を率いることになる。

 後衛を任されるのは魔導士たちで編成された部隊。私もここに配属となった。

 戦いが始まれば、宮廷魔導士の皆さんで編成される部隊が中心となって、各魔導士部隊に指示が下されることになっている。こちらは、ディーン様が総隊長を任されているようだ。


 私が所属している部隊は、ファブラス伯爵家の魔導士で編成されている。流石は魔術研究の名家。宮廷魔導士部隊に次ぐ権限を与えられている。ディーン様たちの部隊に何かあった時には、他の魔導士部隊も率いていく必要がある。

 その重要な役目を担うリーダーに任命されたのは、やはりというか、お養父様の右腕であるイディオだった。お養父様は領地の守りに徹することになっているので、こちらはイディオの手に全てが委ねられている。


「皆、戦なんて面倒くさいって駄々をこねていたもので、引っ張り出すの大変だったんですよ。お嬢様も参加されるって聞いた途端、楽できそうだからって急に腰が軽くなりましたけど」


 自分の所属部隊をまとめるのが一番大変かもしれない、とはイディオ談。

 ずっと部屋にこもりっぱなしの魔導士さんたちを引きずり出し、どうにか今日に間に合わせたのだという。

 お養父様が参加されていれば、流石に魔導士さんたちもすぐに従ったんだろうけど、今回は領地の守護に専念しているからね。


「ご当主がいれば俺がこんな仕事する必要なかったんですけどね。まぁ、ご当主は残った方が領民たちも安心できますから」


 疲れた顔をしながらも、領民たちのことまで頭が回るのは凄いことだよ。お養父様の仕事を手伝ううちに、似てきたのかもしれないね。


 激励が終わった後は、各隊の隊長たちが集まって作戦の最終確認を行ったり、各隊でこれからの流れの再確認をする時間がとられた。連絡役はいるにしても、紅玉国と衝突してしまえば十分なコンタクトは取れなくなる。今のうちに頭に叩き込んでおく必要があった。

 隊長たちのミーティングを終え、イディオが戻ってくる。ここからはファブラス家の魔導士部隊での話し合いだ。私も他の魔導士さんたちと一緒にイディオの話を聞く。


「全体の流れとしては、まずはお嬢様が防壁を張って、敵の戦意を削ぐ。防壁を突破できるだけの力を持った相手に対しては、騎士たちが対処してくれる手はずになっています。でも、いくらホロウといえど、魔力は無尽蔵ではありませんから、お嬢様が休憩している間は宮廷魔導士の方々が防壁を担当します。俺たちはお嬢様の護衛と、もし騎士たちが討ちもらした敵がいれば迎え討つということで。これだけ聞くと楽できそうですよねぇ」


 エルメラド王国、紅玉国の双方の被害を減らしたいという願いは、国王陛下をはじめとした重役の方々の熟考の末、承認された。実際に広範囲に防壁を長時間張り続けられることを証明するために、ディーン様たち宮廷魔導士の前で実演もしている。


「問題は、紅玉国の獣人たちが力の差を知って諦めてくれるかどうかって話ですけど」


 この方法で実際に獣人たちの戦意を削ぐことができるのかは想像の範疇を出ないため、大規模な戦闘、捕縛に切り替わる可能性もある。その場合は、時間が巻き戻る前の世界で起こったように、紅玉国は実質の消滅となるだろう。

 この戦いがどういった結果になろうとも、未来が大きく変化することはないのかもしれない。それでも、後悔しない選択をしたい。あの時こうしていれば、などと思ったところで遅いのだ。

 この時間が巻き戻った世界を生きていることが奇跡であり、そう何度も起こるものではない。自分の置かれた状況をきちんと理解できてはいないけれど、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。神の気まぐれなのか、この際理由は何でも構わない。

 後悔しないように、今を生きる。その決意が、私を動かしていた。


「何にせよ、お嬢様への負担が一番大きいのは確かです。お嬢様が防壁を張るのに集中できるように、俺たちが全力でサポートさせていただきますからね」


 ファブラス家の魔導士さんたちとは五歳の頃からの付き合いだから、彼らと一緒に戦えるのは心強い。うん、でも、「早く帰りたい‥‥‥」、「もう疲れた‥‥‥」という声もちらほら聞こえるから、なるべく早く終わるといいね。


「身の回りのお世話はお任せください。お嬢様が快適に過ごせるよう最善を尽くします」

「食材も大量に持っていくし、途中で食材が不足しないように運搬ルートの確保もばっちりよ。後方支援は任せて頂戴」


 魔導士さんたちに混ざって、メイドのリーファと料理人のレオの姿もあった。確かに行くとは言っていたけど、本当に参加することになったんだよね。本人の意志を尊重するお養父様のことだから、許可を出す気はしていたけど。

 

 エルメラド王国側の戦力は十分だ。余程のことがなければ負けることはない。

 だが、どれだけ準備していても予想外の出来事は起こるものだ。気を引き締めていこう。

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