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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第3章 学園編(二年生)
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21 銀狼の騎士3

 グランディール様のところへ向かう前に、騎士団に立ち寄る。エルがいるか騎士の一人に尋ねれば、すぐに呼んでもらうことができた。


「ルナシアさん、どうしたんですか?」


 呼んでもらってから、ものの数分でエルがやってくる。突然の訪問に謝罪をしてから、なぜ紅玉国へ向かう隊に志願したのか尋ねた。


「エルが紅玉国の戦いに参加するっていうから、どうしてそう決めたのか聞いておきたくて」

「母から聞いたんですか?」

「うん、ここに来る前にエルの家に寄ったから。お母さん、凄く心配そうだったよ」


 その様子を想像したのか、エルは眉を下げた。

 最終的にはエルのことを送り出したお母さんだけど、最初は止めただろうし、何なら今だって本当は行かないでほしいと思っているだろう。


「本当に、いいの? エルメラド王国の軍で戦って」


 獣人たちから、人間たちの味方をする敵と見られるかもしれない。本来、仲間であるはずの獣人たちから。

 エルは、人間の中で暮らしてきた時間の方が長い。だが、彼女自身、人間たちに家族と引き離された過去がある。

 それなのに、獣人である彼女が人間の側に立って戦うことに抵抗はないのだろうか。


「確かに、まだ幼い時に人間とは色々ありました。結構覚えてるんですよ、当時のことは」


 まだ幼くはあったが、記憶は鮮明なのだという。

 離れ離れになって今どうしているかも分からない父と兄の顔も思い出せるし、母と自分が人間に攫われた時の恐怖も忘れたことはないという。


「他の獣人たちがどうかは知りませんけど、私に人間そのものを憎いと思う気持ちはないんです。あの日、ルナシアさんが助けてくれたからかもしれませんね」


 自分の記憶をすべて受け入れた上で、エルはこの決断をしたようだ。

 幼い頃に人間に酷い目に遭わされながらも、憎しみに変わらなかった彼女の心の強さ。


「戦いが早く終われば、それだけ被害も少なくて済みます。人間にとっても、獣人にとっても。そのために、私はこの作戦に参加させていただくんです」

「でも、エルの想いを獣人たちが分かってくれるかどうかは……」

「分かってもらえなくてもいいんです。被害が少なくて済んだという事実さえあれば」


 そう言って、彼女は笑う。

 相変わらず、強いな。誰にどう思われようと、何を言われようと自分が決めた道を行く。

 そこまで考えて決めたことなら、私が口を挟む余地はない。


「そっか、そこまで考えてたんだね。それなら、一緒に頑張ろう」

「……えっ、ルナシアさんも参加するんですか?」

「そのつもりで、ここに来たんだよ。グランディール様を説得するのが、お養父様から出された条件だから」


 その前にエルにも伝えておかなきゃと思って、騎士団に寄ったんだけどね。


「ルナシアさんが戦いに参加するなんて、絶対に駄目ですよ。第一、まだ学生じゃないですか」

「それはエルも同じじゃない?」

「そうだった……今の私はまだ学生……いえ、それはどうでもいいんです。とにかく、ルナシアさんが参加することは認められません」


 自分のことは棚に上げつつ、エルは私が参加することに猛反対した。

 そう言われても、私だってエルと同じで少しでも被害を減らしたいと思っているのだ。

 実戦経験はないかもしれないが、模擬戦という形ではイディオやガザーク家の人たちと手合わせしたことはある。人と戦う術を知らないわけではない。

 独断で勝手な行動をとるつもりもないし、基本的には軍の人たちの指示に従うつもりでいる。

 防御や治癒といった方面ではそれなりに自信をもっているし、役には立てると思う。


「私だってエルと同じで、少しでも被害を減らしたいと思ってるんだよ」

「それでも、駄目なんです。私が傷ついて欲しくない人間の中には、ルナシアさんも含まれているんですから」

「私だって、エルに傷ついて欲しくないよ。それでも反対しなかったのは、エルの意志を尊重したかったから。私にだって、曲げられない思いはあるんだよ」


 何度も諦めるつもりがないことを伝えれば、ぺたりとエルの耳が垂れる。


「でも、ルナシアさんにもしものことがあれば……」

「大丈夫、私は死なないよ。それに、エルのことだって死なせない。エルと一緒に戦えるんだから、これ以上心強いことはないよ」


 魔王と戦う前に死ぬつもりはない。

 油断さえしなければ、エルメラド王国が負けることはない。エルが一緒なら尚更だ。

 時間が巻き戻る前の世界で、最期まで一緒に魔王と戦ってくれたエル。結局、勝つことはできなかったけど、諦めないで立ち向かうことができたのは、隣に彼女がいたからだ。

 エルと一緒なら、どんな困難にも立ち向かっていける。


「……分かりました。でも、あなたのことは、私が必ず守りますから」


 思い汲んでくれたのか、それ以上の反対をされることはなかった。

 隊長を任され彼女も忙しい。話し終えてすぐに、会議へと駆り出されていった。何だか、彼女が宮廷騎士になった頃の姿を彷彿とさせる。


 頑張っている親友を見て自分を奮い立たせる。

 私ももう一つの壁を乗り越えに行かないとな。

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