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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第3章 学園編(二年生)
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21 銀狼の騎士2

 ファブラス家の人たちを説得するのに、だいぶ時間がかかってしまった。

 両親を説得するのには時間がかかるかもと思っていたが、リーファをはじめとして、幼い頃から面倒を見てくれていた人たちのことを納得させるのにも同じくらいの時間を要した。


 正直、両親のことを完全に納得させられたわけではない。どうしても行きたいのだと何日も粘って、ようやく仕方なしに折れてくれたのだった。

 まだ子どもなのだから。行く必要がないのなら残りなさい。経験を積みたいだけなら、今でなくとも……など、色々な理由をつけて反対された。

 私のことを心配してくれているのは痛いほど分かる。両親のことをこんなに心配させて、悪い娘だなとも思う。

 でも、意志を曲げるわけにはいかなかった。


 元から紅玉国への戦いに参加する予定だった人たちは、何だかんだいって納得してくれた。屋敷に残る人たちも、しばらく時間はかかったけど、粘り強く説得して諦めてもらった。

 でも、私が紅玉国へ行くと伝えて、元々行く予定のなかったリーファとレオまでついてくることになったのは想定外だった。

 確かに、リーファはサフィーア帝国の一件があってから、次に遠出する時はついて行くって言っていたけれども。魔導士の力の源である食事が尽きれば死活問題だと、レオも準備を始めているし。

 この二人に関しては、止めても無駄だろうから自分も行くという選択をしたようだ。なぜ。


「自分が仕える主人の大事な時に傍にいないなんて、従者失格です」

「ちゃんとした食事が摂れるか摂れないかでは、モチベーションが違うでしょ? 魔導士が意外に単純だっていうのは、よく分かったから」


 流石に私も止めたが、「お嬢様は止めても聞かないのに、他人のことは止めるなんておかしい」と指摘されてしまえば、言い返すこともできないのだった。



 予め手紙を出してから、グランディール様に会う約束を取り付けた。

 久しぶりの王都。城へ向かう前に、少し寄り道をする。


「せっかく来てもらったのに、ごめんなさいね。あの子、しばらくお城に行っているから、すぐには戻ってこないと思うわ」


 家にいるだろうとエルのところを訪ねると、出迎えてくれたのは母親の方だった。何度か顔を合わせたことはあるので、来客が私だと知ると安心したような顔を見せた。

 エルの家族も、かつて人間から酷い目にあった過去がある。未だに知らない人間と会うのは抵抗があるようだった。


「騎士団の方に行ったんでしょうか?」

「ええ……あの子、紅玉国へ向かう隊に配属してもらえるよう志願していたから。隊長を任されたとも言っていたわ」


 その言葉に耳を疑った。

 どうして、エルが紅玉国へ? 今の彼女は幼い頃から騎士団に出入りしている。紅玉国が近々攻めてくるという情報を知っていても不思議ではないが、まだ学生だ。私も人のことは言えないけどね。

 彼女の実力は、今や騎士団の中でも一二を争う。隊長を任されても不思議ではない。年齢を考えれば異例の大抜擢であるが。

 しかし、彼女もまた獣人なのだ。自ら獣人たち率いる紅玉国との戦いに身を投じるなど考えてもみなかった。


 エルと話さないと。

 お礼を言って立ち去ろうとした私を、エルのお母さんが呼び止める。


「もしかして、あなたも参加するの?」


 流石は親子というか、エルと同様、勘が鋭い。私の様子や、短いやり取りの中から感じるものがあったのだろう。

 そのつもりだ、と肯定すれば、少し悩むそぶりを見せてから話し出した。


「人間であるあなたにこんな話をするのもどうかと思うんだけど……私たちが人間に襲われた時、あの子はまだ小さかった。その時のことを、どれだけ覚えているかも分からないわ。人間の全てが悪いわけじゃない。私もエルも、それは分かっているわ。でも、他の獣人たちがどう考えているのかは……。この戦いで、あの子は獣人たちから敵として見られるかもしれない」


 それは、私も心配していた。そのあたりの話もエルから直接聞かないといけない。

 エルは、自分が賊に攫われた過去があると知っていても、当時はまだ小さかった。人間に対して忌避感が薄いのも、記憶が曖昧なせいかもしれない。

 でも、人間たちがしてきた仕打ちをしっかり覚えている獣人たちはどうだろうか。エルのお母さんも、完全には人間を信用しきっていないのがその答えなような気もする。

 獣人でありながら、人間の味方をして戦うエル。その姿が、彼らの目にどう映るだろうか。


「だから、お願い。あなただけは、何があってもエルの傍にいてあげてほしいの。ごめんなさい、こんなことお願いして……」


 獣人への認識がある程度改められているエルメラド王国内であっても、完全に受け入れられているとは言い難いのが現状だ。

 それに加えて、獣人たちからも敵視されてしまったら。

 娘のことを心配している母の顔だった。

 

 私もまだエルから詳しい話を聞いていないので、はっきり言えないこともある。

 でも、これだけは確実だ。


「心配いりませんよ。どんな結果になっても、私がエルの親友であることに変わりはありませんから」

「ありがとう。ホロウであるあなたが簡単にやられるとは思っていないけど、必ず無事に帰ってくるのよ」


 それを聞いて少し安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす。そして、自分の娘だけでなく、私のことも気にして声をかけてくれた。優しいな。

 エルのお母さんに見送られ、いよいよ城へと足を運ぶ。

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