4 再会(グランディール視点)
私は君に助けられてばかりだ。
結局、何も返せないままに世界は崩壊し、君を失った。
ホロウの名を持つ宮廷魔導士として、どれほどの期待をかけられてきたのだろう。普通なら重圧に押しつぶされてしまうような状況にあっても、彼女は立ち止まらなかった。
その強大な魔力から、「お前こそ魔王なのではないか」とあらぬ疑いをかけられたこともあった。
偉大な魔導士だというのなら、さっさと魔王を倒してみせろと言われたこともあった。
理不尽なことを言われ続けても、彼女は嫌な顔ひとつせず、世界を、人々を救うことを第一に考えていた。
その生き方は、気高く美しい。そして、それを守ることができなかった自分が情けない。
ホロウである自身の力を驕ることなく、誰にでも分け隔てなく接していた。
彼女の周りには人が集まる。好意を持って傍にいる者もいたが、それと同じくらい、いやそれ以上に敵は多かった。
彼女は世界的な魔導士として成長した。だが、それ以前に彼女はエルメラド王国の宮廷魔導士。国が守るべき国民でもあった。
命を賭して戦ってくれた彼女に対して何もできなかった、一国の王子たる自分のなんと無力なことか。
愛する人ひとり守れなかった男のなんと不甲斐ないことか。
彼女は、私にどれほどの幸福をくれたか分からない。
だが、私は君にこそ幸せになってほしかった。
ああーーやり切れない。
もう一度、やり直したい。今度こそ、君を守ってみせるから。
その願いを誰かが聞き届けてくれたのだろうか。
君の顔を見て、私は今まで起こった出来事を思い出した。君と初めて会った、八歳の姿で。
私が君に恋をしたあの日と同じ光景。このまま誰も見つけてくれないのではないかと考え始めたころに、魔法で助けてくれた少女。
生きている。ルナシアが生きている。目の前で起こっていることに驚き、思わずまじまじと彼女の顔を見つめてしまう。
会いたかった。君の声が聞きたかった。
名前を呼びたくなるのを必死に抑える。今の彼女とは初対面のはずだ。いきなり名前を呼んでは驚かれてしまうだろう。
「僕は、グランディール・テラ・エルメラド。助けてくれて、本当にありがとう。君は?」
「ルナシア。ルナシア・シャルティル」
ああ、本当に君なのか。何という奇跡だろう。
ここが、かつてと同じ運命を辿る世界なら。今度こそ、私は君を守ってみせる。君に、幸せだと笑って生きて欲しい。
そのためにも、魔王の問題をどう解決するか考えないといけない。
ルナシアを見送った後、自室でひとり考えを巡らせる。
ルナシアの力を頼らずとも、魔王に勝てるだけの力を。魔王が現れる十五年後までに準備する。今後やるべきこととして、それが重要項目だ。
彼女に同じ運命を辿らせはしない。そう強く決意した。




