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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第3章 学園編(二年生)
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20 魅了する力3

 寮の近くで話をしてから、ハイン王子と遭遇する確率が上がった気がする。

 エルに、「最近、ハイン様とよく会う気がするのですが」と言われて意識してみると、確かに。学園内でも学年が違うためあまり会うことはなかったのだが、ここしばらくの間、一日に一回は顔を見るようになった。

 会ったからといって何か話すわけでもない。ただすれ違ったり、同じ場所にいることがあるだけだ。


 そんな状態がひと月ほど続いたある日、再び寮への帰り道でハイン様に呼び止められた。最近の行動は気になっていたので、今回は素直に従った。


「気づいていたと思いますが、ここひと月ほどあなたのことを調べさせていただきました。噂の種になりそうな話の一つや二つ出てくるかと思ったんですが、つまらないくらい何もありませんでしたね」


 やはり偶然ではなかったようだ。

 王子の口ぶりから、噂の種というのがあまりよいものではないのだろうと想像できる。


「もし噂になりそうな話題があれば、どうするつもりだったんですか?」

「追い詰められた状況になれば、誰だって人を信じられなくなる……それを確かめたかったんですよ」


 前回も、そんなことを言っていたことを思い出す。

 どうしてそこまで、頑なに人を信じようとしないのだろうか。


「理由を伺っても?」

「ええ、構いませんよ。あなたのことを陥れようとしたことへの謝罪も兼ねて、ね。そうですね……信じたくなかった、認めたくなかったんです。あなたのように、無差別に人を信じて、誰にでも手を差し伸べられる人間がいることを」


 王子の話はこうだ。

 エルメラド王国の王族たちは、大地を連想させる茶色の髪、植物を思わせるエメラルドグリーンの瞳をもって生まれてくることが多い。グランディール様とグレース様もそうだ。

 だが、ハイン王子はピンクブロンドの髪にオレンジの瞳。母方の色を受け継いだ。

 王族の色をもたないハイン王子のことを、国王の本当の息子ではないのではないかと噂する者があった。レーナ様が第二妃であったことも、それに拍車をかけたのだという。

 実際には、そんな事実はない。だが、噂は広まり、容赦なく幼いハイン様を苦しめた。


 この見た目が悪いのか。だから、皆そんな冷たい目で自分を見るのか。

 母が辛そうな目をするのも、自分が王族の色をもって生まれてくることができなかったからなのか。

 そもそも、本当に自分は王族の血を引いているのか。

 疑心暗鬼に陥り、次第に人を信じることができなくなっていった。自分自身のことすらも。


「王族の家系には、茶色の髪やエメラルドグリーンの瞳を持たない王族もいます。ハイン様だけが例外というわけではないのですよ」

「そんなこと知っています。でも、これほど父上に似ていない僕を見て、様々な憶測が飛び交ってきたんですよ。母上も、僕がこんな見た目でなければ苦労することもなかったのに」


 ぽつりとそう零し、項垂れる。

 ハイン様は、きっと他人のことをとても気にする方なんだ。

 自分のことが認められないのは、こんな自分が好かれるはずがない、嫌われているんだと思い込んでしまっているから。

 この国の王妃様たちは、どちらも国のためを考えて行動している強い女性だ。少なくとも、見た目を理由にして人の好き嫌いを決めるような方々ではない。

 そんなレーナ王妃が、自分に似ているハイン王子を嫌うだろうか?


「ハイン様、本当にあなたは誰からも愛されていないのですか? 国王陛下やレーナ王妃に愛されていないと、どうして断言できるのですか? グレース様だって、あなたのことを大切に思っているはずです」

「僕は、魅了魔法(チャーム)でも使わないと、誰かから愛されるなんてあり得ない。あなたは愛されているから、僕なんかの気持ちは理解できませんよ」


 思い出した。宮廷魔導士時代に聞いた話。

 ハイン様がまだ幼い時、周囲の人間に対し、無差別で魅了魔法(チャーム)をかけたことがあったのだとか。

 場所が場所だけに、すぐに宮廷魔導士たちが解除したが、それ以来、ハイン様には監視がつくようになったと。

 なぜそんな行動をとったのか疑問ではあった。幼さ故の魔術暴走かとも思っていたが、違う。

 幼いながらに、周囲の人間たちが流すいわれのない噂に傷つき、認められたい、愛されたいと願って起こした行動だったのだろう。


 成長した今でも、噂に踊らされ、人を信じることができない。

 全員を信用する必要はないかもしれないが、大勢の中にいる自分を愛してくれている存在からも目を背けている。

 そして何より、自分自身のことを見ようとしていない。


「ハイン様の瞳はエメラルドグリーンではありませんが、生命を育む太陽の光のようで、とても美しいですよ。それは、あなたが持つ魅力なのではないですか?」


 ハイン様の瞳をしっかり見ながら伝える。私の気持ちがちゃんと届くように。

 あなたが嫌う容姿は、美しいものであると。


「あなたは、あなた自身を愛せていない。たくさんよいところがあるのに、それを見ようとしないで、人と比べてばかり」


 人と違うことの何がいけないのか。それこそが、あなたがあなたであるということなのに。


「ハイン様のよさを分かってくれる人を探せばいいんです。世界は思っている以上に広いんですから」


 今の彼は噂を流した一部の人たちしか見えていないが、世界にはたくさんの人々が暮らしている。

 その中には、未だ出会ったことのない、自分を理解してくれる人もいるはずだ。

 だから、もう少しだけ人を信じてみてほしい。自分から進んで孤独になんてならないでほしい。


「あなたのことを陥れようとしたって、お伝えしたはずなんですけどね……そんな僕に、そう言ってくれるんですか」


 しばらくの沈黙の後、ハイン様は弱々しく笑った。いつものような人好きのする笑みではないが、彼の本心からの表情であるような気がした。


「母上が僕の婚約者にあなたを勧めた時、力のない僕が、ホロウの称号を戴いた人間と結婚することに意味があるのだと思っていました。でも、母上は()()()()()()僕の婚約者にしたかったんですね、きっと。ちょっと気づくのが遅かったな」


 うーん、私がホロウだから候補に挙がった可能性はゼロではないと思うけど。

 王族の婚約者という形に拘らなくても、もともと宮廷魔導士としてエルメラド王国で働くつもりなんだけどね。

 でも、まぁ理由はどうあれハイン様が納得したならいいか。


「ああ、でもーーまだ()()か。ふふっ、もう少し頑張ってみようかな」


 去り際、ハイン様はいつもの人好きのする笑みを浮かべていた。でも、それはどことなく悪戯っぽさを含んでいるような気がした。

 気のせい、だろうか?

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