19 婚約者候補(二人の王妃)
とある昼下がり。
エルメラド王国の第一、第二王妃は揃って城のテラスでお茶会を開いていた。お茶会といっても、二人だけのささやかなものだ。
この国の王妃は、正妃である第一王妃シェリルと、第二王妃レーナの二人。
凛とした美貌に、堂々とした立ち振る舞い、家柄などなど……数々の令嬢たちの中でも一際目を引いたシェリルは、見事現国王の目に留まり、王妃として迎えられた。
対するレーナは、おっとりとした可愛らしい女性だ。さほど高い身分ではなかったが、社交界での情報収集能力には眼を見張るものがあり、それを駆使した立ち回りを得意としていた。
完全無欠と謳われたシェリルが実は苦手としていた分野であったため、それを補うために第二王妃として迎えられたとも言われている。
シェリルの子として、第一王子グランディールと第二王女グレース。レーナの子として、第二王子ハインがいた。
王妃二人が一緒にいると、王位継承権を巡り、火花を散らしているのではと一部の人間は思うようだが、実際のところは関係良好である。
ただ、王妃たちが気にしなくても、それぞれの後継ぎたちには勝手に派閥ができていた。特に、グランディール派とハイン派の争いが激しいとも聞く。
そのため、表向きはシェリルとレーナも対立しているかのようなそぶりを見せ、派閥の情報を探り、時折お互いに情報交換をしているといった具合だ。
二人に共通する考えは、「エルメラド王国を守るに相応しい者が王となるべき」である。そこに私情は挟まない。
今のところは第一王子グランディールが最有力であるし、実力も申し分ない。だが、この先グレースやハインの方が相応しいとなれば、それでもよいと考えている。
せいぜい、自分たちの目が黒いうちは、それぞれの派閥に目を光らせ暴走しないように制御する。国を影から支える国母としての務めであった。
「レーナ、グレースを助けてくれた方の話は聞いたかしら?」
シェリルが投げかけた問いに、レーナはカップをソーサーに戻す。
「ホロウの少女のことでしょうか?」
その答えにシェリルは頷く。
「グレースが魔術暴走を起こしたと聞いたときは青くなったものですが、ルナシアさんのお陰で大事には至りませんでした」
「ルナシアさんの噂はよく耳にしております。天才的な魔術の才をもち、それを人々のために使いたいと若干七歳にして宣言したと。加えて、誰にでも分け隔てない優しさ。あのギャロッドでさえ、彼女の前では別人のようだと聞きます」
「ギャロッドまで? それは只者ではありませんね」
レーナの話を聞いたシェリルが、信じられないとばかりに目を見開く。
「トリル男爵家の一件を解決に導いたのも、リーネ嬢が魅了魔法を使っていることに、彼女が気づいたからだそうです。素晴らしい観察眼ですわ。ルナシアさんのこと、私はますます気に入りました」
「奇遇ですね、レーナ。私もですよ」
しばらくルナシアのこれまでの功績についての話題で盛り上がったが、タイミングのよいところでレーナが切り出す。
「それで、本題は?」
「レーナにはお見通しですね」
おっとりしているようで、常に周囲に目を光らせているし、勘も鋭い。侮れない相手でありながらも、共にエルメラド王国を支えていくには頼もしい相手だ。
意を決して、シェリルは口を開く。
「ルナシアさんを、グランディールの婚約者候補に加えようと思っているのだけど。女性に興味がなさそうなあの子が、自分から言ってきましたし」
「あら、ハインの婚約者にどうかと思っていたのですが。有力な婚約者候補も挙がっておりませんし」
おほほ。うふふ。
二人とも笑っていたが、その場の空気が凍りつくのを感じたと、のちに従者たちは語った。
「グランディールも、まだ誰を正式な婚約者とするか決めかねている状況です。年齢的にも、そろそろ決めてほしいのですよ」
「今になって候補者を増やせば、余計に決められなくなるのでは?」
「今になってグランディールが自ら懇願してきたのです。実質、彼女に決めたということでしょう」
「ルナシアさん本人の意志を確認するまで分かりませんわ。ファブラス家の後継者問題もありますし」
「それはそうですが、後継者問題云々に関する理由で断るのなら、ハイン王子の婚約者にもならないということですよ」
「ハインは王位継承権が三位ですから、このままグランディール王子が王位を継ぐなら、ファブラス家の人間になって国を支えるという道もあるのですよ」
ほとんど喧嘩などしたこともない二人の間に、火花が散る。これには長年付き添った従者たちも青ざめてしまう。
「レーナ、あなたそこまでして彼女に拘るのはどうしてですか?」
「ルナシアさんの姿は何度か城で見かけています。それで、それで……あんな可愛い子、娘に欲しくなるではありませんか!」
「本性を現しましたね! それは私とて同じこと。譲るわけにはいきません」
「シェリル様にはグレース王女がいらっしゃるではありませんか!」
「娘は何人いても可愛いものでしょう! それに、ルナシアさんなら王妃としての素質もあります」
「だから、本人にその意志があるかは分からないではありませんか」
ああでもない、こうでもない。
穏やかな昼下がり。この日のお茶会は、いつもより長めに行われたとか。




