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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第2章 学園編(一年生)
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17 竜の国2

 エルメラド王国が緑豊かな大地の国であるなら、サフィーア帝国は清らかで荘厳な水の国だ。

 青みを帯びた岩壁がいたるところに高くそびえ、その頂からゴォォッと勢いよく水が吐き出されている。その力強さは圧巻だ。

 水の流れが激しくない下流の方には、サフィーア帝国の人々が暮らす街が点々としている。隣の街とは距離があるものの、川を渡る船がたくさん出ているので行き来には苦労しないそうだ。

 数多の河川が繋がり、利便性の高い場所に皇帝は居を構えているらしい。皇子の友達が傷を癒しているとのことで帝都へやってきたが、物流のよさからか商業が盛んで活気に溢れていた。


 船から身を乗り出して、その街並みに見入ってしまう。自然の芸術、そこに人工物がうまく融合している。

 事情が事情なだけに入国できる外部の人間は限られるが、見事な観光都市だ。

 今までバレなかったというのも頷ける。こうして見ただけでは、竜や竜人がいるとは気づけない。エルメラド王国の人たちと何ら変わらないように見える。


「折角ですから、観光も楽しんでいってくだサイ。サフィーア帝国は魚が美味しいのデスヨ。いい店を紹介しまショウ」

「ぜひ、お願いします」


 反射的に皇子の言葉に反応してしまう。魔導士だから仕方のないことなのだ、うん。お腹が空いていては、いざという時に動けないからね。


「観光客の受け入れも制限しているし、もう少し静かなイメージだったんだが、随分と賑やかなんだな」

「外とほとんど繋がりがない分、自分たちの力で色々とやっていかないといけませんカラネ。皆、努力してきたのデス」


 立ち並ぶ店からは、客を呼ぶ声が響いている。リトランデ様の言うように、いい意味でイメージは裏切られた。

 エルメラド王国では見られない食材や衣服、置物など、独自の文化も発展している。


「他国を頼らずとも国を支えるだけの力はあると思っていますが、魔法学のように、未だ研究が進んでいない分野もあるのデス。エルメラド王国の様子を自分の目で見て、このままでいいのかと考えさせられまシタ」


 エルメラド王国に彼が留学してきたのも、魔法学を学ぶ目的があったと聞いたことがある。私たちには当たり前のことでも、皇子にとってはエルメラド王国の魔法は進んでいるように見えたらしい。

 魔法がなくとも普通の生活を送るのに支障はないが、今回の解呪の件はどうにもならなかった。皇子にも思うところがあるのだろう。


「さて、話はこの辺りにシテ。お昼ご飯にしまショウカ。お二人のガイドは僕がさせていただきますので、行ってみたい場所があれば遠慮なく言ってくだサイ」


 ヴァールハイト様の従者も何人か船に同乗しているが、特に口出ししてくる様子はない。護衛目的なんだろう。

 通常ならガイド役は他につくはずなのだが、そこは皇子が何やら根回ししたらしい。皇子にガイドしてもらうって豪華だよね。

 魚が美味しいという話だったので、お昼ご飯は皇子オススメの店に連れて行ってもらうことになった。


 騒ぎが大きくならないようにヴァールハイト様も変装しているので、パッと見では彼だと分からないだろう。銀竜の刺繍が施された伝統衣装を脱ぎ、目深な帽子と色付きの眼鏡をかけただけではあるが、上手く特徴を隠せている。

 ただ、近くで見れば分かるので、彼に声をかけられたお店の人は驚いた顔をしつつも熱烈な歓迎をしてくれた。その様子から、皇子が愛されているのが分かるね。


「オ客サン、ゴ注文ハ?」


 皇子だということがバレないように気を遣ってくれながら、お店の人が注文を聞いてくる。

 とりあえず魚料理は食べたいが、何がいいのか分からないのでオススメをお願いする。皇子が何やら店員さんに耳打ちすると、笑顔で頷いて厨房へ下がって行った。


「オススメの料理を全部出してもらえるよう頼みまシタ。ここは僕が出すので、好きなだけ食べてくだサイ。ちゃんと僕のポケットマネーなので大丈夫デスヨ」


 何を言ったのかと尋ねれば、そんな答えが返ってきた。

 流石にそれは申し訳ない、と断ろうとした矢先、早速料理が運ばれてきた。しかもどんどん増えてくる。

 刺身に、塩焼き、煮付けに、鍋まで……本当にオススメ全部出してくるつもりだろうか。


 しかし、うん、出されたものは食べねば申し訳ない。皇子オススメの店の料理とあって、美味しいのは間違いないだろう。長旅でお腹も空いていたし、我慢も限界だ。

 遠慮するのはここまでにして、ありがたく頂くことにする。


「イイ食イップリダネ~! コレハ、サービス。特別ダヨ~」

「ありがとうございます!」

 

 次々と私の胃の中に消えていく料理。嬉々として追加されていく料理。外では食べる量に気をつけようと思っているのだが、あまりの美味しさと、次にいつサフィーア帝国の料理が食べられるか分からない貴重さとで、手が止まらない。

 流石に店の人に冷たい目を向けられたら思いとどまるのだが、この食べれば食べるほど喜ばれる雰囲気が拍車をかけていた。


「オ兄サン、手ガ止マッテルネ。オ嬢サン二負ケテルヨ」


 リトランデ様の方に声をかけながら、私の前に新しい料理の皿を置いていく。彼の手はすっかり止まっていた。いや、随分食べてはいたから、それが普通なんだろうけどね。

 私の方が普通だと言わんばかりの店員さんの様子に、リトランデ様が真剣な顔つきになる。


「俺がおかしいのか?」

「この国の人はよく食べますから、観光で来られた方はびっくりするようデス。彼女は関係ないみたいですケドネ」


 微笑みながら皇子は私の方を見ている。サフィーア帝国の人たちも、たくさん食べるのか。他のお客さんのテーブルを見れば、確かに皿が何枚も積み上がっていた。

 魔導士だからということを差し引いても、自分がよく食べるのは分かっているから。この勢いについてきてくれるって、なかなかないよ。いやぁ、いい国だ。



「ご馳走様でした」

「マタ来ナヨ~」


 満腹になるまで食べ、笑顔で見送られつつ店を後にする。すっかり昼時は過ぎていた。流石に長居しすぎてしまったかな。


 食休みがてら、皇子にガイドしてもらいながらプラプラ街を散策する。

 こちらとしてはそれも楽しいのだが、やはり頭を過るのは皇子の友達のことだ。ただ、皇子の護衛の人たちもついてきているので、堂々とその話題を出すわけにもいかない。

 皇子もどこかソワソワしているし、やっぱり心配なんだろう。


「なんだ、騒がしいな」


 異変に気が付いたのはリトランデ様だった。立ち止まって今来た道を振り返ると、街の人たちが険しい表情で同じ方向に走っていく。嫌な予感がする。


 事情を聞くため、皇子が近くにいた女性を捕まえた。突然腕を掴まれてびっくりしていたようだが、ヴァールハイト様の顔を確認すると縋るように叫んだ。


「ラーチェス様ノ容態ガ!!」


 その切迫した表情から全てを察したのか、皇子が走り出す。

 よくないことが起こっているというのは、私たちにも分かった。リトランデ様と顔を見合わせ、頷く。すぐに私たちもその後を追った。

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