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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第2章 学園編(一年生)
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16 サフィーア帝国からの留学生(グランディール視点)

 魔王問題ばかり頭にあった私たちにとって、ヴァールハイト皇子の登場は予想しないものだった。

 巻き戻る前の世界では起こらなかったこと。この出来事は、今回とった前回と違う行動のどれかが作用した結果なのだろうか。それとも。


 後日、サフィーア帝国へ()()するために必要な話し合いをするため、ヴァールハイト皇子を生徒会室に呼んだ。


「護衛役には、じきに私の側近になってもらうリトランデをつけます。信頼のおける人間であることは保証します」


 後方に控えていたリトランデが頭を下げる。私も簡単には国を離れられない以上、適任なのは彼くらいしか思い浮かばなかった。幸い、ルナシアの護衛の話をしたところ快く引き受けてくれた。

 この言葉が嘘でないことは、銀竜の瞳を持つ彼には明らかだろう。皇子にも異論はないようで、了承してくれた。

 もちろんエルも名乗り出たが、獣人である彼女にとって今回は相性が悪い。最後まで自分も行くと粘っていたものの、皆で説得して我慢してもらった。サフィーア帝国では、竜人どころか竜そのものもいるというのだ。ヴァールハイト皇子を相手に反応しているようでは、あちらに着いてからどうなるか想像に容易い。


「本当に感謝していマス。このままラーチェスを放っておくことは、僕にはできませんでしたカラ」


 深々と礼をした皇子の姿を見ながら、私はずっと疑問に思っていたことを口にした。

 単に、友を想う気持ちが強いだけなのかもしれないが。同じ王族として、彼の行動には納得のいかない部分があった。


「ヴァールハイト皇子、私たちに何か隠し事をしていませんか?」

「さて、何のことでショウ?」

「あなたは自分の心配のし過ぎかもしれないと言ったが、本当は確証があったのではないですか? 友を助けたいと思う気持ちは分かります。しかし、あなたは皇子だ。他の国民を危険に晒してまで取ったこの行動には疑問が残ります」


 父である皇帝も、友であるラーチェス自身も、他国の力を頼ることは望んでいなかった。

 しかも、ラーチェスの周囲の人々がそれほど緊迫した雰囲気でないことも話の節々から感じ取れた。それなのに、わざわざ禁を犯してまで、現段階で動く必要性が感じられない。


「あなたは、未来に起こることを知っていたのではないですか?」


 考えなしに行動するような人物にも見えない。だとすると、ひとつの可能性が浮かんだ。


「おやおや、何を言い出すかと思えば……未来予知なんて、いくら竜人といえど、そんな神のような力はありまセンヨ」


 私には、その言葉の真偽を確かめる術はない。

 未来予知ができるかどうか確かめたかったわけではなく、崩壊した世界の記憶を持っているかが知りたかったのだが。

 下手に未来のことを知っていると分かれば、竜にまつわる者には未来予知の力があると勘違いされかねない。その噂が広がれば、悪用しようと企む輩が出てくるかもしれない。それを警戒しているのだろうか。あるいは、本当に何も知らないというのもあり得るか。


 まだ半年ほどは留学期間も続くので、呪いの件が落ち着いたら改めて話してみるのもいいのかもしれない。現段階で世界崩壊時の記憶があると分かっている人たちを集めて。

 こちらには分からなくとも、あちらには真実を見抜く瞳がある。彼に記憶がなかったとしても、私たちの言葉が嘘か真か、見極めてくれることだろう。他国にも魔王到来を信じてくれる人がいるのは心強い。彼らにとっても、決して無関係なことではないのだから。

 

 それ以上、この場で追求するのはやめた。


「……ところで、食堂で騒ぎがあったと聞きましたが」


 旅行についての話がまとまり、あとは解散というところで、ちょっとした噂になっていたことを思い出した。

 なんでも、ヴァールハイト皇子がルナシアに婚約の申し込みをしたとか。

 国同士の問題に発展することを望んでいないヴァールハイト皇子が、そんなことを考えていないことは分かっている。

 グレースからも真相は聞いているし、噂に尾ひれがついただけだ。面倒なことにならないように妹やエルが誤解を解いて回っているようだし、次第に忘れ去られていくだろう。


 だが、それと勘違いされる出来事があったのは事実ということだ。

 多少なりとも、彼にその気はなかったのだろうか? その場にいなかった私は、聞いた話から想像することしかできない。


「ああ! お騒がせして申し訳ありませんデシタ。あれは挨拶デス。安心してくだサイ。あなたの想い人を横取りするようなことはしまセンヨ」


 それはすぐに否定された。

 ーーが、どうしてそこで私が出てくるのか。


「そういう話では……」

「隠さなくて結構デス。僕には分かってしまいますカラ」


 うんうん、と頷きながら全部わかっていると言わんばかりの満面の笑みだ。彼に嘘をついたり、誤魔化したりしたところでバレてしまう。こういうところは難儀なものだ。

 婚約者候補筆頭であるアミリアに後押しされてさえ、私は未だ動けずにいる。

 ルナシアに好意を寄せているのは確かだが、あくまでも一方的なものである。彼女が誰を選ぼうが、私が口出しできることではない。


「好意を寄せていることは認めます。だが、彼女が誰を選ぶかは自由だ」

「人の心は複雑デスネ。だからこそ面白くもあるのデスガ」


 年下であるはずなのだが、随分と余裕があるものだ。


「難しく考えることも大切デスガ、それでは何も手に入れられまセンヨ。慎重と臆病は違うものデスから」


 慎重に事を運ぶことと、臆病になって何もできずにいること。

 それは皇子自身をさしているようでもあり、私に向けられたものでもあり。


「肝に銘じておきます」


 こちらを見透かすように微笑む皇子を前に、私はその言葉を反芻した。

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