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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第2章 学園編(一年生)
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16 サフィーア帝国からの留学生5

 思いつく限り名前をあげてみるが、ディーン様のように宮廷魔導士として忙しく働いていたり、重要な役職に就いている人たちばかりだ。彼らが国を離れれば困る人たちが大勢いる。


「先ほどの話を聞く限りだと、銀竜や竜人の話はあまり広げない方がよさそうですし。特に役職もない、もうすぐ長期休暇に入る私なら、自由はききます。私に行かせてください。力になれる保証はありませんが、それでも構いませんか?」

「ええ! ええ! ありがとうございマス!!」


 ここまで話を聞いて、断るわけにもいかないしな。

 それに、ディーン様や他の人に頼むとなると、また一から説明しないといけない。ただでさえ独断で動いているのだ。騒ぎを大きくするのは皇子も望まないだろう。


「ルナシアに危険はないのか?」

「そうです! もしルナシアさんに何かあれば……」

「皇子の友達は助けたいけど、それでルナが危険な目にあうのは嫌だな」


 皆が心配するように、解呪に失敗すれば相応の反動はあるだろう。実際に呪いの程度を見てみないことには何とも言えないが。


「危険を冒させるほどのお願いはシマセン。無理だと感じたら止めてもらって構いまセン。我が友を助けるために、ルナシアさんが傷ついたのでは意味がありませんカラ」

「ヴァールハイト様もこう言ってくれていますし、行かせてください」

「僕の力でできることは限られるかもしれませんが、ルナシアさん、そしてエルメラド王国へのお礼はさせていただきマス」

「それなんですけど……旅行ってことなら、国同士の問題は発生しないんじゃないですか? ほら、旅行先で偶然具合の悪い人がいたから看病した。今回は竜ですけど。おかしなことじゃないでしょう? 仮に呪いが重いものでなければ、何事もなかったことにできますし」


 もしかしたら、エルメラド王国の利益に繋がることなのかもしれない。そこは申し訳ないけど。

 今の私は宮廷魔導士でもない、ただの学生だ。私の行動が、面倒な国同士の問題に発展するのは望むところではない。偶然を装えば、ヴァールハイト皇子がお咎めを受けることもないだろう。

 この出来事は時間が巻き戻る前の世界では起こらなかったことだ。私のこの行動がエルメラド王国の利益にならずとも、いや、むしろならずに終わった方がいいのかもしれない。


 しばらく言葉を発さなかったグランディール様が、一つ重いため息をつく。


「念のため、護衛役は同行させます。だが、表向きは旅行客。サフィーア帝国の入国審査は厳重だと聞きますが、問題ありませんか?」


 サフィーア帝国でも旅行客は受け入れているが、審査がかなり厳重だ。到着してからも、現地の人たちがガイドと称して常に傍にいると聞く。

 それも、銀竜を隠すためと考えれば当然のことだろう。


「そこは、僕が何とかシマス。ですが、いいのデスカ? そんな理由でエルメラド王国のホロウを連れ出シテモ?」

「彼女は国の所有物ではありません。旅行するというのを止める理由がない。本人の自由です」


 国に縛られているという意識はなかったが、改めてそう言われると、ホロウとしてではなく一国民として自分のことを見てくれているのだと分かって嬉しくなる。

 ホロウだからといって特別何かを望まれるわけではなく、ルナシアという一人の人間として見てくれる。


「グランディール様、許可するのですか!?」


 身を乗り出し、エルが驚愕の声をあげる。

 一度目を閉じてから、グランディール様は私の方を見た。


「私だって不安がないと言えば嘘になる。だが、それでも君は行くんだろう?」


 本当に、グランディール様は私のことをよく理解してくれている。それほど関わりがあったわけではないと思うんだけど、それも王様としての資質なんだろうか。


「心配かけてごめんね、エル。でも、グランディール様の言う通りだよ。ここで無視したら、後々まで引き摺りそうだから。後悔がないようにさせて欲しいんだ」


 かつて世界を守れなかった時のように。やり残したことは、ずっと頭から離れずにいる。そういう性質だというのは、自分でよく分かっているから。

 エルは納得いかない顔で黙っていた。それでも、それ以上口を挟んではこない。不安は消えないけど、私の気持ちを無視することもできない……そんなグラグラした感情を抱いているのだろう。彼女とは、あとできちんと話して納得してもらおう。


 エルが落ち着いたところで、再びグランディール様が口を開く。


「幸い、ここにいる者にしか、先ほどまでの話は聞こえていません。グレース、お前もこの件は他言無用だ。父上にも黙っていろ」

「う、うん! 分かった、皇子の友達の一大事だもんね!」


 どうやらグランディール様は全面的に協力してくれるつもりらしい。グレース様も乗り気で、力強く頷いてくれる。

 

「ヴァールハイト殿、何事もないうちは知らぬ存ぜぬを貫きますが、自国の民にもしものことがあれば、さすがに我が国も無関係とはいきません」

「ええ、必ず無事にお帰しシマス」


 その日交わされた約束は、その場にいた五人、そして護衛役の一名のみが知るところとなった。


 夏季休業までに、私は解呪についての知識を蓄えたり、夏には帰ってくるよう言っていたファブラス家の人たちに、核心は伏せて帰宅が遅れる旨を書いた手紙を送ったりした。

 そして、遂に皇子と共にサフィーア帝国へ向かう日がやってきた。

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