3 ホロウの名を冠する少女(ヴァン視点)
せっかく蘇ったというのに、私はもう終わろうとしていた。
後世に魔獣の問題を残したままこの世を去ってしまった私は、気づけば死の一年前に戻っていた。
なぜ、こんな老体に戻ってしまったのか。役目を果たせなかった私へ、神が与えた罰なのだろうか。
死んで蘇って、また死んで。永遠と悔い続けることが、私への罰なのだろうか。
もう少し若い時代に戻れたのなら、何か解決の糸口が掴めたかもしれない。
ーーいや、そんな力が私にあっただろうか。なかったから、私はこの時代に戻されたのではないだろうか。
よりにもよって、かつて私が「ホロウ」を授けた少女に、再びその名を言い渡さねばならなくなるとは。
私はまた、この子に背負わせねばならないのか。死の間際まで、ずっと申し訳なく思っていた。いくらなんでも、あの子に背負わせるには若すぎた。聞けば、まだ五歳だというではないか。
自分で判断ができるかも怪しい年齢の子に、無理矢理押し付けてしまうようなものだ。
この子が大人になって気づいた時には、この運命から逃げられなくなっているだろう。その時に、どれほど私のことを恨むだろうか。
だが、再び私の前に現れた少女の言葉を聞いて驚かされた。
「大丈夫ですよ、ヴァン様。あなたが謝る必要はありません。あなたは、背負わせたのではなく、繋いだのです。あとはお任せください」
ああ、この子も私と同じなのか。記憶を持ったまま過去に戻り、何かを成そうとしている。
私が死んだあと、この世界がどうなるかも知っているのだろうか。魔獣の問題は解決したのか?
聞いてみたい気もするが、この子も戻ってきたということは、何か悔いがあったのだろう。変えたいと強く願ったのだろう。
神がチャンスを与えたのは、私ではなくルナシア。
確かに、この子になら、運命を変える力があるのかもしれない。
ルナシアが何を願ったのか、それは分からない。私の懺悔など比較にならないものを抱えているのかもしれない。
同じく記憶を持って戻ったというのに、私は力になることができない。
では、ルナシアがいるのに私まで戻ってきた意味とは?
最初は罰だと思ったが、これは私への救いだったのではなかろうか。
ずっと悔いていた。自分の無力さが、子どもたちの将来を危ぶめてしまったことを。
それを、一番の被害者であろうあの子が許してくれた。
私のしてきたことが、あの子に繋がった。決して、今までしてきたことは無駄ではなかった。
二度目の死は目前だが、以前よりも心は穏やかだった。




