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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第2章 学園編(一年生)
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15 第一回逆行者会議

 グレース王女の魔術暴走騒動から数日後。

 エルメラド王立学園の生徒会室に、グランディール、リトランデ、エル、グレースの四名が集められていた。

 招集をかけたのは生徒会長であるグランディールで、副会長のリトランデを除く役員たちには出払ってもらっている。


 この四人が集まったのは他でもない。皆、魔王に世界を滅ぼされたことを覚えている者たちだからである。

 魔術暴走の際、記憶が蘇ったグレースは兄のグランディールにこれから起こるであろう出来事を話した。そこで、妹にも記憶があると発覚したのである。


 世界崩壊の記憶を持っている人間は自分だけではない。それどころか、かつての友人たちがこうして集まることになろうとは。

 幼い頃からお互いに記憶があると把握していたグランディール、リトランデ、エルは「魔王から世界を救う」それから、「ルナシア絶対死守」を掲げていた。その話を聞いたグレースも、その輪に加わった形である。


「お兄ちゃんから皆も記憶があるって聞いたときは驚いたよ。私はついこの間思い出したばっかりなんだけどね」


 魔術暴走の際にグレースが記憶を取り戻したことは、ここにいる三人も知っている。

 ルナシアに危険が迫ったことで取り乱していたエルにも謝罪、事情を説明し、和解した。

 かつてはルナシア同様、エルとも友人関係であったグレースは、心底ほっとしていた。エルに嫌われてしまうこともそうだが、特にルナシア関連では過剰なほどの執着を見せる彼女を敵に回したらどうなるかーー考えるのも恐ろしい。


「ここには呼んでいないが、アミリアも記憶持ちだ。君たち、やっぱり気が合わないんだな」

「別に、彼女が睨んでくるから、こちらも相応の態度をとっているだけですが」


 プリンシア公爵家でのパーティーを境に、アミリアの言動は軟化した。

 幼馴染であるリトランデが確認をとったところ、やはり記憶持ちであることが明らかになった。

 騎士団の訓練仲間であるエルにもリトランデからその旨が伝えられている。だが、彼女たちはすこぶる仲が悪い。かつてルナシアに散々嫌がらせをしてきたことを知っているからか、エルは未だにアミリアに対して警戒を解こうとしない。

 この場に呼ばなかったのは、ルナシアを一人にしないためというのもあるが、一番はエルがいると聞いて断られてしまったからだった。

 互いに顔を合わせれば睨み合いが始まってしまう。二人の関係改善には時間がかかりそうだ。


「エルとアミリアの関係がどうであれ、今のアミリアがルナシアに嫌がらせをすることはないだろう。むしろ、一緒にいることで、他の学生から彼女を守る強力な盾になる」


 苦笑しながら、リトランデは続けた。

 ファブラス辺境伯の娘となった今、かつてのような嫌がらせは減るだろうが、優秀な彼女に対する妬みがないとは限らない。だが、アミリアと親しくしているとなれば、簡単には近づけないだろう。


「だとしても、完全に信用したわけではありません。グランディール様を巡ってあれほど暴走されていた人ですよ?」


 ルナシアにグランディールがとられるのではないか、そんな思いで色々やらかしていた。

 エルの心配に、グランディールが口を開く。


「アミリアには、私も記憶持ちだと伝えてある。今の彼女は、それを知ったうえでルナシアの傍にいる。それでも、かつてのような素振りはないだろう? かつて彼女がしたことは私も完全に許せたわけではないが、今の彼女のことは信頼できると思っているよ」


 後から知るよりは、とグランディールは自分も記憶があることを伝えていた。

 アミリアは驚いた顔をしたものの、「そうですか」と落ち着いた様子で受け入れていた。

 知ったうえで、彼女は未だ婚約者候補筆頭になっている。本人の強い希望あってのことだった。

 自分が諦めきれないこともそうであるが、それ以上に、ルナシアが同じ舞台に立つまで、他のご令嬢に先を越されないように牽制する意味合いが強かった。

 グランディールの気持ちが自分に向くことはないと分かったうえで、愛する人のためにその役を買って出た。かつてのアミリアならあり得なかったことだ。そこまでして、自分とルナシアの仲を取り持ってくれようとするアミリアの姿に、だんだんと信頼を寄せるようになっていった。


「何かあってからでは遅いんです。皆、考えが甘すぎると思います」

「その分、君が警戒してくれているだろう? 私たちだけでは甘くなりがちな部分をフォローしてくれる。だから、この場に呼んだんだよ」


 上手く宥めながら、グランディールは話を続ける。


「記憶が戻るきっかけというのは、ルナシアに関わる出来事が起こった時。これは皆、共通だね?」


 助けられた時、顔を見た時ーー状況は違えど、皆ルナシアに関係するイベントで記憶を取り戻していた。

 だが、ルナシアの関係者なら皆記憶持ちかというとそうではないらしく、アルランデなど近しい人に聞いてみても「何かの物語ですか?」と、首を傾げられてしまった。


「では、なぜ我々は思い出したのか。考えてみて、ルナシアの関係者であることの他に、何かしら強い後悔があった者たちなのではないかと思い至った。もちろん、他の要因もあるのかもしれないが」

「強い後悔……確かに、言われてみればそうかもしれないな」


 リトランデもグランディールの言葉に同意を示した。

 大切なものを守れなかった、やり残したことがあるーー何かしらの強い後悔を抱えたまま世界とともに消えた者たち。そんな人々に再びチャンスが与えられたのかもしれない。


「ねぇ、気になってたんだけど、ルナは何も覚えてないの?」


 黙って聞いていたグレースが、ふと質問を投げかける。

 しん、としばらくの沈黙が流れた。


「それは確認したことがありませんでした。ルナシアさんを守る、ということで頭がいっぱいで……」


 ぺたり、とエルの耳が垂れ下がる。


「ここまでルナに関係する人たちに記憶があるのに、ルナ本人は何も覚えてないなんてことあるのかな?」

「思い返してみると、最初からおかしな点はあったな。ルナシアがファブラス伯爵家の養子になったこと、それが最初の相違点だ。俺と出会うのも、本当なら学園に入ってからのはずだった」


 ガザーク家のお茶会で記憶を取り戻したリトランデが、グレースの問いに応じる。

 大まかな出来事に変化はないものの、ルナシアの立ち位置、出会うタイミングは以前と異なっていた。


「時間が巻き戻ったこの世界では、基本的に崩壊前と同じ出来事が起こっている。ルナシアが再びホロウに選ばれた事実も、覆ることはなかった。こちらから動かなければ、運命は変わらない」


 苦々しく、グランディールは吐き出すように言った。


「魔術研究の名家ファブラスの養子になることを自ら望んだ。それが答えな気がするな。彼女にも俺たち同様、強い後悔があった者という条件が、きっと当てはまる」


 ホロウの力をもってしても、世界を救えなかったこと。

 言い切らなかったものの、リトランデが言わんとすることは察したようだった。

 自分の力不足のせいで、世界は崩壊してしまった。彼女なら考えそうなことだ。

 だから、今回はもっと力を身につけないといけない。魔王を倒せるだけの力を。


「ルナシアさんならあり得るかと思っていましたが、流石に闘技大会の時の強さは子どもでは考えられないものだったかと。記憶があったなら、納得がいきます」

「我が家で伝説になっている、的の爆裂四散の件も説明がつくな」


 エルとリトランデは顔を見合わせて頷いた。


「これから何が起こるか知っていて、彼女は以前と同じ道を進み、また魔王と対峙する気でいるのか。誰にも相談することなく、一人で戦おうとしていたのか?」


 声を震わせながら、グランディールがそう零す。

 目の前でルナシアを失った恐怖が蘇る。同じ光景を、もう二度と見たくはない。もう二度と、自ら魔王に関わって欲しくはなかった。

 今度こそ彼女を守る。余計な問題からはなるべく遠ざけたい。そう思っていたのに、初めから彼女が自らの意志で同じ道を選んできたのだとしたら。

 すでに彼女が魔王の問題に首を突っ込んでいるのだとしたら、関わらせないようにする努力など意味がない。


「グラン、実際に一人で挑んでいく前に気づけてよかったと思うべきだ。ルナシアは、しっかりしてそうで、鈍感なところがあるから。仮に彼女が記憶持ちだったとしても、俺たちが記憶持ちだとは気づいてない。相談しなかったんじゃなくて、できなかったんだ。事情を知らない人に話しても、変な奴だと思われて終わりだろ?」


 自分の弟もそうだったしな、と遠い目をする。


「ルナシアを巻き込みたくない。その思いは皆同じだ。でも、彼女が自分の意志で選んできたことなら、簡単に止められることじゃない」

「リトランデさんの言う通りだよ。ルナ、頑固なところあるから。前の私たちはルナに頼るしかなかったけど、これから起こることを知ってる今なら、できることも沢山あるんじゃないかな」

「ルナシアさんが覚えていても、そうでなくても、私がすることは変わりません。魔王を倒せるだけの力を身につけるために騎士団への出入りを認めてもらったんです。リトランデ様もそうですよね?」

「ああ。お前も一人で抱える必要はないんだ。皆でルナシアを守る。彼女一人に背負わせたりしない。そのために俺たちを使えばいい。しゃっきりしろ、王子。お前にはお前にしかできないことがあるだろ」


 三人の言葉に、グランディールは顔を上げる。


「……すまない、弱気になったな。そうだ、ルナシアがまた同じ道を進もうというのなら、私たちは全力で彼女を守る。もう彼女だけに背負わせたりしない。協力してくれるな?」


 グランディールの言葉に、三人は大きく頷くのだった。

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