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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第2章 学園編(一年生)
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14 魔術暴走(グレース視点)

 やってしまった。兄にも、散々気をつけるよう注意されていたのに。魔法が暴走し、危うく皆に怪我を負わせるところだった。

 失敗ばかりするのは昔から変わらない。魔王に滅ぼされた世界で生きていた頃から。


 どうして忘れていたんだろう。また彼女に助けられるまで、以前の出来事はすっかり頭から抜けていた。

 今となってみれば、以前の自分と同じ出来事を繰り返してきたのだと気づく。魔術暴走したのも、以前とまったく同じだった。ルナに助けられるところまで、そっくりそのまま。

 信じられないことではあるが、どういうわけか時間が巻き戻っていた。

 この奇跡のような出来事に、私は感謝するしかない。何もできずに世界の崩壊を、友達の死を眺めていることしかできなかった自分に与えられたチャンスだと思った。


 歴代の王族の中でもトップクラスの魔力をもって生まれ、大人たちから褒められて育った。

 得意になって兄弟たちにも魔法をよく披露していた。一つ年下の弟は、凄い凄いと喜んでくれたが、三つ年上の兄には簡単な気持ちで魔法を使うなと耳が痛くなるほど注意された。

 弟とは仲がよかったけど、兄のことは少し苦手だった。皆、褒めてくれるのに、ひとりだけ認めてくれなかったから。兄は防御や治癒の魔法を得意としており、私とは正反対。だから理解してもらえないんだろうなと勝手にふてくされていた。


 でも、魔術暴走の騒ぎを起こした時、真っ先に駆けつけてくれたのは兄だった。

 その時はじめて、何度も注意してくれていたのは、私の王族としての意識の甘さと、身を案じてのことだと気づいた。

 そして、私の力を認めていたからこそ、重大な事故を起こす可能性があると危惧していたのだろう。


 ルナシア・ホロウ・シャルティルーー今はファブラスだっけ。

 彼女との出会いも、人生を大きく変えるものだった。

 私なんかの比ではない魔力を持ちながら、暴走させることもなく魔法を操り、それを人々を助けるために使う。自分より、よほど王族がすべき振る舞いをしていた。

 彼女のような人になりたい。大切な友達であると同時に、憧れの人でもあった。

 私もこの力を、誰かに褒められるためではなく、誰かを助けるために使いたい。それからは、今まで面倒だと避けていた勉強にも真面目に取り組むようになったし、苦手だった兄から王族としての振る舞いを教えてもらうようになった。


 きちんと話してみれば、見た目だけだと怖く見えるけど、とても親身になってくれる優しい人なんだと認識を改めた。

 それに、なんと幼い頃に兄もルナに助けられたことがあると教えてくれたのだ。木から降りれなくなるなんて兄に限ってないと思っていたけど、昔は私みたいにドジなところもあったんだね。

 こうして笑って話せるのも、ルナが事態を収束させてくれて、被害が小さくて済んだからだ。そうじゃなかったら、こうして和やかに親睦を深めている場合ではなくなっていただろう。


 妹の目で見て違いは明らかだった。

 ルナの話をする時は、兄の顔つきが優しくなる。ああ、彼女のことが好きなんだなと気づくのに時間はかからなかった。

 でも、兄の婚約者候補にはずらりと名だたるご令嬢が連なっており、その筆頭であるアミリア嬢との正式な婚約が間近となっていた。兄が卒業するまで婚約が延期されていたのも、おそらくルナのことが諦められなかったからだと思っている。

 歯がゆい気持ちで眺めていたが、結局のところ、兄が結婚する前に世界は滅ぼされてしまい、ルナに自分の想いを伝えることもなかった。


 兄も、ルナも、やり方は違ったけど国を、世界を守ろうとした。どんなに理不尽な目にあっても、最後まで諦めなかった。

 私は、大事な人たちが戦っている姿を見ながら、ただただ怯えることしかできなかった。あの日を境に変わろうと思ったのに、いざ魔王や魔獣を前にすると足がすくみ、戦力にならなかった。

 ルナのような強い人になりたいと憧れていたのに、憧れていただけで終わってしまった。なりたい自分は単なる理想像で、現実とは程遠い。

 自分がもう少し力になれていたら、ルナたちを助けることができていたなら、運命はまた違っていたのかもしれない。後悔が残る人生だった。

 

 一度は終わったはずの世界。

 だが、神様の気まぐれなのか、やり直す機会が与えられた。


 これから起こることを知っている私なら、皆の役に立てるかもしれない。ううん、自分から率先して動かないと。

 もちろん、自分の力だけじゃどうにもならないから、手始めに兄に相談してみよう。すぐに信じてくれるかは分からないけど、蔑ろにされることはないだろう。


 これは、ルナにも深く関わることだ。

 最前線で魔王と対峙することになったのも彼女だし、彼女自身が魔王なのではないかとあらぬ疑いをかけられたこともあった。

 どんな重圧や理不尽な言動の前にも彼女が挫けることはなかったが、平気ではなかっただろう。傍で見ていた兄が心を痛めていたのも知っている。

 ルナに関わる話を、兄が無視するはずがない。彼女を守るためなら、力を貸してくれるはずだ。


 かつて、変わろうと誓ったあの日。時間が巻き戻り、再び訪れたあの日に。

 今度こそ、ただの憧れで終わってしまわないように。大切なものを守れる強さをもった人になる。

 改めて、その決意を胸に刻んだ。

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