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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第1章 幼少期編
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12 社交界デビュー2

 いよいよプリンシア公爵家でパーティーが開催される日。

 長きに渡る衣装合わせを乗り越え、赤色のドレスに身を包んでいた。少し暗い赤なので、目立つ色だけど落ち着きがある。

 初めてガザーク家でお茶会に参加した時はフリルが可愛いデザインだったけど、今回はシュッとしたデザイン。ウエストがキュッと締められていて苦しいけど、我慢我慢。

 雰囲気が変わって、ちょっと成長した気分だね。中身は十分大人なんだけどさ。

 髪も、魔法で適当に整えようと思っていたら怒られたので、リーファにきっちりセットしてもらっている。手を入れると変わるもんだね。癖毛は活かしてあるけど、ふんわり綺麗にまとまっている。


 色々と手は加えてもらったけど、全体的に華美な装飾はしておらず、至ってシンプルな出で立ちだ。プリンシア公爵家のパーティーとなれば、色々と複雑な人間関係もあるだろう。アミリア様の性格も分かっているから、あまり目立つ格好をするのは得策ではない。

 グランディール様から頂いたペンダントも、今回は屋敷で留守番だ。


 両親にもドレス姿を見せたら喜んでくれた。一緒には行けないけど、頑張ってきます。そういえば、お養父様の姿を今日は見かけていないな。そう思いながら玄関先に向かうと、そこには黒の礼服に身を包んだお養父様が立っていた。いつもと似た服装ではあるけど、これはーー。


「お養父様も一緒に来てくださるのですか?」

「エスコート役が必要でしょう。今回はイディオに任せるわけにもいきませんし、娘の晴れ舞台ですから」

「お仕事は大丈夫なんですか?」

「はい、緊急のものはありません。むしろ、今まで一緒に行けなかったことが申し訳ないですね」


 ガザーク家でのお茶会や、闘技大会への付き添いなど、お養父様は忙しくて一緒に来れなかった。ファブラス家の仕事をほとんど一人で回しているので、仕方ないことだ。

 私も手伝えればいいんだけど、できることは少ない。前にできる仕事がないか聞いてみた時には、「当主になる覚悟ができたらお願いします」と言われてしまった。はっきりとした返事ができなかった私は、未だ自由に生活させてもらっている。

 いずれは、覚悟を決めないといけないとは思うんだけどね。でも、当主になるならない以前に、いずれ来たる魔王への対策を練らなくてはならない。それを何とかしないことには、未来の話はできないからね。


「いえ、気にしないでください。今日はありがとうございます、とても嬉しいです」


 忙しい中、今日のために時間を作ってくれたことが嬉しい。

 いつも外出する時はイディオが一緒だったので、この組み合わせは珍しいかもしれないな。ちなみに、イディオは留守を任されているらしい。お養父様、イディオのこと信頼してるからね。


「では、行きましょうか」


 お養父様に連れられ、私は馬車に乗り込んだ。

 私とお養父様の他に、何人かお屋敷の人たちも付いてきている。私の身支度を手伝ってくれるメイドのリーファや、護衛の魔導士たちなど。でも、人数は少ない。

 プリンシア公爵家の屋敷がある王都までは、ガザーク家に行く時よりは近いにしてもそこそこ時間がかかる。本来なら、当日の朝出発したのでは間に合わない。

 心配ないと屋敷の人たちには言われていたが、どうする気なんだろうと今日まで思っていた。だが、お養父様が一緒に来ると分かって納得がいった。


「では、王都の近くまで()()します。なるべく衝撃が少ないよう心がけますが、しっかり掴まっていてください」


 そう注意を促し、お養父様も馬車に乗り込む。

 特に何か動作や詠唱があったわけではない。ただ、一瞬魔力反応があったかと思うと、いつの間にか外の景色が変わっていた。


「さて、王都近くには着いたはずです。驚かせないように、なるべく人気のない場所は選んだはずですが」


 外に出たお養父様は、辺りを確認する。


「ここから真っ直ぐ北に進めば、夕方には着くはずです。屋敷に直行してもいいのですが、転移魔法を見慣れない人たちに見られるのも面倒ですからね」


 馬車の中にお養父様が戻ってくると、馬車がゆっくり動き出した。


「凄いです。こんな一瞬で転移魔法を使えるなんて……」

「そんなに大したことではありませんよ。運ぶのは少人数でしたし、あまり距離も離れていませんから。それに、転移魔法はなかなか疲れますからね」


 そうは言うけど、全然顔に出てないんですよね。

 私も転移魔法が使えないわけじゃないけど、こんなにスムーズにはいかない。こう平然ともしていられないし。属性との相性の問題もあるんだろうけど、お養父様の魔導士としての腕は一級品だ。イディオたちが口を揃えて凄いと言っていたのがよく分かる。


「それと、個人的なお願いになるのですが……アレグリオ殿には秘密にしておいてくださいね。転移魔法が使えると分かれば、いつでも来れるだろうと、お茶会の招待状がまた山ほど届くことになりかねませんから」


 私がガザーク家のお茶会に初めて参加してから一年間くらいは、頻繁にお茶会への招待状が届いていた。本当に山になっていたのを私も目撃している。

 私宛のものもあったが、お養父様宛の手紙の方が多かったかもしれない。私がまだ戦うには不十分な年齢だったってこともあるけど、イディオがべた褒めしていたお養父様と手合わせしたくなっちゃったらしい。


 私は何度か顔を出しているけど、お養父様は全部断っていたと思う。しばらくして、お養父様へのお誘いは減っていった。

 仕事が忙しいのは事実だけど、それだけじゃないのかな、もしかして。


「アレグリオ様のこと苦手なんですか?」

「いえ、そんなことはないですよ。しつこく手合わせに誘われさえしなければ、行ってもいいのですがね。必要に迫られれば戦いますが、好きではないので。情けないと思われるかもしれませんが、あまり気は乗らないんですよ」


 忙しいならファブラス家の屋敷に呼べばいい、ともならなかったのはそういう訳があったのか。

 確かに、お養父様が戦っているところなんて想像できないね。ガザーク家と同じく、国の防衛を任されている家の当主ではあるんだけどさ。研究してるイメージの方が強い。


「でも、いつまでも逃げているわけにもいきませんよね。当主として示しがつかない」


 初めてガザーク家でのお茶会に参加した時、私が模擬戦をさせられそうになったこと、イディオが代わりに戦ったことなど、その日の出来事はお養父様も知っている。気になってはいたんだろうね。


「苦手なことがあるくらいの方が、人間らしくていいと思いますよ?」

「そうですか、人間らしい……なるほど」

「私ももう十二歳ですし、お養父様が苦手なことは私が補います。大した仕事もできないので、ガザーク家からお誘いがあったら私が行って来ますよ。ガザーク家の人と手合わせできるならお願いしたいですし」

「あなたは強いですね。すみません……頼ってしまって」

「いいえ、こんなことでいいのなら。本当はもっとお養父様の負担を減らしたいと思っているんですが」


 魔王と戦うには経験を積まないといけない。私にしてみれば好都合だ。

 そう言った私に、お養父様は首を横に振った。


「十分です、私はあなたに頼らせてもらっている。ありがとう、そして申し訳ありません」


 うーん、大したこともしてないのにな。こっちの方が頼ってばかりで申し訳ないよ。相変わらず腰が低いね。


 その後も、お養父様と他愛ない話をしているうちに、プリンシア公爵家へと到着した。

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