11 確執(リトランデ視点)
騎士団の訓練場に通うようになって早半年。
最初はそんなこともあるかなと思って見ていたが、流石に違和感を覚え始めた。
(流石に強すぎるんだよな)
向かってくる騎士団の団員たちをもろともせず、圧倒的な力でねじ伏せた若干七歳の少女。いくら彼女が獣人であったとしても、それは異例な事態だった。
普通に考えてありえない。それなら、彼女も自分と同じく世界崩壊の記憶を持っていると考えるのが妥当ではないだろうか。
今の自分も人のことを言えた立場ではないが、それは記憶持ちだからだ。
世界崩壊の記憶があるのは自分だけだと思っていたが、違うのかもしれない。他にも覚えている人がいるのか?
エルは俺と同じく、騎士団の訓練場へ立ち入ることを望んだ。なぜそんなことをしたのか。その時は分からなかったが、彼女にも記憶があるなら納得がいく。
おそらく、彼女も俺と同じようなことを考えている。魔王に対抗する力をつけ、ルナシアにあの時と同じ運命を辿らせないようにすること。
ルナシアへの執着というか、崇拝というか。エルのルナシアに対する想いはとてつもない。
俺の勘違いならそれで構わないが、エルも俺と同じなら協力した方がいい。彼女の強さは同僚でもあったからよく知っている。ルナシアのこととなると周りが見えなくなりがちなのは玉にきずだが、今回はそれが活きるだろう。
一人でどうにか運命を変えなくてはならないと思っていたが、仲間がいるなら心強い。
「エル、ちょっといいかな?」
「何でしょうか?」
休憩中のエルが首を傾げる。
「この世界が魔王に滅ぼされたのって、覚えてる?」
俺の予想が外れていれば、何を言っているんだこの人は、と思われて終わりだろう。
だが、エルは明らかに知っている反応をした。
「なぜ、それを……まさか、あなたにも記憶があるのですか?」
「やっぱり当たりか」
覚えていることを互いに確認し合い、やはりエルも世界が崩壊し、ルナシアを救えなかった記憶を持っていることが分かった。
「ルナシアさんを今度こそ救うために、私は騎士団の訓練に参加しているのです。強くなって、もう二度と同じことを繰り返さないように」
「俺と同じか」
「リトランデ様も、ルナシアさんを?」
「ああ、大切な友人だからね。覚えてるのは俺だけだと思ってたから、エルも同じで心強いよ」
俺とエルは、ルナシアを救うという目的のもと結託した。
「ルナシアと特に親しくしている君から見て、何か気になっていることはないかな?」
「最近、ルナシアさんを観察しているとギャロッドと一緒にいるところをよく見かけるんですよね」
観察、というところは聞かなかったことにしよう。
それよりも、ルナシアがギャロッドと一緒にいることの方が問題だ。誰にでも丁寧なエルでさえ、彼のことは呼び捨てにする。ルナシアにとって因縁の相手だからだ。
「ルナシアさんを魔王呼ばわりし、間違った噂を広めたことには悪意しか感じません」
「でも、まだ今の彼が同じことをすると決まったわけではないからね」
「甘いですよ! すでに彼がルナシアさんに対してとても失礼な態度をとっているのを、私は知っているんですからね!!」
「ごめん、俺が悪かった」
凄い剣幕で怒られ、慌ててなだめる。何も起こっていないうちからギャロッドを悪者だと決めつけるのはよくないが、俺たちからすれば前科がある。
「でも、下手に動いたら俺たちが罰される可能性もある。ルナシアを想う君の気持ちはよく分かるけど、冷静になれ。救えるものも救えなくなる」
「そうですね……それは分かってます。でも、何かあってからでは遅いんです。リトランデ様も目を光らせておいてください。もう、ルナシアさんを同じ目には合わせたくないんです」
「分かった、俺も注意して見ておくよ」
エルの行動力は危うくも、時に頼りになる。
ギャロッドの件に気づけたのは彼女のお陰だ。大切な友人を守りたい、その気持ちは俺も同じ。彼女に負けてはいられないな。




