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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第1章 幼少期編
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10 ご褒美

 十歳未満の部は、優勝が私、準優勝がエル、三位がガザーク家の親族の人という結果になった。

 十歳以上の部ではリトランデ様、大人の部ではそのお兄さんがそれぞれ優勝したので、大きな番狂わせはなかったようだ。


「お嬢様、優勝おめでとうございます。なんか、十歳未満の部の決勝戦の方が、大人の部より盛り上がってましたねぇ。あれは子ども同士の戦いじゃないですよ」


 表彰式を終えてイディオのところに戻ると、どこか遠い目をしていた。


「お嬢様とあそこまで渡り合うなんて、あの子はいったい何者なんでしょうね」


 視線の先には、母親らしき人物と話しているエルの姿があった。耳を隠すためかお揃いのバンダナをしている。

 優勝こそしなかったものの、一般出身で準優勝した彼女の元には、興味を持った観客たちが押し寄せていた。


 こちらはというと、ガザーク家御一行様やディーン様が盾になっているので、観客たちは近づけないでいた。これはこれで別な圧がすごいけど。


「いやはや、優勝するとはな! 実にめでたい。よい戦いを見せてもらった。これなら、次期ファブラス家の当主として誰も文句は言えまい。アルランデ、お前もまだまだ修行が足りんな」

「はい、父上。これからは今まで以上に努力します!」


 アレグリオ様からも祝いの言葉を頂いた。アルランデ様も活き活きとしているようで何よりだ。

 でも、当主の件はまだ候補ですからね。


「ルナシアさん、おめでとうございます! 私、感動してしまいました」


 ハンカチで目元を押さえているものの、涙が隠しきれていない。ディーン様は、今日もまた安定して感情が昂ぶっていた。


「ディーン様もお仕事お疲れ様でした」

「ああっ! 私のことを労ってくれるのですね。ありがとうございます」


 ああ、逆効果だった。落ち着いてください、ディーン様……。


 そんなディーン様だったが、何かに気づいたようにはっとした顔になり、急に膝を折った。アレグリオ様たちもそれに倣う。

 振り向けば、その理由が分かった。


「ルナシアさん、優勝おめでとうございます」

「グランディール様! ありがとうございます」

「ああ、かしこまらないでください。どうか、そのままで」


 グランディール様は、礼をとろうとする私たちを制した。


 どうやら、参加者たちを労いつつ、欲しいものを聞いて回っているらしい。上位入賞の賞品だね。自分の足で回るあたり、グランディール様の人の良さが伺える。


「ルナシアさんは何が欲しいですか? 遠慮せずにどうぞ」


 グランディール様の問いに、私はこの大会に参加することが決まってから、ずっと考えていたことを口にした。


「お城の図書館への出入りを許可していただけないかと。可能なら、ヴァン様の研究資料を見せていただきたいのです」


 以前と同じく、ヴァン様は私にホロウを授けた翌年に亡くなった。今回は葬儀にも参列させていただいたが、安らかな眠りであったことを祈るばかりだ。


 大魔導士ヴァン様が残した研究資料ーー主に魔獣に関するそれは、とても貴重な財産だ。

 莫大な数があるそれを、以前の私は全て確認することができずにいた。今から目を通せば、魔王襲来までに有益な情報を得られるかもしれない。


「ヴァン様の研究資料ですか……それなら、私よりも宮廷魔導士の誰かから陛下に頼んでいただいた方がいいかもしれませんね。あの資料の管理を任されているのは彼らですから」

「そういうことなら、私からもお願いしてみましょう。ヴァン様の研究資料はとても貴重なので特に管理が厳重なんです。ですが、私が付き添うのなら陛下もお考えくださるでしょう」


 ディーン様の口添えがあるなら安心だね。ありがとうございます。


「それなら、私も心置きなくルナシアさんに会えますからね」


 うん……ソウデスネ。いや、悪い人ではないんだけど、ないんだけどさ。ああ、とてもいい笑顔ですね……。ほら、グランディール様も苦笑してる。


「ガザーク家の方々はどうされますか? 今回もかなりの人数入賞しているようですが」

「ガザーク家の者は、いつも通り辞退ーー」

「父上、お待ちください」


 言いかけたアレグリオ様の言葉を、リトランデ様が遮る。


「私には欲しいものがあります。聞いていただけないでしょうか?」

「ふぅむ、お前がそう言うのは珍しいな。何が欲しいんだ?」

「騎士団の訓練場への出入りを認めて頂きたいのです」

「お前が自分からそんなことを言い出すとはな。殿下、息子の珍しい頼みだ。儂からもお願いしたい」


 グランディール様は少し考える素振りを見せたあと提案する。


「なるほど、皆さん欲しいのは物ではないのですね。それなら直接陛下にお伺いした方がいい。上位に入賞した方々と、その関係者にはささやかながら祝いの席を設けさせて頂いています。陛下も同席されるご予定ですので、よければどうですか?」


 断る理由もないので、私とイディオは参加することにした。

 最終的に、上位入賞者は全員出席することになったようだ。リトランデ様とエルも一緒だね。

 宮廷魔導士時代の記憶があるから、お城自体は珍しくないんだけど、陛下が同席されるのはやっぱり緊張する。

 ヴァン様の研究資料、無事に見せてもらえるといいなぁ。

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