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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第1章 幼少期編
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9 闘技大会(エル視点)

 魔界の門が開き、そこから溢れ出す魔獣を倒してくれた少女は、まるで女神のようだった。


 私は、エル・クロウ。獣人としてこの世に生を受けた。

 両親と兄と一緒に各地を転々とし、身を隠しながら生活していたが、ある日私と母は賊にさらわれてしまう。

 何とか逃げ出し、あの村に身を隠していたものの、小さい村で噂は広がり、私たちが獣人であることがバレてしまった。

 追い出されるようなことはなかったものの、皆私たちのことを避けていた。


 ずっとこの村にいるわけにもいかない、と母と移住する計画を立てていたところに、あの魔獣騒動が起こった。

 私が魔獣に襲われそうになっていたところを母が庇い、命を落とした。恐怖で動けなくなっていた私も、母と同じ運命を辿るはずだった。


 だが、そこに救世主が現れる。突如として現れた少女はあっという間に魔獣を倒し、村を救ってくれた。

 私には、そんな彼女が女神のように見えた。その少女こそ、ルナシアさんである。


 その後、王都の孤児院に身を寄せた私は、偶然にもルナシアさんと話す機会を得た。

 やがて友人となり、彼女は親友と言ってくれた。だが、私には隠していることがある。自分が獣人であること。人間から避けられる存在であることを。


 ルナシアさんは、エルメラド王立学園に入学するという。日頃から努力を怠らず、才能も十分すぎるほどあった彼女の合格は目に見えて分かっていた。

 だが、あの学園は王族も通う、身分の高い人間たちが多い学校でもあった。それが彼女を苦しめはしないかと、不安はあった。


 考えた末に、私はルナシアさんと同じ学園を受験することを決めた。何の後ろ盾もないが、一般市民が受けられないわけではない。

 自分も同じ学園を受験すると決めた時、獣人であることもルナシアさんに打ち明けた。学園に入学するとなれば、様々な授業や寮での生活を送る中で、いつまでも隠し通せるとは思えなかったからだ。


 嫌われるかもしれない。そうなっても、陰ながら彼女の助けになれればいい。自分を魔獣から救い、友人にもなってくれた彼女に、何か恩返しをしたかった。

 だが、彼女は私が獣人であると知っても、ずっと親友だと言ってくれた。ああ、この人はどれだけ私に幸せをくれるのだろう。


 可能性は低いかもしれない。でも、もし彼女と同じ学園に通うことができたのなら。私は剣となり、彼女を守ろう。かつて、彼女が自分を救ってくれたように。


 そして、何とか私は騎士科への入学を果たした。ルナシアさんと同じ科に入ることは、持っている魔力が少なかったため断念。

 それよりも、獣人としての身体能力を十分活かせる騎士科を選んだ。ルナシアさんを守るための力を身につけるために。彼女の隣に並んでも遜色ない強さを得るために。


 時間がある時は、なるべく彼女の傍にいた。

 やはりというか、身分を気にする貴族たちの嫌がらせもあった。私だけでは払いきれないものもあったけど、ルナシアさんは穏やかに、冷静に対応していた。

 でも、貴族であっても親切にしてくれる方はいた。ルナシアさんの魅力の前には身分も関係ない。


 何事もなくとは言えなかったけど、私たちは無事に学園を卒業した。

 ルナシアさんは宮廷魔導士に、私は騎士に。就職してからも私たちの交流は続いた。

 忙しくても、辛いことがあっても、彼女となら乗り越えられる。そう思っていたのに。


 突如として現れた「魔王」ーーそれは全てを奪っていった。

 ルナシアさんは魔王と戦うことを自ら志願し、国を世界を守ろうとした。彼女がそう決めたのなら、私に迷いはない。

 共に戦う道を選んだ私だったが、情けないことに魔王に為すすべもなく倒されてしまった。しばらく気絶していたのだろう。再び目を開けた時、飛び込んできたのは崩壊する世界と、動かなくなったルナシアさんの姿だった。

 誰かが抱き起こしてくれていたようだが、その腕の中でぐったりと横たわる大切な親友。

 叫んだだろうか、泣いただろうか、怒っただろうか。その後の記憶は定かではない。だが、彼女のことを守れなかった。その事実だけははっきりしている。


 おそらく、私は世界の崩壊とともに人生を終えている。

 だが、気づけば村が魔獣に襲われ、ルナシアさんに助けられたあの日に戻っていた。

 声をかけることは叶わなかったが、あれは確かに彼女だ。助けられなかったはずの、親友の姿だ。


 少し落ち着いてくると、あの時とは違うこともあることに気がついた。

 まず、母が生きていること。そして、ルナシアさんが王都から離れ、ファブラス家の養子になったことだ。

 母が生きていたことはとても喜ばしく、ルナシアさんには更なる感謝をした。

 だが、ファブラス家の養子になったことを噂で聞いてからは、会いたくても会えない生活が続いていた。


 それから二年が経ち、私は闘技大会に出場することにした。

 上位三名に残れば、可能な限り欲しいものが与えられる。まず私が望むのは母と安心して暮らせる場所だが、もう少しわがままを聞いてもらえるのなら騎士団の訓練場への出入りを許可して欲しい。

 それは、いずれ来るであろう魔王と渡り合うだけの力を身につけるため。今度こそルナシアさんを守るためだ。


 そう思って参加した闘技大会では、これまでの記憶があるので順調に決勝まで勝ち進むことができた。何としてでも勝たなくてはならない、その一心だった。

 だが、そのせいでとんでもない見落としをしていた。まさか、闘技大会とはいえ、ルナシアさんに剣を向けることになるなんて……。


 世界崩壊の日、動かなくなったルナシアさんの姿を思い出して手が震えた。

 もし、万が一、大怪我をさせてしまったら。私の今の力は子どものものではない。

 いくらホロウとはいえ、まだ子どものルナシアさん相手に戦って大丈夫だろうか。


 そんな不安を消し去るように、彼女は「私は死なない」と言った。

 その言葉に勇気づけられ、私は剣を握りしめる。

 そうだ、こんなところで彼女は死なない。死なないように、私が守る。


 怪我をさせないように戦えば大丈夫ーーそう思っていたが、私は自分の力を過信しすぎていた。

 ルナシアさんは、この頃から強かった。私の攻撃をいとも容易く防ぎ、見事な魔法の連撃を見せてくれた。

 勝敗の決め手となった光線の威力も、私が子どもの身体だったとはいえ、耐え抜くことができなかった。


 やはり、ルナシアさんは凄い。いつも私の想像を超えてくる。

 だが、ここで簡単に負けてしまうようでは、魔王からルナシアさんを守るなんて無理だ。

 強くならなくては。以前の自分より、もっと。

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