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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第1章 幼少期編
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9 闘技大会4

 十歳未満の部は二つのブロックに分かれており、私は第一ブロックに含まれる。

 分かっていたことだけど、ガザーク家の人が多いね。リトランデ様とは部が違うから当たることはないけど、その弟の名前はあった。なぜ弟だと分かるのかというと、一回戦の対戦相手であり、ガザーク家御一行様と話している時に紹介してもらっていたためだ。


「はっはっは、一回戦からうちの息子と当たるとは運命だな。楽しみだ」


 試合前、アレグリオ様は豪快に笑っていた。これだけガザーク家の人がいれば、当たらない方が難しいと思うんですけどね。


「兄上、兄上。この人が()()ルナシアさんですか?」

「ああ‥‥‥あまり迷惑をかけないようにな」


 リトランデ様に隠れるようにして、少年がちらちらとこちらの様子を窺っている。どうやらリトランデ様の弟のようだ。見た目はリトランデ様を小さくしたような感じかな。

 それにしても、()()って何ですか。リトランデ様も気まずそうな目をしているし。


 何やらリトランデ様に確認をとってから、弟君はリトランデ様の後ろから前に出た。


「はじめまして、僕はアルランデ・ロイ・ガザークです!」

「こちらこそはじめまして。私はルナシア・ホロウ・ファブラスと申します」


 元気よく挨拶してくれたアルランデ様だったが、「本物だ!」とよく分からないことを口にしていた。理由はすぐに分かったけどね。


「僕、あなたの武勇伝を聞いて、とても憧れてるんです! 鮮やかに氷を操り的を爆裂四散させた姿は、まるで氷の妖精のようだったと」

「そ、そうなんだ‥‥‥」


 だいぶ話が盛られている気がする。爆裂四散と妖精って、どう考えても繋がらなくないだろうか。


「憧れの人と対戦できるなんて嬉しいです。よろしくお願いします!」


 うう、そんな期待の眼差しを向けないで。あれは事故だったんだって。子どもの純粋なまなざしが刺さる。見た目だけなら私も子どもなんだけどね。



 開会式のあと、私の番はすぐに回ってきた。十歳未満の部が一番最初だからね。

 私とアルランデ様の名前が呼ばれ、リングへ向かう。その周りにはイディオやガザーク家の人たち(大勢)、一般の方など、観客で埋め尽くされていた。やりづらい。後ろの方の人とか見えてるのかな?

 審判員の背後には来賓やスタッフの人たちの席があるので人だかりはできていない。あ、ディーン様がすごい笑顔でこっちを見ている。仕事に集中してくださいね。


「では、はじめ!」


 審判の合図で、向かい合っていたアルランデ様の表情が真剣なものに変わる。その顔つきは、小さくとも武術の名家ガザークの子であることを物語っていた。

 私は魔法で戦うので武器は持ち込んでいない。アルランデ様は父親と同じく、子ども用に調整された片手剣を構えている。将来はアレグリオ様のようになるのだろうか‥‥‥その姿を想像しそうになって、やめた。


 先手はアルランデ様がとった。

 勢いよく飛び出してくるアルランデ様。距離を詰めたところで剣を振り上げる。なかなかのスピードだ。

 ――と、私はそれを眺めていた。最初は様子を窺いたい。イディオとアレグリオ様の戦いを見ているので、とんでも攻撃をされる可能性を考慮してのことだ。アレグリオ様は人間離れしすぎだと思いますけどね。


 警戒はしていたが、特に何か仕掛けてくる様子はない。見たまま、間合いに入ったところで剣を振り下ろして終わりだろう。

 間合いに入る寸前まで私が動かないので、アルランデ様の顔に不安の色が過った。このままだと大怪我を負うだろうし、だからといって振り下ろす勢いはもう止められないだろうからね。でも、心配はいりません。大丈夫です。


 結果として、アルランデ様が間合いに入ることはなかった。入ることができなかった、が正しいかもしれない。

 私は無詠唱でバリアを自分の周囲に張って攻撃を防いだ。透明だから、気づかなかったと思うけどね。審判の人はアルランデ様を止めなかったので、気づいていただろうけど。

 勢いよく振り下ろされた剣は弾かれ、アルランデ様はバランスを崩して尻餅をつく。おおっ、と観客がどよめいた。


 私が得意としているのは、攻撃系の魔法ではない。防御や治癒だ。攻撃系の魔法は詠唱しないとまだ調整が難しいけど、防御や治癒の魔法はほぼ無詠唱で使うことができる。


『風よ、運べ』


 前に、グランディール様を木から下ろした魔法の応用だ。無防備な状態のアルランデ様を風魔法で包み、リングの外へ。フィールドから出ても負けになるからね。

 浮き上がったアルランデ様はしばらく抵抗していたけど、そう簡単に抜け出せる仕様にはしていない。変な落ち方をしたら危ないからね。そのまま場外へ運び、勝負はついた。

 本当は、もっと激しい戦いを繰り広げた方が盛り上がったんだろうけど、自分の攻撃の反動で態勢を崩している状態だったからね。これ以上の追い打ちはかけられない。


「負けちゃいました‥‥‥」


 リングの外で座り込むアルランデ様に、私は手を差し伸べる。


「試合、ありがとうございました」

「ありがとうございます。‥‥‥噂通り、いえ噂以上でした。さすがは妖精、戦い方も綺麗なんですね」


 差し伸べた手を掴み、アルランデ様は立ち上がった。


「僕、たくさん訓練して、父上を超えるような戦士になります。そしたら、また対戦してくださいね」

「はい、私も負けていられませんね」 


 よかった、落ち込んではいないみたいだ。でも、アレグリオ様のような人間離れした肉体を手に入れたアルランデ様を想像して、この可愛らしい少年も変わってしまうのだろうかと複雑な心境になった。



 その後も順調に勝ち進み、決勝戦まで残ることができた。


「お疲れ様です。さすがは、お嬢様。本当に最後まで残りましたねぇ」


 飲み物や軽食を手渡してくれながら、イディオが労ってくれる。空いた時間で私は消費した魔力を補給していた。

 決勝は、第一ブロックと第二ブロックで勝ち残った人同士が戦うことになる。第一ブロックの代表が私というわけだ。


 第二ブロックでも決勝に進む人が決まったみたいだ。対戦相手になる人だね。どんな人なんだろう。

 たった今、勝負がついたばかりの第二ブロックのリングに目をやり、私は驚いた。

 そこに立っていたのは、バンダナをした銀髪の少女。背筋を伸ばした美しい後ろ姿。その頼もしい背中。振り返ったその顔を見て、疑念は確信に変わった。


 もしかして――エル?

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