9 闘技大会3
迎えた闘技大会当日。見事なまでの快晴だった。
延期になることはなかったけど、「これだけ天気がいいと、倒れる観客がいそうですね」とディーン様が気怠げに零していた。ディーン様もお仕事頑張ってください。
会場はトーナメント表が張り出されている城下町の広場。特設の正方形のリングが設置されており、そこで戦いが繰り広げられるわけだ。
周囲の建造物や観客たちに被害が出ないよう、魔導士がリングの周囲にバリアを張ることになっている。ディーン様はこちらのバリアも担当されるらしく、休む暇がないとはこのことだ。ディーン様ならできちゃうと思うけど、ちょっと頼りすぎじゃないかな。
広場までは一緒に来たが、ディーン様とはここで一旦別行動だ。
「では、私はここで。ルナシアさんの活躍はしっかりこの目に焼き付けておきますからね。また夕食の席でゆっくりお話ししましょう」
キラキラした笑顔で去っていくディーン様を見送っていると、ちょうど会場入りしたガザーク家御一行様と鉢合わせた。
そう、御一行様なのだ。ガザーク家全員が集まったんじゃないかというくらい、ご当主のアレグリオ様をはじめとして、リトランデ様やその他大勢がぞろぞろと列を成していた。
「おお、ルナシアではないか!」
「お久しぶりです、アレグリオ様」
「息災だったか? この大会に出るということは、訓練も順調といったところだろう。今回は息子がどれだけ強くなったか見るために来たのだが、お前の戦いぶりを観戦するのも楽しみにしていてな」
「ご期待に添えるように頑張ります」
アレグリオ様との挨拶を済ませると、その後ろからリトランデ様が歩み出た。おお、身長がだいぶ伸びましたね。私と変わらないくらいだったのに、すっかり見上げる形になっている。
「ルナシアさん、お久しぶりです。初参加だと思いますので、くれぐれも怪我には気をつけてください」
「ありがとうございます。リトランデ様も今年から部が別になるんですよね? 頑張ってください」
「はい、優勝を狙っていきます」
「ルナシアに触発されたのか、やっとリトランデにも闘争心が出てきて儂も安心した」
あぁ……リトランデ様、そんな好戦的な人じゃなかったはずなのに、性格変わっちゃってたらごめんなさい。
「ところで、お前は出ないのか?」
アレグリオ様が一緒にいたイディオに問う。
「はい。今回はお嬢様の応援に徹しようかと」
「そうか、勿体無い気はするがな。お前ならいいところまでいけるだろうに」
「はは……買い被りすぎですよ。アレグリオ様こそ参加されないのですか?」
「出たいところではあるが、儂は殿堂入りしとるからなぁ」
おおう……さすがです、アレグリオ様。
今回の大会(毎回かもしれないけど)、見てわかる通りガザーク家御一行も出場している。アレグリオ様のご子息やその親族たちが子どもの部、大人の部ともに占めているため、上位をガザーク家が独占なんていうことも珍しくないらしい。
この大会は貴族以外も、もちろん参加している。貴族だから賞をもらえているという誤解や、毎回代わり映えしないメンバーにならないよう、連続で三回以上優勝した人は殿堂入りし、参加を遠慮している。
イディオが出場しなかったのは、私の従者としての仕事に徹するため。というのは建前で、ガザーク家の人間と戦うことにまだ抵抗が残っているためだと思っている。
アレグリオ様との模擬戦で、イディオは闇魔法を使いかけた。また同じ状況になることを恐れているのだろう。
家庭教師として魔法学を教えてくれてるけど、闇魔法についてはほぼ触れない。さりげなく聞いてみても上手く話を逸らされてしまう。何か嫌な思いをしたことがあるんだろうか。
ガザーク家御一行様と話していると、続々と他の参加者たちも集まり、開会式が始まった。
この大会で各部門の上位三名に入賞した参加者には、それぞれ欲しい物が可能な範囲で与えられる。ガザーク家は常連になりすぎて辞退しているようだが、特に一般参加の人たちの熱の入りようは凄い。
開会式では、王族からの激励を受ける時間がある。国王ご本人がいらっしゃることもあるが、大抵は他の誰かだ。
今年は誰だろうと思って声のする方を見るが、残念。背が足りない。前の人混みで見えないよ。
すると、背伸びしているのに気がついてくれたのか、イディオが抱き上げてくれた。
「肩車はちょっと厳しいので、これで我慢してくださいね」
「ありがとう」
七歳ともなると結構重いはずだ。でも、助かるよ。
助けを借りつつ壇上に目をやる。今年、激励の言葉と始まりの挨拶を担当するのは、私のよく知る人だった。
久しぶりに見たグランディール様の姿。ああ、このくらいになると学園時代のグランディール様を彷彿とさせるね。大勢の人を前にしても、堂々と言葉を発している。緊張は微塵も感じられない。
「ここに、闘技大会の開催を宣言する。皆の健闘を祈ります」
挨拶を終え、群衆から拍手喝采が起こる。
ふと、群衆を見渡していたグランディール様と視線が合った気がした。
「あ」
笑った。
グランディール様、子どもの頃はちゃんと笑えてたんだね。学園時代は笑顔が貴重だったんだけど。
いつも難しいこと考えてて、笑う暇もなかったのかもしれない。彼が抱える重圧は、簡単に言葉にできるものじゃないだろう。
もし、また同じように運命が進むのなら、今度はもう少し助けになりたいな。




