二人の騎士(エル視点)
魔王との戦いが終わり、世界は平穏を取り戻しつつある。魔獣がいない世界という、今を生きる者たちにとっては馴染みのない生活が始まった。
「エルさん、おおおおお話があります!!」
宮廷騎士として働く私は、魔獣がいなくなってからも、治安維持のために仕事を続けている。
今日は、同じく宮廷騎士のアルランデ様と一緒に城下町のパトロールに出ていたのだが、勤務時間終了後すぐに呼び止められた。
「パトロール中に何か問題でも?」
まだ隊長職を解かれていない身としては、些細な問題でも見過ごすことができなかった。
「あ、いえ……とても私的なことなのですが。少し場所を変えても構いませんか?」
顔を真っ赤にしながら、アルランデ様は近くのレストランを指差す。
ちょうど夕飯時だし、幸いにして今日は予定も空いていた。魔王との戦いが終わってから、騎士仲間たちとゆっくり話す時間もとっていなかったし、彼には昔からお世話になっている。
悩み事の相談相手として選んでもらえたのなら、期待に応えなくては。
「いらっしゃいませ」
「二名で予約していたアルです」
「お待ちしておりました。こちらになります」
ガザークという貴族の名を出さなかったのは、ここが城下町の民の憩いの場だからだろう。気を使わせては申し訳ない。
「予約していたのですか?」
「は、はい。人気店なので、夕飯時は待たないといけないことも多いので」
案内されたのは、個室の席。私的な話だと言っていたので、他の人に聞かれるのは気まずいのだろうか。
席に着いたアルランデ様は相変わらず緊張した面持ちだった。
「とりあえず、コースは頼んでありますが、他に食べたいものや飲みたいものがあれば、自由に注文してくださいね」
相談に乗ってもらうので、今日の会計は僕が持ちますと申し出をされた。流石にそれは悪いと断ったが、アルランデ様も引かなかった。
ここまで言われて断るのも失礼なので、お言葉に甘えることにする。
「ありがとうございます。それで、話とは?」
サラダとスープが運ばれてきたあたりで、私は話を切り出した。
「あー……その、エルさんは、今後はどうされるおつもりですか?」
曖昧な問いに、何と答えたものか思案する。
「魔王が倒されたとしても、私の目的は変わりません。ルナシアさんを生涯をかけてお守りします」
私が騎士になった最大の理由。
魔王との最終決戦の時、私は最後の最後で気を抜いてしまった。グランディール様の守護の力がなければ、またルナシアさんを失っていたかもしれない。
あれほど神経を尖らせていなければならないと思っていたのに。何度も自分を責めた。
王太子妃となるルナシアさんは、今後も様々な危機に直面するだろう。それを傍でお守りする。魔王戦での失態を、生涯をかけて挽回する。
「エルさんは、昔から変わりませんね」
少し肩の力が抜けたのか、アルランデ様は笑った。
「実は、気になる人がいるんです」
アルランデ様は、そう口にした。
おや、それはそれは。私が聞いてもよい話かと思ったが、あちらから誘われたのだから問題ないかと思い直す。
「そういう話は初めて聞きますね。どんな方なんですか? はっ、もしやルナシアさん……」
「違います! 違います! ルナシアさんは確かに素敵な方ですが、そういうんじゃありません!! 同じ騎士の方です」
宮廷騎士の同期として働いていたが、騎士団の中に気になる存在がいるとは初耳だ。はて、どの隊員だろうか。
一応、同期ではあるが私が隊長なので、相談しておくべきだと判断したのかもしれない。アルランデ様は真面目な方だから。
「仕事に支障が出るのなら別ですが、そうでないのなら恋愛は自由ですよ」
「そうですか……それなら、大丈夫かな」
「嫌でなければ、誰なのかお名前を聞いても?」
そう問えば、アルランデ様は姿勢を正す。
「エルさん」
「はい」
「僕が気になっている人というのはーー」




