王女と皇子(ヴァールハイト視点)
魔王との戦いが終わり、世界に平和が訪れました。
二度目の世界で、ラーチェスをはじめとして、サフィーア帝国の民や大切な友を失わずに済んだことを、心から喜ばしく思います。
しかし、僕たち竜人には、まだ解決しなければならない問題が残されていました。
そうーー伝説とされていた銀竜が生きていると世界中の人々に知られ、再び襲われる可能性が出てきたのです。
今では、サフィーア帝国が建国されているため、銀竜の住処そのものを奪おうと考える輩は、よっぽどでなければいないでしょう。
しかし、銀竜の鱗や瞳などに、素材としての価値を見出す者は、少なからずいるはずです。
かつても、毒が効かない体、真実を見抜く瞳など、銀竜のもつ能力を手に入れられると信じて襲われたと聞きます。実際のところ、銀竜の鱗は毒に反応するなど、僅かであれば効果が見られるものもあるので厄介です。さすがに、真実を見抜く瞳は、本来の持ち主を離れた時点で効果を失いますが。
簡単に外部の人間の侵入を許すほど防衛は甘くないはずですが、これまでより危険性が高まったのは確かでしょう。
世界が無事に救われたわけですから、銀竜たちの安全のために頑張らなくては。
そう思っていた矢先。
「婚約ですか?」
父から告げられたのは、僕の婚約者候補が挙がったので、顔合わせをするようにということだった。
「国の防衛を強化するためにも、この婚約は重要な意味を持つ。まずは会ってみなさい」
すっかりグランディール王子とルナシアさんの結婚の話で忘れていましたが、僕も皇子なのでした。いつまでも避けては通れない問題です。
今回の婚約の話は、当人同士の意思というより、国同士の関係強化の意味合いが強い気がします。
正式な婚約かはともかくとして、まずは会ってみるとしましょう。
実際に顔合わせをしてみると、竜の瞳を使うまでもなく、信頼できる人物だと分かりました。
「グレース王女?」
「お久しぶりです、ヴァールハイト様」
城の応接間で待っていたのは、落ち着いた青のドレスに身を包んだ、エルメラド王国第一王女、グレース殿下でした。
父上が、国の防衛の強化のために、と言っていた理由がよく分かりました。エルメラド王国の王族との結婚であれば、国防の強化は間違いないでしょう。
「魔王との戦いでは、あなたも戦場に立ったと聞いて、驚きまシタ」
「ルナたちが戦っているのに、私だけ見てるのは嫌だったから。もう、後悔はしないって決めたので」
そう言って微笑む彼女は、初めて会った時よりも成長したように感じます。
「ヴァールハイト様も、あの戦いでは獣人や竜族を説得してくれましたよね。そのおかげで、魔王にも打ち勝つことができました」
「僕自身は戦力になりませんカラ。できることを考えた結果なのデス」
魔王との戦いの後、しばらくエルメラド王国に滞在していたので、グレース王女と話す機会はありました。
裏表がなく、明るく朗らかな素敵な女性だったので、またいつか会えたらと思っていましたが、まさかこんな形で実現するとは。
「正直、私も婚約っていうのはまだ実感がないんですけど……ヴァールハイト様のことは、もっと知りたいと思います」
偽りのない、まっすぐな言葉。そんな彼女に、僕も好感を抱いているのは確かです。
「まずはお互いのことを知るために、候補ということでよろしいデスカ?」
二人は固い握手を交わす。
「この婚約が今後どうなったとしても、私は銀竜や竜人を守るために力を尽くします」
力強くそう話す彼女を見て、この婚約が白紙に戻ることはないような予感がした。




