父と息子(グランディール視点)
イルグランツがもう少し成長したある日ーー
「おい……おい、起きろイル」
「んん……? あれ、父上? おはようございます」
「もう夜中だぞ。また読書したまま眠っていたのか」
王子が見つからないと慌てた使用人たちの声を聞き、またあそこだろうなと私は足を運んだ。
予想通り、イルはルナシアたちが使っている研究室に入り浸り、今日も難しそうな魔導書を読んだまま居眠りをしていたようだ。
「気をつけてはいるんですけど、ついつい夢中になって時間を忘れてしまうんですよね」
「夢中になれることがあるのはいいことだが、身体を壊しては元も子もないぞ」
「子は親を見て育つと言いますし、父上がご自身のお身体のことを気にするようになれば、僕も生活を改めるかもしれませんが」
「む……子に諭されるとはな」
体調の変化や心の機微に、イルはよく気がつく。まだ若干12歳だというのに、大人顔負けの観察眼を持っているようだ。
王太子として、毎日慌ただしくしている父親を見て、イルは心配してくれていたようだ。
「授業に影響が出ない程度にはセーブしていますから、そこはご心配なさらずに」
家庭教師によると、歳の割に非常に優秀で、教師の方が焦らされる場面もしばしばあるらしい。
勉強熱心なところは、母親に似たのだろうか。
「やることはきちんとやっているだけに、厄介なんだがな……」
「こればっかりは、僕の趣味なので。でも、せっかく父上から忠告を頂いたので、今日のところはこの辺にしておきます」
パタンと本を閉じて、イルは自室に戻っていった。
我が息子ながら、自分より遥かに優秀だなと感心してしまう。
時折無茶をしてしまうところは、ルナと重なってしまい、心配にもなるのだが。
本当に危険なことに首を突っ込もうとする日がくるのなら、その時は見過ごせない。
父親として、全力で止めるかーーあるいは、全力で力になるか、だ。ルナの子であるなら、止めても聞かないかもしれない。その場合は、一人で立ち向かわないようにしなければ。
平和になったこの世界で、そんな事態が起きるかは分からない。だが、私たちには魔王と戦った日の記憶が、鮮明に残っている。
一歩間違えれば、ルナはここにいなかったかもしれない。そうすれば、イルも……。
守りたいものがふえた分、悩みは尽きない。だが、何とも贅沢な悩みだと思う。
次期国王として。一人の夫であり、父親として。
大切なものを最後まで守り抜いていこうと、強く誓った。




