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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第6章 宮廷魔導士編
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39 魔王8

 レイ王国から駆けつけてくれたレイディアント殿下の服は、所々汚れていた。ここにくるまでに、既にレイ王国でも魔獣たちと戦いを繰り広げてこられたのだろう。


「レイ王国は大丈夫なのですか?」


 私の問いかけに、レイディアント様は力強く笑ってみせる。


「あちらはあらかた片付けて来た。残りはラディたちが何とかしてくれるさ」


 双子の弟であり、レイ王国の現国王として国を治めているラディウス陛下。ホロウである自分がいなくても、あの国は大丈夫だという、レイディアント様の信頼が感じられた。


「伝説だと言われていた銀竜に、人間といがみ合っていたはずの獣人たちまで……君といると、本当に驚かされることばかりだね」


 エルメラド王国の戦場を見て、レイディアント様はそう言った。

 私だって驚いている。これだけのひとたちが集まり、同じ目的のために戦っているなんて。


「魔王……あいつからは、僕が十年間戦い続けた魔獣たちと同じ気配を感じるよ。やっぱり、あいつが魔獣たちの親玉なんだろうね」

「魔王を倒せば、すべて終わるのでしょうか?」

「それは、倒してみないことには何とも。でも、百年近く悩まされていた魔獣たちの元凶が魔王なら、ここでその歴史を終わらせることができるかもしれない」


 その言葉に、頷く。


「ここで終わらせましょう、必ず」


 この世界の未来のためにも、これまで戦い続けてきた同胞たちのためにも。

 長い魔の歴史は、ここで断ち切る。


 魔王が、私たち二人の姿をとらえた。攻撃対象が私とレイディアント殿下に移ったようだ。その方が、周囲の人々を巻き込む危険性が低くなって好都合である。


「共闘は初めてだけど、君とならうまくやれると信じているよ」


 十年近く、レイ王国の魔界の門から吐き出される魔獣たちを相手に戦ってきたレイディアント様。実戦経験は私より遥かに上だろう。


「経験では敵わないと思いますが、全力で臨みます」


 目配せをして、私たちは魔王に向かって攻撃を開始する。

 レイディアント様は、無数の小さな光の球をつくり出し、四方八方から魔王に浴びせる。その攻撃は休むことなく続き、流石は長い間、魔界の門からの侵略を食い止めてきた持久力だと感心してしまう。

 しかも、正確に魔王だけを攻撃するようにコントロールされており、魔王に接近を試みる私には一切攻撃が当たることはなかった。


 さすがの魔王もレイディアント様の魔法を対処するのに忙しいらしく、近づく私の方に攻撃を仕掛ける余裕はないようだ。おかげで、難なく魔王まで数歩の距離まで接近することができた。

 いくらホロウといえど、相手は魔王。生半可な攻撃ではダメージを与えられない。危険でも、近距離から攻撃する必要があった。

 移動しながら、溜めていた光の魔力を放出する。光の鋭利な刃物は、魔王に直撃した。


「効いてるみたいだ! 援護するから、そのまま続けて!!」


 レイディアント様の声が響く。その言葉の通り、あれほど余裕そうに見えた魔王が、一瞬ぐらつくのが分かった。

 勝機は、ある。

 それが分かっただけでも、力が身体中からみなぎってくるようだった。


(今度こそ、この世界は壊させない。倒してみせる、必ず!!)


 魔王と目が合う。


「ナ……ゼ」


(今、言葉を?)


 その時、確かに魔王が喋るのを聞いた。

 それと同時に、魔王の手が私に向かって伸びる。それを遮るように、素早くレイディアント様の光の球が降り注いだ。


「どうしたんだい!? 戦場で気を抜いたら、命はないぞ!!」


 レイディアント様の怒号が飛ぶ。


「申し訳ありません!! 集中します」


 駄目だ、余計なことを考えては。魔王を倒す。今すべきは、それだけ。

 魔王が何を考えているのか、それに意味を見出そうとしてはいけない。魔王がこの世界を壊そうとしていることは、紛れもない事実なのだから。


「魔王、あなたにどんな事情があるとしても、この世界を壊そうとする限り、許すことはできない」


 私の言葉を理解したのかどうかは分からない。だが、ギラついた赤い瞳を私に向けるだけで、再び言葉を発することはなかった。


 降り注ぐ光の球、近距離から振りかざされる光の刃。それらが、闇の力とぶつかり合う。

 激しい攻防が、どれほど続いただろう。

 いつまでも終わることなく続くかに思われた戦いにも、終焉の時が訪れる。


 それがたとえ、どんな形であっても。

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